呪われ皇子たちに賄賂を ①
第一皇子に協力するにあたり、アリアが出した条件は三つ。
故郷から使用人を呼び寄せること。
弟皇子たちが嫌がらない程度のお世話権。
そして彼らに関する情報収集および仲良くなるための贈り物をする許可。
『世話と贈り物は、弟たちが拒否しなければかまわない。だが………………毛だろうが指だろうが、キスはするな』
苦々し気に念を押すドラゴンは弟たちの情報をアリアに与えた。
竜の棲み処での強制的な療養期間。
兄が語る人物像を基に、弟皇子たちに役立ちそうな賄賂をケイリィに頼んで手配した。
準備万端、未成年帝族たちが過ごす共同部屋を訪れる日がとうとうやってくる。
末っ子以外の弟たちに、この時間は自室で客を待つようドュレイグが事前に伝えてくれていた。
ドラゴンに歯向かう度胸がない限り、彼らが室内に揃っているのは間違いない。
数日にわたるべったり期間を一緒に過ごし、アリアが傍を離れても戻ってくることがわかったグラウクスは安心した。家族以外が仕事の一環で近づいて来ても、前と同じように暴れずに過ごせている。
アリア一人がつきっきりで幼児の世話をするわけではないと聞き、妃教育も免除されるのなら暇を持て余すと確信した彼女。
他の皇子たちが寂しくならないよう少しでも交流したかった。
あわよくば希少な存在に触れて、意外な一面を見てみたいという邪とも言える欲望も当然ある。
知り合って数日とはいえ、刻一刻と成長する皇子たち。
抱っこに、手つなぎ、頭をなでなで。
通報されない範囲の触れ合いを、皇子たちが許してくれる時間は減っていく一方。
仲良くなるのに手こずってしまえば、取り返しがつかない。
異形の姿だからといって、絶対に触られたくないと思う皇子はどのくらいいるだろうか。皆無とは言わないが、アリアの考えでは極少数だ。
正式な婚約者同士の触れ合いなら、呪われたままの皇子たちが見ても心の折り合いがつくかもしれない――が、棚ぼたで人の温もりを手に入れた者が約一名。
例え身内に舞い降りた幸運でも、あぶれたのがもしも自分なら、アリアはズルいと不貞腐れる。数か月は軽く引きこもる。
長い付き合いになるであろう皇子たちとも仲良くなりたい彼女は賄賂の準備に余念がない。
下心たっぷりの贈り物を抱えたアリアは気合十分、むしろ興奮を抑えるために深呼吸し、扉をノックした。
「アリアです、失礼しますね」
返事がなくとも入室していいと、住人ではなくなった長兄から許可をもらっている。
廊下に控えていた使用人の一人に目くばせすれば、手が塞がっているアリアのかわりに扉を開けてくれた。
遠慮なく部屋へ足を踏み入れると、室内の至るところでガサゴソ物音がした。
「あら? 誰も顔を見せてくれないなんて、寂しい……」
わざとらしい独り言なので、敬語はなしだ。
独り言なのに、返事はあった。
「俺たちには話なんか、ないっ。好き勝手ほざいたら、さっさと出ていけ!」
主張から感じる中間反抗期の年齢――おそらく双子皇子のどちらか――のケンカ腰な言葉を『好き勝手してよい』のお許しだとアリアは解釈した。
「お近づきの印にお土産をお持ちしました」
「無理に僕らと交流せずとも問題ありません。僕たちの見た目は視界に入れるのすら嫌でしょう?」
存外近くから、第二皇子のものと思われる丁寧な口調の冷静な声がした。
「そんなことないですよ」
「嘘つけっ!!」
アリアは正直に答えたが、苛立っている声にまたも即座に否定されてしまった。
「好みの問題では? 私の顔も一目惚れされるほどではないので、人様の外見に文句はつけません」
「そんな問題かなぁ? みんな異形を気持ち悪がるか怖がるよ」
上から呆れたような声が降って来た。声質は違えど、幼さを感じないため双子殿下の片割れだ。
「殿下たちだとわかっているので仰られるほど……というか私にとっては、ぜんぜん気持ち悪くも怖くもないです」
皇子たちとアリアが初めて会話する日が今日。
前世のアリアの唇がどのような生物に挨拶し、転生した彼女が領地でどのように魔獣と付き合ってきたかなど、皇子たちは知る由もない。
提示できる根拠が乏しいせいで、誰もアリアの言葉を信じない。
幸せホルモン不足疑惑の皇子には、言い終わる前に鼻で笑い飛ばされた。
「んーと、みなさんは気配なく忍び寄って羽交い絞めにした人を暗がりに引きずり込んで鎖に繋いだり、死角から急に飛びかかって抑え込んだ人を気絶させて森に連れ去ったりしないでしょう?」
「はぁ? なんでそんなことするんだよっ」
「そんなことする理由がないよねぇ」
「当事者たちの美醜にかかわらず、正当な理由があっても人を拉致してはいけません」
いやに具体的な状況を挙げられた皇子三人は、それぞれ間髪入れずに否定した。
「でしょう? 急に自由を奪われるのは、どんな見た目の相手でも気持ち悪くて怖いですよね。そういうことしそうな雰囲気じゃないなら、私は人間、獣人、異形に魔獣、なんでも大丈夫です。――キスでの証明はできませんが、ハグで確認するなら私の腕が上でも下でも大歓迎」
「なんかズレてるってば」
「そんなことを言うのは貴方だけですよ、きっと」
皇子たちの異形については、城を案内してくれたユーリウスと画廊でばっちり予習済み。
どの皇子がどこにいるか把握したアリアは窓にこっそりと近づいた。
「誰かには好かれて、誰かには嫌われるんです。どちらが多いか少ないかでは? そもそも見た目だけで判断するなんてもったいない。やっぱり触ってみないと」
「触ったところで……ひゥッ―ー、う、な、ナニをする⁉」
身体の中でも特に敏感な、毛に守られた細長い部位を唐突に刺激された皇子の声は裏返った。




