6話 ガチャとミッキー
「ヤマちゃん。俺はひさしぶりにパチスロしばいてから行くわ」
パチンコ屋の喧騒のなか、ミッキーはそう言ってスロットの島へと消えていった。
一人取り残された俺は、会社へと歩き出そうとしたが、ふと手元のスマホの時計に目を留めた。
時刻はもうすぐ十二時。
今からそのまま会社に向かっても、事務所はちょうど昼休みの時間帯だ。
お弁当を食べている最中の橋本さんを邪魔するのも気が引けるなあ。
「少し、時間を潰すか」
俺は先ほどまでミッキーとだらだら喋っていた、道路を挟んだ向かいの小さな公園へと戻った。
誰もいないベンチに腰掛け、新しく買った缶コーヒーを一口すする。
……そういえば、色々ドタバタし過ぎてスマホのゲームをダウンロードしてから確認していなかったな。
普段、電話とメールくらいしかスマホ触らないからよくわからないんだよな。こういうの。
画面上のアプリ『まおこれ』をタップし、適当なユーザー名を入力した途端――
<祝・全世界総ダウンロード数1億突破記念!>
<初心者限定! UR確定50連ガチャ無料!>
<【ピックアップ】神殺しの魔王と星を屠る破壊兵器!>
原色ギラギラのポップアップと「今すぐ課金!」と言わんばかりのバナーが画面いっぱいに溢れかえった。
おじさんの目にはとても優しくない。
でも、全世界総ダウンロード1億ってすごいな。
設定画面の言語選択に550言語以上あるんだけど……ナヴィ語?どこの国?
ソシャゲというものをやったことがないので、とりあえず画面上をちょこまか動き回るチュートリアルキャラクターが指し示す通りにタップし、無料ガチャとやらを回してみる。
「あれ?なんだこれ」
ガチャ画面には、なぜか異世界で何度も通り抜けたゲートにそっくりな門が現れた。
ゲート起動時の術式までそのまんまだ。
「どう見てもカイロスゲートだよな、コレ」
カイロスゲート……刻と世界を越えるための門だったが
逃げ回る魔神を追いかけて、出たり入ったりを繰り返したことがあるからよく覚えてる。
門からは次々と謎の少女や怪人が飛び出してくる。
何人かは実際に見たり斬ったりしたことがある奴らだ。
そうなると俺が勝手にゲームのキャラクターになってるのもあり得るのか?
それにしてもイラストレーターってすごいな、知っている奴は3割増しでカッコよくなってたり綺麗になったりしてるぞ。
そして、最後の50回目。
画面の中の門が突如として禍々しい虹色の光を放ち始め、壮大なパイプオルガンの重低音がスマホのスピーカーから響き渡った。
『オーバーライド――システム掌握』
不穏なシステムボイスと共に、美麗なアニメーションムービーが挿入される。
画面の中で、鈍い黒光りを放つ鋼鉄の巨大な腕が、幾何学模様の青いラインを奔らせながら出現した。
その腕は門の壁面を豪快に握り潰し、空間を喰い破るようにして外へと這い出てくる。
響き渡る、金属の駆動音。
頭部の口に見える装甲が開閉し、さながら生き物のような合成音声の叫び声が響いた。
「おい……これって……」
画面全体に煙が巻き起こり、やがて露わになったのは――流線型のフォルムでありながら、どこまでも無骨で凶悪なロボットと教会にあるような天使像が融合したような異形の姿。
画面上には流れるように金色のゴシック体でキャラ名が表示される。
【限定UR】星穿つ殺戮天使『DOLL』
震える指で何とか画面下の「キャラクター詳細」をタップした。
そこには、ご丁寧に公式設定が書き連ねられていた。
【キャラクター詳細】
『――我が身はすでに虚無、鋼の心に火を灯すのみ。全てのものに終焉を告げる刻が来た』
侵略者・ルモア帝国との激しい星間戦争の最中、過酷な運命の果てにまた一人の『魔王』が誕生した。
守るべき者を全て失い、哀しき定めを背負って自らの肉体を捨てた男、ミキ。
アルストス彗星より発掘されし未知のテクノロジーと、神聖エルバ王国が誇る禁忌の魔科学が融合した最凶唯一の戦闘兵装
『DOLL』
殺戮の権化は、憎悪と慈愛を秘めた眼光で立ち塞がる全てを破滅へと導く。
「この星々の煌めきを、永劫の闇に変えてやる」
【ステータス・アビリティ】
属性:魔・機 特攻:星
封印解放:5%
スキルLv1:『アザゼルの盾』神聖属性耐性、一定確率で反射
スキルLv2:???
スキルLv3:???
スキルLv4:???
スキルLv5:???
キャラボイス(CV:早水 靖):「……消えろ。お前たちに流す涙など、最初から持ち合わせてはいない」
「ミキ……ってミッキーのことかよ!」
でも、もし、この説明が本当だとしたら……
痛々しすぎる公式設定の数々に、笑ったらいいのか泣いたらいいのか、分からなくなった俺の胃は猛烈にキリキリと痛み始めた。
あいつ、普段は橋本さんに飲みの誘いを毎回断られる様な軽いノリの関西弁おじさんだぞ!?
「これ、ミッキーに会った時、どんな顔すればいいんだよ……」
そっとスマホの画面を伏せ、手で目を覆った。




