第80話 合流
タツマとズックは来客用の通路を進むと、エンキが血を流して倒れていた。
「エンキ!」
タツマはエンキを慌てて抱き起こすが、彼の意識は戻らなかった。でも、辛うじて息はある。
一体、誰が…!
いや、今はそれよりエンキを医務室に運ばないと!
「おい!タツマ、何をしている!」
「ズック様…!出血がかなり激しく、このままではエンキの命が危険です。医務室に彼を…!」
「馬鹿者!そんな死にかけ、どうでもいいわ!」
「え…」
「早く脱獄者を追うぞ!」
「し、しかし…!」
「この私に逆らうのか!」
「い、いえ、そういうつもりでは…」
「お前達をここまで育てたのは誰だと思っている!このまま囚人共を脱獄させれば、私は身の破滅なんだぞ!分かっているのか!」
どうしたら…。
ズック様の指示に従わないと。
でも、このままエンキを放っておくわけには…。
「タツマ!早くしろ!」
「は、はい…!」
タツマはエンキを静かに横にする。
エンキ、待ってて。
すぐ終わらせて、戻ってくるから。
後ろ髪を引かれる思いで、タツマはその場をあとにした。
◆
「ゼインニャ!」
振り返ると、ゼインがこちらに走って来ていた。
ゼイン、良かった…!
ログは安心してホッと息をついた。
ゼインはシリルの姿を見て驚く。
「シリル!どうして!」
「リクに連れて来てもらったニャ!」
「リク?」
黒髪の男が挨拶するように手を挙げる。
「俺のことね」
「あんた、何者?」
「シリルから君達の脱獄を手伝って欲しいって言われてね」
「シリルが頼んだニャ!」
「…そうか」
シリルは警戒している様子もないし、ひとまず大丈夫か。
ゼインはリクを一瞥した後、シリルの傍にある俺の鞄と雷魔剣を見つける。
「俺の鞄!」
「ちゃんとシリルが見つけておいたニャ!」
ゼインはシリルを撫で回す。
「偉いぞ、シリル!」
ゼインは鞄の中から小瓶を取り出す。
ベオロクから作り出した薬はもう残り少ない。
使い切ったら、これを作り出すのはもう難しい。
それがどうした。
ここで使わなかったら一生後悔する。
小瓶の中から数滴垂らすと、傷口がみるみる塞がっていく。
「よし、おっさんの呼吸も整ってきた。あとは安静にしてれば大丈夫だ」
「よかった…」
ゼインの医療処置を遠目に見ながら、エフィは静かにリクに声を掛ける。
「リク、と言ったか。お前、本気で戦ってなかったな?」
「それはお互い様なんじゃないの?あんたも本気じゃなかったでしょ?」
「フッ、失言だったか。だが、もう少し手の内を晒しても損はないんじゃないか」
「敵を騙すならまず味方からってね」
話す気はないか。
食えない男だな。
「少なくとも今は味方同士だから、それで手を打ってくれないか」
「ふん。とりあえず、今はそういうことにしておこう」
スタングの容態が落ち着いたので、ゼインは周囲を見渡す。
「エフィが幹部を倒したのか?」
「いや、リクにも手伝ってもらってな」
「二人とも死んでるのか?」
エフィはこくりと頷いた。
「でも、殺さなくてもよかったんじゃない?」
ログは独り言のように呟いた。
「殺せるときに殺しておかないと、いつか痛い目を見るよ」
リクが諭すように答えた。
「それはそうかもしれないけど…」
この人の言っていることは分かる。
でもアイミー達だって、上から言われて仕事をしていただけなのに。
本心でこの仕事をしてたわけじゃないはずだ。
そのとき、通路の奥から迫る足音が聞こえてくる。
小太りの男が耳障りなダミ声で叫ぶ。
「お前達が脱獄犯か!よくもこんな騒ぎを起こしてくれたな!」
「アイミー!フェイ!」
傍にいるのは闘技場にいた幹部。
…カノーゴはやられたのか。
「エンキをあんな目に遭わせたのも君達か。殺される覚悟はできてるよね」
殺気の籠もった目でゼイン達を睨みつけるタツマ。
「エフィ、あんたはログとスタングを頼む」
「分かった」
「リク、あんたはまだ戦えるのか?」
「まあ、一応ね」
「じゃあ、援護を頼む」
「りょーかい」
やっぱりこいつは手に馴染むな。
久しぶりに手にした雷魔剣を持ち、嬉しそうに笑みを浮かべるゼイン。
「本気でいくよ」
タツマは竜巻を複数出現させる。
さすがにこれをどうにかできそうにないな。
ゼインとリクは竜巻を避けながら、タツマのもとに向かう。
しかし、避けたはずの竜巻が追いかけてくるように迫ってきた。
竜巻の動きも操れるのか。
リクは迷いなく走り込む。
「竜巻自体は凄いけど、あんたは強いの?」
「さあ、戦いが終わったら分かるんじゃない?」
「それもそうだな」
タツマは突風を放つ。
リクは難なく避けるが、追撃の竜巻が迫る。
「ちっ」
リクはタツマから距離を取る。
竜巻に隠れ、傍まで迫っていたゼインが斬り込む。
しまった!黒髪に気を取らすぎた…!
タツマの肩に剣先が僅かに触れる。
浅いか。
「タツマ!何をやっている!」
「も、申し訳ありません…!」
頭に血が上っている。冷静にならないと。
タツマはゆっくり息を吐く。
よし!
タツマは二人を視界に入れながら竜巻を操る。
しかし、どちらも足が速い。
それにどちらもお互いの動きを見ながら、こちらに攻め入ってくる。なかなか捉えきれない。
…!目の前に黒髪の男!
ナイフを振りかざしたリクの動きに合わせ、タツマは上半身を仰け反らせる。
だが、リクは即座に右足で蹴り上げる。
「グハッ」
なんだ、この威力は…!
ただの足が速くなるスキルじゃないのか。
地面に倒れるタツマを見て、ズックは胸ポケットから小箱を取り出す。
タツマ一人では、この二人には勝てそうにないな。
こうなったら…。
取り出した注射器をタツマの首に刺し、液体を注入する。
「まだ試作品だが仕方ない」
「ガハッ…アァッ…グッ…」
タツマは呻き声をあげる。
様子がおかしい。
あの男、一体タツマに何をしたんだ。
「グッガアァッ!!」




