第84話 収束 (1)
「まず怪我人の手当てが先じゃないか?」というリクの言葉を受け、取り調べの前に事態の収拾が始まった。
だが、既に天聖騎士団の連中が収容所内に乗り込んでいたようで、続いていた暴動も沈静化していた。
怪我人も多かったので、一時的に闘技場を治療所として扱うことになった。
俺達も手当てを受けるために闘技場へ向かう。
俺は深い傷もなかったので、治療にはそこまで時間はかからなかった。
聴取が始まるまでの時間に荷物の整理をしていると、リクが隣に座ってきた。
「お仲間はどうしたの?」
「食事の配給があるって聞いて、取りに行ってるよ」
「そうか」
ポーチの中も何も取られてないようだ。テオスの欠片もある。
その様子を見ていたリクが声を掛ける。
「それ、変わった形だね?どこで買ったの?」
「いや、これは買ったんじゃない。預けられたんだ」
「預けられたって誰に?」
「ユーリって女。初対面なのにいきなり渡してきたんだ。おかげで俺の人生めちゃくちゃだよ」
「それはご愁傷様だね」
「見つけたらただじゃおかねえ」
ゼインの瞳には憎悪が籠もっていた。
余程のことがあったのか。
そのとき、ログ達が食事を持って、こちらに歩いてきた。
「ゼインー!ご飯もらって来たよー!」
「おっと、そろそろ俺も治療してもらわないと。邪魔して悪かったね」
「ご飯食べてかないのか?」
「いや、俺はいいよ。それじゃあ」
どこか掴めない奴だな。
そう思いながら、彼の背中を見送った。
食事をしていると、ゼインは辺りを見回す。
こういうとき、騒ぐ奴の声が聞こえない。
「あれ、シリルはどうした?」
「あれ、ほんとだ。さっきまでいたのに」
「エフィ知らない?」
両頬が弾けそうなくらい肉を口に放り込んでいるエフィ。
暫く食事にありつけなかったからだろうな。
「…知らないか」
◆
目を瞑り、大きく息を吸った。
外の空気を吸うのは久しぶりに感じるな。
空を見上げると、太陽がもう真上に近い。
「リク、行っちゃうニャ?」
誰にも気づかれずに出てきたつもりだったのに。
リクはゆっくり振り返る。
「何でそう思ったの?」
「なんとなくニャ」
「野生の勘ってやつか」
リクは朗らかに笑う。
「そうだね。俺もそろそろ戻らないと怒られるから」
「ヴォルドと話しないニャ?」
「うーん、ああいう人と話すのは面倒なんだよね」
「…また会えるニャ?」
「会えるよ」
「分かるニャ?」
「なんとなくね」
そう言うと、リクはそのまま走り去って行った。
シリルが闘技場に戻ると、ゼイン達がヴォルドから聴取を受けているところだった。
シリルを見て、ログが声を上げる。
「あ、シリル!どこ行ってたの?」
「リクと話してたニャ」
ヴォルドがゼインとの話を切り上げ、シリルに問いかける。
「そのリクはどこにいる?話を聞きたいんだが、さっきから姿が見えなくてな」
「リクはもう行っちゃったニャ」
「何!?…全く。こちらの仕事を増やしやがって。その、君は…」
「シリルニャ!」
「シリルは彼がどんな奴か知っているか?どこに住んでいるとか」
「住んでる所は知らニャいけど、何でも屋って言ってたニャ」
「何でも屋…?まさか、いや、そんなはずは…」
ヴォルドは考え込むように口に手をあてる。
その様子を見て不思議に思うゼイン。
何でも屋だから何だというのか。
ただ定職につかず、フラついているだけだろう。リクらしいといえばリクらしい。
「今すぐにでも…!いや、もう遅いか」
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「君達は知らないのか?何でも屋という言葉の別の意味を」
「別の意味?」
「何でも屋、つまり依頼されれば何でもする。それはある組織の別称として使われている。組織の名は…ハクエイ」
「ハクエイって…」
「君達も知っていたか」
知らないはずがない。
ミナリやルルフ達が所属している組織で、何の目的か知らないが、テオスの欠片を集めている。
まさかリクが…?
そういえば、さっきテオスの欠片について聞かれた。まさかあれは探りを入れるためだったのか…?
くそっ、無警戒すぎた…!
ゼインは慌ててポーチの中身を確認する。だが、テオスの欠片は無事だった。
「最近奴らの動きが活発になってきている。先日のロムレスとタオウの戦争も、タオウに戦争を唆したのは、ハクエイという情報が入ってきている。俺達も目をつけているが、なかなかその尻尾を掴めていない。だが、組織の人数はかなり多いとみられている」
「リク、悪い奴ニャ…?」
ヴォルドの話を聞いてシリルが不安そうに呟く。
俺達の中でリクと一番長く過ごしたのはシリルだ。信じられないのも無理はない。
ゼインはポンッとシリルの頭に手を置く。
「リクは俺らを助けてくれたからな。ハクエイだろうが悪い奴じゃない。そうだろ?」
「そうニャ!リクは良い奴だったニャ!」
「何か彼は言ってなかったか?ここに来た目的とか」
あいつは特に何も言ってなかったが、目的は察しがついた。
俺に質問をした後に姿を消したんだ。
つまり、俺がテオスの欠片を持っている理由、それを聞くためだろう。
「多分俺が持っているテオスの欠片なんじゃないかな」
「テオスの欠片?君がそれを持っているのか!?」
「そ、そうですけど…。これが何か知ってるんですか?」
「いや、俺も何かは知らないが、奴らがそれを集めていることは知っている」
天聖騎士団でもその理由を知らないのか。
一体これはどういう物なんだろう。
でも、リクは何で盗らなかったんだ…?
盗ろうと思えば盗れたはずだ。
「もし君がよければ我々の方で預かろう。それを持っていれば、奴らに狙われるだろう」
「…いや、これはまだ俺が持っておきます。持っておけば、あの女が現れるだろうし」
「あの女?」
俺はテオスの欠片を手に入れた経緯をヴォルドに話した。
「なるほどな。そのユーリという少女の動向はこちらでも探っておこう」
「それは助かります」
「取り調べは以上だ。協力感謝する」
「俺達、明日にはここを出たいんですけどいいですか?行かなきゃ行けない所があるんで」
「ああ、問題ない。ユーリという少女について進展があれば、各地の冒険者支部に伝えておこう」
「ありがとうございます」
冒険者支部は大きな街に存在する冒険者支援組織だ。
主に住民らから依頼を引き受け、その依頼に適した冒険者に依頼をする繋ぎのような役割をすることが多い。
国を跨ぐような事案を取り扱う天聖騎士団が、冒険者支部と繋がりがあっても不思議ではない。
聴取も終わったので、俺は闘技場を離れようと歩き始める。
「ゼイン、どこ行くの?」
「ちょっと行きたい所があってな」




