第77話 追手 (3)
あの日、闘技場で戦ったとき合成獣から雷撃を身体に溜め込んで放出することができた。
それなら、自分で生成した稲妻を常に身体に蓄えることができるんじゃないか、そう思った。
もし、それができれば雷魔剣がなくても、かなりの威力も出せるし、攻撃範囲も広がる。
守り人になって、曲がりなりにも一人部屋が得られたことで、その仮説を試し始めた。そして、試行錯誤のうえ、ようやくモノにできた。
ちょうど実戦で試したかったところだ。
ゼインの身体に稲妻が迸ると、雷撃が四方を突き刺すように空中を走り抜ける。
焼け焦げた樹木から新たな枝木は再生されなかった。
「何!?」
「どうやら俺との相性は最高みたいだな」
「調子に乗りやがって…!」
とは言っても、あくまで体内にある稲妻を放出してるだけだ。
連発はできない。
それでも枝木の大部分は焼け焦げている。
これなら押し切れる!
ゼインは邪魔な木を切り倒しながら、エンキ本体に向かう。
「これで終わりだ!」
ゼインは手刀をエンキに勢いよく突き刺した。
しかし、そこには樹木しか残っていなかった。
当たった感触がない。本体はどこに行った!?
そのとき、ゼインの背後から枝木が襲い掛かる。
咄嗟に反応したが、脇腹と太ももに掠る。
危ねえ。
立ち止まってるとやられる。
走りながら周囲を観察するが、どこにもエンキの姿がない。
本体も完全に擬態できるのか。
なんだ?また攻撃が止んだ。
四方に目を向けるが、やはりエンキの姿は分からない。移動してる様子も全く見て取れない。
すると、再び枝木の攻撃が始まる。
最初に焦がした枝木とは別の枝木を作り出したのか、また攻撃の手数が増えてきた。
こちらの体力も削られている。捌き切るのが辛くなってきた。
早くエンキが消えるカラクリを解き明かさないと。
…そういえば、エンキ本体に手刀を突き刺したあのときも攻撃が止まった。
もしかして木の中を移動してる間は攻撃ができないのか?
それなら移動してる奴の居場所さえ分かれば、反撃を食らわず倒せる。
あとは、どうやって奴を見つけるかだが…。
一つ、思いついたことはある。
確証はないが、居場所が分かる可能性は高いはずだ。
天井近くの枝木の一部に擬態しているエンキは、ゼインの動きを見ながら、的確に攻撃を仕掛けていく。
どれだけ目を凝らしても無駄だ。
俺は完全に樹木に擬態できる。
また見当違いの場所を切ってるぞ。
このまま甚振り殺してやる。
ちっ、こっちに近づいてきたな。
一応、反対側に移動するか。
エンキが移動し始めると、ゼインは大きな枝を掴む。
あ?何のつもりだ?
その瞬間、樹木全体に稲妻を流し込む。
な、何だ…!身体の動きが…!
「そこか」
ゼインがこちらに目を向ける。
まずい…!
逃げる間もなく、ゼインはすぐさま遠距離雷撃を放ってきた。
攻撃をまともに食らったエンキは擬態が解ける。
くそっ、身体が痺れていて起き上がれない。
「お前、どうやって…」
「こうして腕を動かすにもヒトはその指示を脳から電気信号で送っているっていう研究結果が出ている。それなら外からの電気刺激に対しても身体は反応するかと思ったんだよ。仮説通りだったな」
エンキはよろめきながら起き上がる。
電撃をかなり流し込んだ。
もうスキルを使う余力はないはずだ。
「もう諦めろ。今のでお前の攻撃は俺に通用しないことは証明された」
「だから、どうした。俺はお前を逃がすわけにはいかねえんだよ!」
「とんだ使命感だな。あんなクズ男に仕えて何の意味があるんだ」
「たとえ非道と言われようが、あの人は俺達の恩人なんだ!」
◆
ガンドンの内紛で親を亡くした子どもは何人もいる。俺もその一人だった。
小さい頃から生きるために盗みやスリは日常茶飯事だった。スキルも発現していたので、それほど難しくもなかった。
戦利品は俺と同じ境遇にいたタツマ、アイミー、フェイと分け合った。三人も同じように得た物は全て皆に渡していた。
誰が言い始めたわけでもなかったが、自然とそうしていた。
俺達はその日その日を生きるのに必死だった。
でも、他愛ない話をして笑い合っていた日々は、家族を失った悲しみを忘れてしまうくらい温かく幸せだった。
ある日、俺がヘマをしたせいでスッた男に目をつけられ、四人とも捕らえらてしまった。
その男はズック様の部下だった。
俺達がスキル持ちだと分かると、ズック様は優しく迎え入れてくれたうえに、清潔な服と温かい食事も与えてくれた。
それから、読み書きや戦い方を学び、ズック様の裏の仕事をするようになった。
己の手が血に染まることに慣れた頃、ズック様はガンドンの国王から命を受け、ゲルダ収容所の管理を任されるようになった。
どうやら前任者が解雇されたのは、大量の脱獄者を出したことが原因らしかった。
国王はズック様の今までの行いを知っていたようだった。だからこそ、その対処にズック様が相応しいと考えたのだろう。
その日以降、俺達は守り人を管理する幹部として任を受けた。
脱獄者を出さないように規則や装置を使ったおかげで、これまで追加の脱獄者は出していない。
逆を言えば、ここで脱獄者を出してしまえば、俺達の功績は水の泡となって消える。
だから、こんなガキ共を逃がすわけにはいかないんだ!
◆
「恩人だろうがなんだろうが、あんなことする奴を許せるのか!」
「ああ、許せるね!ズック様は俺を認めてくれている!全てを与えてくれてる!」
「結局、お前は自分のことしか考えてないんだよ。今の満足した生活を壊されたくないだけだろ?」
「うるさい!お前に俺の何が分かる!」
「分かりたくもねえよ」
ゼインの脳裏にプージャの最期が浮かぶ。
「あんなことを平気でやる奴のことなんて!」
ゼインはエンキに向かって走り出す。
エンキは動こうとするが、足に力が入らずガクッと崩れ落ちる。
その隙に手刀をエンキの腹部に打ち当てる。
「ぐはっ…」
地面に血が流れ広がっていく。
エンキは突っ伏したまま動かなかった。
「お前はそこで寝てろ」




