第78話 追手 (4)
通路は一本道か。
来客用の通路ということもあって、複雑な道にしていないのだろう。これなら迷うことはなさそうだ。
エフィは目線を少し下げる。
スタングの呼吸はかなり浅い。
このまま医者に診せても間に合うか…。
そのとき、行く手を阻むように地面に一本のナイフが刺さる。
「やっほー。エフィちゃん、ログちゃん」
「アイミーか」
「脱獄なんて美しくない。ここで、俺が綺麗に殺してやる」
…幹部のフェイまで。
私が逃げると思っているから幹部をよこしたか。
「幹部の二人が来るとはご苦労なことだな。私の脱獄を止めにきたのか?」
「そうだ。厄災を外に出すわけにはいかないからな。もちろん、そこの女も含めてな」
「厄災って…。そんなひどい言い方…!」
「ログ、いいんだ」
「何を思おうが、その女が昔、街を半壊させたことには変わりない。そんな奴を外に出すわけにはいかない」
私がこの場に残っても、ログを素直に逃がしてはくれないか。
きっとログは会ったばかりの男であろうが、見捨てるようなことはしないだろう。
だが、ログの腕力ではスタングを運べない。
やはり、ここでこいつらを倒すしかないか。
エフィはスタングを地面に横たわらせる。
「ログ、スタングを頼む」
「うん。エフィ、気をつけて…!」
「ああ」
エフィはアイミー達と向かい合う。
「私のスキルは知ってるよね?私から出る体液は全て『酸』なの。だからね、エフィちゃんを私の愛で溶かしてあげる♡」
アイミーは腕を引くとエフィは小首を傾げる。
その瞬間、アイミーのナイフがエフィの髪を掠め、毛先が白煙をあげる。
「さっすが、エフィちゃん!」
「お前の手口は分かってる」
アイミーは自らの体液を刃先に塗ったナイフを使い、その柄にはテグスを付けている。
接近戦にも遠距離戦にも対応できる戦い方だ。
「じゃあ、私と一緒に愛し合おうよ♡」
アイミーの体液に触れれば私でも致命傷になりかねない。
それに、まだナイフを何本も隠し持っているはずだ。
「俺もいる」
目の前に現れたフェイと両手を組み合う。
コイツ、私と同等の力を…。
一体どういうことだ?
「俺のスキルは『複製』。相手の力を真似る能力だ」
「そんな付け焼き刃の真似事に負ける私ではない」
「真似る方が劣ると?それは違うな」
次第にフェイの力が強くなっていく。
くっ、マズい…!
エフィは投げ飛ばされるが、上手く身体を捻らせて着地する。
「腕の角度を十度下げる。踏み込む足の向きをあと二十二度右にする。そうすればもっと力を出せるぞ」
「敵に助言とは余裕だな」
「問題ない。癖というのは、そう簡単には直せない」
次々と襲い掛かるフェイ。その背後からアイミーがナイフを投げ飛ばしてくる。
思ったより手強いな。
連携された攻撃の数々に避けるだけで精一杯だ。これでは反撃できない。
力を解放すれば、まだ戦いようはある。だが、そんなことをすれば地盤に影響が出かねない。
どうするか…。
「ねえ、ログちゃん、油断してない?」
アイミーがログにナイフを投げ飛ばす。
しまった…!
「ログ!」
「隙だらけだ」
「ぐっ…!」
ログに視線を向けたとき、フェイに殴り飛ばされるエフィ。
ナイフがログの眼前に迫ったとき、見知らぬ男が現れ、そのナイフを弾き飛ばした。
「おっと。なんかお困りの状況みたいだね」
だ、誰?
男の顔に全く見覚えはなかった。
でも、僕を守ってくれたってことは味方?
すると突然、シリルが目に涙を浮かべながら、ログに抱きついてきた。
「ログ!」
「シリル!どうしてここに!?」
「ゼインとログを探しに来たに決まってるニャ!」
「…ありがとう、シリル!」
シリルの言葉につられて、ログも目を潤ませる。嬉しさのあまりシリルを強く抱きしめた。
男はエフィの横に並び立つ。
「お前は何者だ?」
「通りすがりの助っ人ってとこかな」
「まあいい。とりあえず助かった」
「一人は俺が受け持つよ」
「それは助かる」
この男のスキルは分からないが、フェイのスキルは厄介だ。
私が引き受けた方がいいだろうな。
「アイミーを、いや、女の方を頼む。奴のナイフには体液が塗られている。掠っただけでも皮膚が溶ける。気をつけろ」
「りょーかい」
「やだっ!カッコいいお兄さんと愛し合えるなんて嬉しいな♡」
「悪いけど、俺は君に興味ないな」
「じゃあ、私に振り向かせてあげるね♡」
頬を緩ませナイフの刃先を舐めるアイミー。
エフィとフェイの視線が交わる。
「お前は俺には勝てないぞ」
「それはどうかな?」




