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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第六章 ヒロイン・ユレナと悪役令嬢ディアドラの場合

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 ハイド教授は、ゲームでは名前のないモブだった。ただ『教師』とか『教授』とだけ文章に描かれるキャラクターにすぎず、スチルももちろんなかった。


 ハイド教授は灰色の髪に若干の顎髭、そして夜の海のような黒青の瞳は、どこまでも落ちていきそうなほど深い。


 年齢は三十前後で、独身。前世のツカサと同年代なことで、ディアドラにとっては親近感がある。

 子爵位は持っているらしいが、社交界ではあまり見ない。


 相貌は整っている方だろう。味のある上品な顎髭も、色気を感じるほどだ。




 それはさておき、ディアドラが気になっているのは『花ロマ』における悪役令嬢ディアドラの最期のスチルにある。


 追放後、盗賊に誘拐された後の、いわゆる陵辱エンドにスチルが存在するのだ。


 乱暴な悪漢たちに囲まれる中、唯一全裸のディアドラに手を触れているリーダー格。逆光で顔はよく見えない仕様になっていたが、鍛えられた体躯や服装が他の男たちと並べると明らかに格が違っていた。


 ゲームの文章では、


「盗賊に襲われて売り飛ばされ、悪漢の手により辱められ犯されました。もう二度と日の目を見ることはないでしょう」


 となっている。


 これは売り飛ばされて辱めを受けた後、死んだも同然の結末になるということだ。生きていたとしても二度と太陽を拝めないのならば、やはり死んだも同然である。


 ヒロインにとってはざまあ展開なのだから、いかに悲惨な目に遭っているかを描けばいいだけのはずなのだが、あの淫靡なスチルからディアドラは恐怖や嫌悪感は感じなかった。




 ――悪役令嬢ディアドラの最期のスチル。


 複数の悪漢たちに囲まれるアジトで。

 一糸纏わぬ姿のディアドラを独占することで、まるで守るように。

 伸ばされた淫猥な手はディアドラを穢すかもしれない。

 しかし、その手に下品さは微塵もなく。

 ただあるのは強力な庇護と仄暗い情欲と、またそれに係るまだ見ぬ未来の物語。




 その逆光で顔がはっきりしなかった男が、ハイド教授にどこか似ているのだ。




 そこでひとつの仮説が湧き上げる。


 学院でフィデル・ハイドと名乗っているこの男。彼が盗賊の関係者あるいは黒幕なのだとしたら、命乞いをする相手は彼しかいないのではないかと。






「そうなったら、とは?」


 ハイド教授が訝しげに眉根を寄せる。


「私が売られたら、ですわ。そうなったら、先生。買って下さいませんか?」

「……ハァ!?」


 ハイド教授が珍しく頓狂な声を上げた。


 そこまで驚くとは思っていなかったディアドラは、つい笑ってしまう。


「ここまで努力してきましたけれど、やはり冤罪による婚約破棄は免れないでしょう。追放され、どうせ売られると分かっているのなら。……知らない男性に委ねられるより、いっそのこと知っている方のほうが安心できますわ。そう思いません?」


 ディアドラは、さめざめと嘆くフリをした。


「何を言っているのか分かっているのか……?」


 ようやく絞り出したハイド教授の声は、動揺の色が見て取れる。


 しかし、あのスチルの男と同一人物なのかどうかは、まだ分からない。


「ええ。もちろんです。ですから先生、考えて下さると嬉しいですわ」


 笑顔のディアドラに、ハイド教授は思わず額を抑えた。


「冗談ならそのくらいにしておけ。聞かなかったことにしてやる」

「……あいにく、婚約破棄は冗談ではないのです」


 ひどく感傷的な声色だった。


 ハイド教授が顔を上げると、ディアドラはどこか懇願するような、苦痛に堪えるような、それでいて慈愛に満ちた瞳で微笑んだ。


「先生は不思議な方です。本来、悪役令嬢に味方する方なんていませんわ。でも先生は何度も助けて下さいました。……本当は何者なのでしょうね? ふふっ……」


「…………」


 ハイド教授は何も答えなかったが、今の言葉を言えたことでディアドラは満足した。

 ゆっくりと足を折り、スカートの裾を持ち上げる。精一杯のカーテシーで表現する。


「今まで助けて下さってありがとうございました。感謝しています。お声を掛けて下さって嬉しかったですわ」


 彼は正真正銘、転生者仲間以外で『悪役令嬢ディアドラ』と偏見なく接してくれた数少ない人物の一人だ。表舞台から退場する前に、礼を言っておかなければならない。


 教授はただジッと、美しいカーテシーを見つめていた。








 その頃、教室では。

 ユレナが戻った後も教授とディアドラはなかなか戻って来なかった。すでに本鈴も鳴っている。


「先生たち、遅くないか……?」


 第二王子が不審に思い腰を浮かせかけると、ユレナは涙ぐむことでそれを阻止した。

 クリスティン王子をディアドラの元へなど行かせないとの魂胆だ。


「きっと私を追い返した後も、ディアドラ様が横暴な振る舞いで先生を困らせているのね……。私がもっとしっかりしていたら……。ごめんなさい」


「何を言う。ユレナ嬢のせいじゃない」

「そうだ。あんな女のことを気にする必要ないぞ!」

「で、でも……」

「ユレナは謙虚すぎるんだ。それに比べて、あの魔女は……ッ」


 攻略対象プラスアルファたちに、しっかりとディアドラの悪評を広め、ユレナはほくそ笑んでいた。









悪役令嬢たち令嬢サイドも応援してね!


挿絵(By みてみん)




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