19話 ロボと叫び
「さぁ、ついて来たまえ!」
変身した姿のまま、宮本が走り出す。
俺たちは顔を見合わせつつ、扉をくぐって彼の後に続いた。
スカイツリーの最頂部から、金属の滑り棒を掴んで下に降りると無機質な白く光る壁の通路が現れた。
奥に奥にと、凄い勢いで走る宮本を追いかけると袋小路に立っていた。見れば、おもむろに壁へ手を当てなにやら合言葉を唱えている。
「女神セクメト様の意のままに」
カチャリ、と静かな電子音が響き、壁に隠されていた隠し扉がすうっとスライドする。自動点灯した照明が室内を照らし出すと、そこには異様な光景が広がっていた。
「な、なんだこれ!?」
部屋の中央に五角形に並ぶ、特撮番組でしか見ないような色分けされた5人分の豪華なコクピット。
そして壁面を覆う360度全方位の大型モニターには、夜の関東平野と、こちらへ向かって音速で飛来する10発の核ミサイルがリアルタイムで映し出されていた。
「君たちに協力してほしいのは他でもない。この超巨大ロボ――『レーベリオン』に乗ってもらいたいのだ!」
「ロボって、どこがロボなんだよ!?」
「もう気づいているのだろう! このスカイツリーそのものがロボなのだ!」
いや、気付きたくなかったんだけど。
「国家の象徴で何やってんですの!? 完全な職権乱用ですわ!!」
橋本さんが即座に怒号を飛ばすが、宮本は人差し指をピッと立てた。
「シャラップ!! 作ってしまったのだから仕方がない!」
「逆ギレ!?」
「ハルちゃんが壊れた」
あのブリーフィングルームで見た威厳に満ち、国家国民の為に頭を下げていた男と同じとは思えない言動に魔法少女たちがショックを受けていた。
ヨモちゃんに至っては、ちょっと涙目になっている。
頭を押さえる魔法少女たちを余所に、俺はモニターのミサイルを指差した。
「で、俺たちが乗って何をすればいいんだ?」
「このレーベリオンの必殺技『ゴッデス・ファイナルブラスター』は、5人の搭乗者が揃わなければ発動できない仕組みなのだ。なあに、心配はいらん。君たちは女神に愛されているから大丈夫だ!」
まったく根拠が分からない太鼓判を押しながら、宮本は指をさしていく。
俺(レッド席)、ミッキー(イエロー席)、橋本さん(ピンク席)、ヨモちゃん(グリーン席)、そして宮本(ブルー席)。
橋本さん、ピンクなんだ。
なんかこう、イメージと違うんだよな。
どっちかというとグリーンなんだけど、ダークグリーン。
そんなことを考えていたら、訝し気にこちらを見る彼女と目があった。
「なにか失礼なこと考えていらっしゃいません?」
「いや、ぜんぜん」
「……まぁ、いいでしょう。宮本さん、その、必殺技ですか? それを使えばミサイルも落とせるんですの?」
「ブルーと呼んでくれたまえ、この必殺技を放てば、核ミサイルなど跡形もなく消滅させるのは造作もないこと! 時間がない、各員着席し、私の言う通りに復唱してくれ、操作も音声認識システムなのだ」
「う、胡散臭すぎる、じゃあ目の前の操縦桿は何なんだよ」
「ですが、今は乗るしかありませんわ……!」
他に対策もない俺たちは、腹を括って各自の操縦席へ飛び乗った。
「いくぞ! 『ゴッデスファイブ! 太陽鬼神レーベリオン! 起動!』」
「「「『ゴッデスファイブ! 太陽鬼神レーベリオン! 起動!』」」」
全員の声が揃って復唱された瞬間、スカイツリーの胴体中央あたりに、巨大なライオンの顔を模した紋章が鮮やかなホログラムとなって浮かび上がった。もちろんモニター画面中央に表示されている。
「『ゴッデスファイブ! フォームチェンジ! ビーストモード!』」
「「「『ゴッデスファイブ! フォームチェンジ! ビーストモード!』」」」
ズズズズズ……ッ!
