第76話 追手 (2)
「だ、大丈夫か?」
「おっさん…何で…」
何で、笑ってんだよ…。
スタングの口から滴る血がゼインの頰に落ちる。
突き刺さる枝木が抜かれたと同時に、スタングはゼインに寄りかかる。
背中や腕、足。身体中から出血している。
「おい!おっさん!おっさん!」
ゼインの呼び掛けにも全く反応はない。
くそっ、出血が多い。
「スタング!細工師になるんじゃなかったのか!?おい!」
まだ微かに息はある。
でも、このままだと…。
ホムラのときと違って、今は薬もない。
あのときと一緒だ。
血だらけのスタングがセイラと重なる。
また俺は何もできないまま、目の前で誰かを失うのか?
いや、まだだ…!まだ諦めるのは早い!
「ログ!エフィ!おっさんを早く外に!医者に診せれば、まだ間に合うはずだ!」
「諦めろ。そいつは直に死ぬ。俺を騙したんだ。当然の報いだな」
エフィは小さく頷くと再び能力を発動させる。そして、スタングを静かに抱きかかえる。
「ゼインは?」
「俺はコイツを倒してから行く」
エンキはニヤリと笑う。
エフィの力があれば、スタングを安全に運べる。
そうなればコイツを足止めできるのは俺しかいない。
いや、むしろ都合が良い。
ここで今まで散々やられた借りを返してやる。
「でも…」
「安心しろ。俺は大丈夫だ。こんなところで負けるつもりはない」
「…分かった。ゼイン、気をつけて」
「ああ」
「エフィ、行こう!」
エフィとログは通路の奥へとさらに進む。
何かしらの妨害があるかと思ったが、エンキは二人を追いかける素振りも見せなかった。
「やけに二人を簡単に見逃すんだな」
「俺が追いかける必要はないからな」
どういう意味だ?
そのとき、エンキの背後から足音が聞こえてくる。
あれはアイミーとこの前見た幹部…!
こいつらが来るのを分かってたから、ログ達を見逃したのか。
「コイツは俺がやる。フェイとアイミーは残りを追え。あと三人だ。うち一人は手負いだ」
「分かった」
「早くエフィちゃんと遊びたーい!」
「アイミー、これは遊びじゃない。それと、マント留めが六度曲がっている。それと、靴紐が緩んでいるぞ」
「うるさいなー。終わったら直すよー。どうせこれからもっと歪むんだから♡」
ログとエフィを追いかけるつもりか。
このまま行かせたくはないが、さすがに俺も三対一は辛い。
だが、戦えるのはエフィだけ。それにスタングの容態は一刻を争う。
弱音を吐いてはいられないか。
「行かすかよ!」
稲妻を纏い、三人に急接近する。
しかし、エンキの枝木がゼインの行く手を阻む。
手刀で切れる強度だが、手数が多い。
鋭利な切っ先は掠めるだけで、皮膚が簡単に切れる。
頬に流れる血を拭う隙もない。
「バイバーイ!」
アイミー達はエンキが作った樹木の道を悠々と進む。
くそっ!
無事逃げ切れることを祈るしかないか。
「仲間が心配か?安心しろ。全員殺して終わりだ」
「は?死ぬのはお前らだろ?これまでの借りを返させてもらう」
コイツをさっさと倒して、後を追いかけないと。
ゼインは再びエンキに走り寄る。
エンキは身体を木の枝のように延ばす能力。
この力を使っている間、エンキの本体は中央に陣取っている。きっと力を使っているときは本体は動けないのだろう。
だが、そう分かってはいても四方から枝木が襲いかかってくる。それに枝を切っても、その切り口からまた別の枝が生えてくる。
キリがねえ…!
「お前の能力は分かっている。遠距離型の俺との相性は最悪なんだよ。もう諦めるんだな」
そうか。
闘技場で戦ったことで、俺のスキルはもう知られているのか。
たしかに、コイツとの相性は悪い。
でも…。
「俺の弱点は俺が一番分かっている。それをそのままにしておくとでも?」
「何?」




