呪われ皇子たちに賄賂を ②
甲虫やクモが苦手な方はご注意ください。
どちらかというとシュールなエイリアン系や、カワイイ系の異形を目指しており、基本的な特徴以外、詳細な描写はないはずですが……。(あくまで当社比)
グレーの色味が残ったロシアンホワイトの毛並み。
所々で濃淡を変え、黒や薄茶の差し色も入っている。
肌をかすめただけでもわかる上質の毛ざわりはアリアをうっとりさせた。
「モフモフの毛並みが予想され、ワンチャン期待で手が止まりません。吸い寄せられるぅ」
カーテンの裾からはみ出ていたのは、毛を逆立たせたイヌ科の尻尾。
先のほうを勝手に櫛で梳かせば、声を裏返えらせた第四皇子は固まってしまった。
「櫛を持つ手に毛先の誘惑……。撫でたくなるのは私のせいではありません。なんとフェナリス殿下は魅了の魔法使いだったようです。ぜひ手櫛で梳かせてください。いいですか? ありが……」
「勝手をするなっ。それに俺は犬じゃないっ」
アリアの手は気を取り直したオオカミ皇子の尾に振り払われた。しかしそんなに痛くはない。
まったくの誤解だが、犬呼ばわりは許しがたいのか、ぷんぷん皇子は遅れても律儀に反応した。
拒絶感が強い相手とのやりとりは、どんな言動が返ってきても、むしろご褒美。
つれない態度を気にしないアリアはくるりと反転し来た方向へと戻ると、開けたままだった扉を閉めた。
扉の影に隠れていた――甲殻類エイリアンのコスプレ中にしか見えない――美少年と、しっかり視線が交わる。
二足歩行で人型の彼はポンチョのような服で全身を覆っていた。
甲虫にも似た外殻に人面……服装も相まって、アリアの頭に浮かぶのはドイツ生まれの拷問器具。
浮き彫りになっている顔のパーツからは、人相が整っている事が見て取れる。
虚を突かれた第二皇子が立ち尽くしている内に、汚れてもいない彼の左頬をアリアは持参したタオルで手早く拭いた。
「伝説の剣だろうと手も足も出なさそうな甲殻は、まさに守護者のカッコよさ。――多少は持ちが良いと思うので、ウィルシェル様さえ良ければ、こちらを使ってみてください」
魔獣の副産物で作った特別製のタオルであれば、ヤスリを拭いても早々へたる心配はない。
こんがり焦がしダークブラウンの肌は滑らかに見えて、極小の尖った凹凸がある。
長兄曰く、水や汗を拭う布が摩耗しやすく頻繁に処分せざるを得ないのを、おろし金肌の皇子は地味に申し訳なく思っているらしい。
頬ずりすれば流血案件なのは残念だが、彼の年齢的に、どっちみち断られたはずと自分で自分を慰める。
いっこうにタオルを受け取ってもらえず、アリアの眉がハの字になりかけたところで、無反応だった第二皇子がハッと我に返った。
「え、あ、はい、ウィルです。ありがとうございます」
じわっと深まった頬の赤みがアレルギー反応かどうか、念のため経過観察しておこうとアリアは心のメモをとる。
「ねぇねぇ、オレは?」
次兄がお土産を受け取らされたのを見たせいか、好奇心いっぱいの声が頭上から聞こえた。
天井近くの壁に特大のクモっぽい――フェナリスの双子の兄――皇子が張り付いている。糸でできた巣は見当たらない。
前世でいうならハエトリグモ系統か。
大きくてつぶらな黒曜石の目が並ぶ、ずんぐりむっくりコロンとしたフォルム。ふさっとした三毛猫カラーの短い毛で全身が覆われている。
バラバラな長さの脚たちが体勢を変える度に伸縮するところを見ると、脚の長さ調節はお手の物。
短くした脚を身体に引っ付ければ毛玉か丸いぬいぐるみにしか見えないだろう。
壁に伸ばしていた支え脚の一本を、エチケットブラシのように特殊な起毛布が付いた棒で撫でてみる。
脚に絡まりがちなホコリがしっかり取れているだけでなく、体表の毛とも相性は良さそうだ。
「アラ二アーク様には逞しい手足がたくさんあって、お得ですね。壁や天井を登れるなんて立派な冒険家。羨ましいです」
「冒険したいの?」
自分へ興味を持ってもらえた気がするアリアは微笑んだ。
「はい、旅の相棒はコリドラです。魔魚と一緒なら、度肝を抜く珍しいモノにも遭遇しそうでしょう?」
「ふーん、変わってるね」
「もっとブラシの数があったほうが良ければ仰ってくださいね」
「オレのことはアークでいいよ」
「ありがとうございます」
無言になったアラ二アークがしばし意味ありげにアリアを見下ろすと、脚を一本、下に向けて垂らす。
「……手で触ってみる?」
「いいんですか⁉」
「やっぱ、だぁめ」
第三皇子の言葉に飛びついたアリアの右手は空を切り、無情にもお預けを食らう。
「ぼ……ぼく、は…………?」
震える水まんじゅう状の皇子が、おずおずとソファの下から姿を現した。
アリアの脳は欲求不満 寸前。質問の完成形は『僕には触ってみたい?』だったと勝手に判断する。
「ふむ、失礼いたします」
アリアに触られた瞬間、びっくりしたスライムの体はカチンと硬くなった。
それでも遠慮なくグイグイもにゅもにゅ揉んでいると、ずぶずぶと手首まで濃い青色のゼリーに沈み込んだ。
指を少しだけバラバラに動かしてみる。
「あぁ、やだ。これは――癒されますね。感触がたまりません。スレィアム様は癒しの聖人ですか?」
「そ、そん……なとこ……さわっ、んぅん……」
「あっ、申し訳ありません。ご無礼をお許しください」
恍惚となるほどに、手の動きは大胆さを増していた。
お触り禁止区域に無断侵入した可能性に気づき、慌てて手を引き抜いたアリアは頭を下げた。
短く伸ばした二本の腕でお腹の辺りを確認する第五皇子。
「…………ゃじゃなぃ」
「ありがとうございます。こちら、これからよろしくね、と、ごめんなさいの気持ちです」
自主的に正座中のアリアは顎を引いて背中を丸めた格好で、スレィアムへ賄賂を捧げ渡した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
皇子たちの名前で読者様の目が滑りませんように☆彡
皇子の生まれ順・名前・異形のイメージ
①ドュレイグ(ドラゴン)
②ウィルシェル(人型・人面 甲虫甲殻類系のガワ エイリアンっぽさも?)
③アラ二アーク(クモ) ←双子→ ④フェナリス(オオカミ)
⑤スレィアム(スライム)
⑥グラウクス(アオミノウミウシ:別名 青いドラゴン、青い天使)