復唱するたびに、足元から地響きのような激しい揺れが襲いかかる。
「うわっ、すごい揺れ! 今、外がどんな感じになってるのか想像したくないんだけど!?」
「スカイツリーから腕が生えてますわよ、これ!!」
悲鳴を上げる俺たちを無視して、モニターの数値が急速に跳ね上がっていく。
<ゴッデス・ファイナルブラスター! 装填開始……現在60%>
また外の映像が切り替わり、ロボの両手が胸の巨大なライオンの顔の前へと組み合わされ、その間に眩い光を放つエネルギー球が浮き上がっていくのが見えた。
「いきなり60%!? やけに充填が早いし、なんか光が怖すぎるんだけど!?」
さっき見た魔法少女たちの放つ光に比べると何かやけに禍々しい。
「あ、見て! モニターの関東平野!」
ヨモちゃんの叫びに画面を見ると、東京を中心に関東一円の街の明かりが、波が引くように次々と消えていっていた。
「ちょっと! 東京がどんどん停電していってますわよ!?」
「当たり前だ。東京中の全霊力、全電力エネルギーを吸い上げているのだからな」
「平然と言うな!!」
大事故である。
禍々しさを感じたのは確実に東京の怨霊とか幽霊とかも吸い上げてるからだ、これ。
だが、エネルギーを吸い上げ、充填率が『99%』に達したところで、ピタリと数値がストップした。核ミサイルの到達まで、あとわずか30秒。
「むう、いかん! 100%にならん!」
宮本が焦った声を上げる。
「山田君!君の座るレッド席にある『ゴッデスレバー』で気合いを入れないと、限界を超えられないのだ!女神様への愛を込めて、レバーを押し込むのだ!」
「女神への愛!? そんなもん微塵もないわ!」
俺は慌てて目の前のゴッデスレバーを両手で掴み、全力で押し込もうとした。しかし、レバーはまるで固まった鉄塊のようにビクとも動かない。
「くっ……動かない! 全力でも動かないぞ、これ!?」
「えぇい、しっかりしたまえ!がんばれ!男の子だろう! さぁ皆、私が行くぞ!と言ったら、みんなで『ゴッデス・ファイナルブラスター』と叫ぶ準備をするんだ!」
宮本は主人公の苦戦を横目に、他のメンバーへ必殺技の指導を始めている。
「ハルちゃん! おっさんがレバー押せてないよ!?」
「何でもいい! 感情を込めればいいのだ! 怒りでも怨念でも何でもいいから叩き込め!!」
「だぁぁぁぁぁぁっ!!」
ここ最近、理不尽なイベントに振り回され、核ミサイルまで降らせてきたソシャゲ運営への怒りが爆発した。
怒りに任せてゴッデスレバーを全力で押し込むと今までびくともしなかったレバーが一気に奥まで押し込まれた。
ギュギュイーーーン!!
【充填率:120%オーバー! 限界突破!!】
「よし! 今だ! いくぞッ!!」
宮本が力強くみんなに目配せを投げる。
橋本さん、ヨモちゃんは一瞬だけ顔を真っ赤にして恥じらい――だが、背に腹は代えられないとヤケクソで叫んだ!
「「「「『ゴッデス・ファイナルブラスターァァァッ!!!!』」」」
ドガアアァァァァァァァンッッッ!!!!
スカイツリーロボの胸部、ライオンの口から解き放たれた極大の虹色光線が、夜空を切り裂いて放たれた。
上空から迫りくる10発の核ミサイルは、爆発する猶予すら与えられず、光の奔流に丸ごと呑み込まれて次々と跡形もなく消滅していく。
光が収まると、雲を吹き飛ばした澄み切った夜空が広がっていた。
「勝った、のか?」
「ハァ、ハァ、もう二度とやりたくありませんわ」
操縦席でぐったりと魂を抜かれている一同の横で、宮本だけが一人立ち上がり、ノリノリで勝利の決めポーズを取っていた。
「ふははは! 見たか、これがゴッテスファイブの力だ!」
――正面のメインモニターがピピッと音を立て、一人のスーツ姿の男性の映像が映し出された。
ニュースで毎日見る、日本の内閣総理大臣だ。
『よくやってくれた、ブルー』
総理が重々しい声で労いの言葉をかける。
宮本はフッと不敵に口元を緩め、バイザーを光らせながら言った。
「レッド」
「「「「総理が元レッドかよ!!!???」」」」
スカイツリーに、この日一番の嵐が吹き荒れた。




