第79話 追手 (5)
「私はアイミー。お兄さんのお名前を教えて?」
「名乗るほどの者じゃないよ」
リクは瞬時にアイミーの傍まで走る。
速い…!
アイミーは咄嗟に反応し、ナイフを眼前に突き出すが、既のところで避けられる。
「わぁ!お兄さん、強いのね!私が勝ったら名前を教えてくれる?」
「勝てたらね」
「約束だよ?」
アイミーはボタンを取り外し、上着の中に隠し持ったナイフを次々と投げ飛ばす。
…数が多いな。
リクは避けながら、アイミーとの距離を詰める。しかし、アイミーは投げ飛ばされたナイフを器用に操り、リクとの間合いを保つ。
フェイと対峙しながら、エフィはリクの戦闘を横目に見る。
あの男、アイミーと互角…いや、それ以上か。
「戦いの最中によそ見か?」
フェイの拳を避けるエフィ。
「ああ、すまない。私は心配性でな」
「自分の心配をした方が身のためだ。お前の戦い方は美しくない。能力に頼り切った戦いでは、俺の完璧な振る舞いには勝てない」
「たしかに、お前は上手く私の力を使っているな。だが、数値だけでは計れない力もある」
「何?」
地面に刺さっているナイフを抜き取り、リクはテグスを噛み千切る。
「わぁ!お兄さん、野性的!好き♡」
リクはナイフを使い、攻撃をくぐり抜ける。
それを見ると、アイミーはリクとの間合いを詰め、キスをしようと試みる。唇と唇が触れそうになるが、リクは平然と後ろに飛び退く。
アイミーはさらに口から唾を弾き飛ばすが、身体を捩らせ躱す。
「お兄さん、その能力。ただ速いだけじゃなさそうね?」
「へえ、意外に鋭いね。でも、あんたの攻撃はもう見切ったよ」
「嘘つきな男は嫌い!」
アイミーが投げ飛ばすナイフをリクは容易く避ける。
「あれ?」
テグスを引いてもナイフが戻ってこない。
まさか…。
「ああ、テグスならもう全部切ったよ」
このテグスは特別製で肉眼では見えにくい素材で作られているのに。
それを全部見抜いて切ったってこと?
この人、ヤバすぎ…!
慌てて距離を取ろうとするアイミー。
しかし、リクはその動きを予測し、アイミーの懐に飛び込むとナイフを深く突き刺した。
リクの手からナイフが離れると同時にアイミーは力なく倒れる。
霞む視界に映るリクに手を伸ばしながら、アイミーは呟く。
「もっと…愛したかったな…。もっと…愛され…たかっ…た…」
リクとアイミーの攻防に決着が着く少し前、エフィとフェイは素早い組み手を繰り返していた。
右、左、右足、これは陽動、また右。
こいつ、肉弾戦にかなり慣れているな。幹部というだけはある。
だからこそ私の能力を使っても無駄なく動けているのだろう。
戦いなんて久しぶりだから、身体がまだ鈍っているな。
フェイはエフィの片足を蹴り飛ばして体勢を崩す。そのままエフィの身体に拳を連続で放つ。
前腕で防ぎながらも、何発かまともに食らう。
「どうだ?自分の力に殴られる気分は?」
エフィは口から血を垂らしながらもフッと笑う。
「新鮮だよ。これも貴重な体験だな」
「そんな減らず口、利けなくしてやる」
俺の方が確実に優勢なはずなのに、何故この女はこれほど余裕なんだ?
エフィは口の中の血を吐き出す。
「お前はまだ力の使い方がなってない」
「俺は完璧だ。なってないのはお前の方だ」
「私が何年この力と向き合ったと思っている」
エフィは足に力を込め、突進する。
迎え撃とうと殴り掛かるフェイの拳を避け、宙を舞うエフィ。
壁を勢いよく蹴り、フェイの眼前まで迫る。
この距離は…!
防御体勢を取るフェイの額にデコピンを打ち当てる。
その刹那、フェイの頭が壁の中に沈んでいた。
パラパラと土粉が落ちるなか、フェイはピクリとも動かなかった。
「小僧が。身の程を知れ」




