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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第七章 ヒロイン調書:Ⅰ

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 魔の森へと初の討伐任務に出立したリクたちを見送った後、午後から貴族学院に登校したミラフェイナは教室の前で人だかりに遭遇した。


 何やら、教室の中から男子生徒の言い争う声が聞こえる。


「……何ごとですの?」


 教室の出入り口に近付いて行くと、少し離れたところにディアドラの姿を見付けた。人混みをかき分けて合流する。公爵令嬢という立場もあり、何人かは道を空けてくれた。


「……ディア」


 親友の肩を叩くと、彼女は安心したように微笑んだ。


「ああ、ミラ。そちらのヒロインのお見送りは終わったのですね」

「ええ、無事に。……それより、アレは何ですの?」


 ミラフェイナが教室の中を覗き込むと、言い争っている男子生徒の片方はユレナの取り巻きの一人だった。取り巻きという表現が適切かは定かではない。少なくとも、ユレナという『花ロマ』のヒロインである彼女の魅力に陥落してしまった信奉者には違いない。


 だが、彼は『花ロマ』の攻略対象ではない。


 つまるところモブである彼の名は、エリック・バードラン。成り上がり商家の一族、バードラン男爵子息だ。ゲーム内ではモブでも、生きた一人の人間だ。名前だってある。ミラフェイナはもちろん、クラスメートである彼を知っていた。


 モブとは思えないほど、エリックの外見が良いことも。


 そのバードラン男爵子息に、声を荒げて絡んでいる小柄な少年がいた。ミラフェイナは彼に見覚えはなかったが、着ている制服から中等部の生徒だということだけは分かった。


「中等部の生徒が、何故こんな所に?」

「それが……」


 ディアドラもよくは分からないと、口を濁す。

 ミラフェイナたちは教室の方へと視線を戻した。




 少年は目に涙を浮かべていた。誰が聞いても分かるほど震える声を押し殺し、エリック・バードランに詰め寄っていた。


「……っ、だから! 何でだって聞いてるんですよ!」


「いや……。何度も言ったが、俺と君の姉さんはもう何の関係もない。葬儀に顔を出す義理はなかっただろう」


「本気で言ってるんですか!? それでも元婚約者ですよ!? 葬儀に顔も出さないなんて、あんまりだ!」


 どうやら少年はエリックの元婚約者の弟で、亡くなった姉の葬儀にエリックが出席しなかったことを責めているらしい。


 教室の奥にはユレナと第二王子たちもいて、手前側のエリックと少年を眺めていた。


「姉はずっと一途に想い続けていたのに、アンタは!」

「はぁ……。過去の話だ」


 エリック・バードランの薄い反応を受けて腹に据えかねたのか、少年はついに激昂した。

 ばっ、と片腕を上げ、奥で悠々と男たちを侍らせて鎮座していたユレナを指差した。


「アンタがあんな女にたぶらかされて! 婚約破棄なんかしなければ……! 姉が死んだのは、アンタのせいだ!」


 『死』という単語に、周囲の野次馬たちがにわかにざわめいた。


 しかし、当のエリックは歯牙にもかけない。


「言いがかりも甚だしいな。婚約破棄した後の話だ、俺には関係ない」


 さすがにひどい言い草ではないかと周囲が口にし始めた頃、少年はぐっと奥歯を噛みしめて今度はユレナを睨み付けた。


「……エリックさんが心変わりするくらいだから、どんな絶世の美女かと思ったけど……ははっ。複数の男をたらし込んでるビッチじゃん。ははは……っ。笑えない冗談だよ」


「な……っ!?」


 今まで静観していた第二王子や攻略対象たちだったが、ユレナを侮辱されたとあっては口を挟まない訳にはいかなかった。


「貴様っ、ユレナ嬢に何ということを」

「このガキ! テメエ、今何つった!」

「聞き捨てなりませんね」

「ユレナ嬢を愚弄するとは、ただで済むと思うなよ」



 一方、売女(ビツチ)と罵られた当のユレナも怒りで腰を浮かせかけたが、何とか踏み留まって「ショックを受けた清楚なヒロイン」の顔を維持するのに務めた。


 が、心の中では爆発寸前だった。


(はァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!? 黙って聞いてりゃ、あのクソガキ……っ! ヒロインの私がビッチですってぇ!?)



「…………っ」


 ユレナは俯くフリをして唇を噛む。怒りに染まった表情を第二王子に見せないためだ。

 案の定、第二王子クリスティンは繊細なユレナが傷付いてしまったと思い込んだ。


(……チッ。あんなヤツ、虜にするのは簡単だけど……。私、年下は趣味じゃないのよ! そこまで美少年でもないし……)


 ユレナがやろうと思えば、与えられたヒロインスキルで少年に恋をさせることは簡単だった。しかし、気が進まない。


 葛藤の末、結局ユレナは親指の爪を噛むことに留めた。




 ユレナの取り巻きたちと、少年。ひりついた一色触発の空気が流れる。


「……もういい」


 少年は心底失望したといったように吐き捨て、教室を出て走り去っていった。


 ユレナの信奉者たちがわめき散らして少年を捕まえようとしたが、彼の小さな背中はすぐに廊下の先の校舎の陰に消えてなくなった。


 少年が教室を出る際、ディアドラの前を横切った。


 彼の零した涙の雫と、その輝きが。

 ディアドラの脳裏に、何故か焼き付いて離れなかった。


(彼の姉が亡くなったのが……ユレナ様のせい……!?)


 もちろんそんなストーリーは『花ロマ』では語られていないうえ、少年の姉という人物も登場することはない。そもそもエリック・バードランからしてゲームでは名前も出てこないモブなのだ。


 一体何が起こっているのか、ディアドラには見当も付かなかった。








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