20話 勧誘と魔王
「君たちのことは、ヨモちゃんが接触した時点から見させてもらっていたよ」
正面のメインモニターに映し出された日本のトップ
――内閣総理大臣の言葉に、コクピット内の全員の動きが止まった。
「なんで総理が……!?」
俺が呆然と声を漏らすと、画面の中の総理は重々しく頷いた。
「ヨモちゃんが私の姪っ子だというのもあるが、この国に仇なす存在かどうか、見極めさせてもらっていたのだよ。力というものは、正しく使わなければならない。かつて、我ら『女神戦隊』がそうであったようにね」
「正しく?」
先ほど東京中の全電力と怨霊を吸いつくして極大光線をぶっ放したばかりのスカイツリーロボ。
どこが正しいのか。
「諸君は見事に国民とこの国を守り切った。そして、世界を救う覚悟を私は見た! だからこそ――山田君、ミッキー君、橋本君、そしてヨモちゃん。君たちに新たな『女神戦隊』を継いでもらいたいのだ!」
「あ、無理です。失礼します」
俺は一秒の躊躇もなく即答し、コクピットから抜け出して出口に向かおうとした。
「……山田君。女神戦隊を継いでほしいのだが、どうかね?」
「いや、ですから無理です」
「……女神戦隊を継いでほしいのだが、どうかね?」
「ドラクエかい!!」
ミッキーの鋭いツッコミが響き渡る。全く同じ表情、全く同じトーン。選択肢「いいえ」を選んでも強制的にループする仕様だ。
「これ『はい』って言わな終わらんやつやんけ!」
「絶対嫌ですわよ! こんな恥ずかしい名前の戦隊、死んでもお断りですわ!」
橋本さんが本気で嫌そうに悲鳴を上げる。
すると、画面の中の総理はふっと寂しげに目を伏せ、ループを止めた。
「そこまで頑なに断る理由を、聞かせてはくれないかね?」
「俺は異世界から帰ってきて、長いことかかって、ようやく『普通の人としての日常』ってやつが分かってきたところなんです。この力も本来あってはならないものだと自覚してますし、今日みたいな非常時でもなければ二度と使うつもりはありません」
俺が切実に訴えると、頭の中からルビーのツッコミが飛んできた。
『『え〜? この前、ノリで私のこと助けてくれたじゃない!』』
「……」
脳内での会話を無視すると、総理は深く頷いた。
「そうか。一番尊いのは、そういった何気ない日常なのだと、私も政治家になってから痛感しているよ。ならば山田君。本当に困ったピンチの時だけでいい、また手を貸してはくれないかね?」
「……まあ、それくらいなら」
「ありがとう。心強いよ。日本を頼む」
総理が温かい笑みを浮かべた――まさにその時だった。
『―総理、アメリカ大統領から緊急のホットラインが入っております』
総理の背後から側近の声が響く。
「おっと、アメリカ大統領からだ。では失礼するよ」
そう言って画面が暗転……するはずだった。
だが、操作をミスったのか画面はついたままで、音声もミュートになっていない。
『オオ、ソウリ! スカイツリーガロボットニ変形シテ核ミサイルヲ消滅サセタト報告ガ――』
『――おぅ、おんどれ。ようもやってくれたのう!』
画面の向こうから聞こえてきたのは、さっきまでの紳士然とした口調とは似ても似つかない、ドスの効いた声だった。
『ワ、ワシントンデハ状況ヲ把握シテオラズ――』
『誰が言い訳聞いてかぁ言っとんじゃボケぇ!! ワシのシマに核撃ち込もうとしてからに! どう落とし前つけるつもりや、こんバカタレがぁッ!!』
直後、バツンッと画面が切れた。
静まり返るコクピットの中、ピッチピチの青いスーツを着たブルーが、遠い目をしてポツリと呟いた。
「レッドは相変わらずだな」
(そりゃ5話で打ち切られるわ!!!)
全員の心の叫びが見事にハモった。
戦隊モノではなく仁義なき戦いは深夜放送でもアウトだったらしい。
「さて、君たちはこれからどうするつもりなのだね?」
宮本副大臣に問われ、俺は溜息を吐きながらポケットの中のスマホを弄った。
「とりあえず、この騒動を巻き起こしたゲーム制作者だけは何とかしないと、平和な日常が送れませんからね。探し出してぶん殴ります」
「そうか。なら――」
ポケットから一枚の名刺を取り出し、俺に差し出してきた。
『防衛省防衛副大臣 宮本晴信』
「いつでも『女神戦隊』への加入を待っているぞ」
「最後まで勧誘諦めないのかよ」
あきれ顔で見送る俺たちを背に、ブルーは風のように去っていった。
「ふぅ。とりあえず、今日はもうこれ以上何も起きないだろ。帰るか」
「待ちなさいよッ!!!」
引き上げようとした俺たちの背中に、甲高い怒号が突き刺さった。
振り返れば、ジャージ姿の魔法少女――ヨモちゃんが、プルプルと全身を震わせながらこちらを指さしていた。
「あんたたち一体なんなのよ!? 意味わかんないんだけど!!」
涙目になりながら叫ぶ魔法少女に対し、俺たちは顔を見合わせた。
「一応……魔王ってことになってるよ。じゃあね」
「ちょっと話を聞きなさいよ!!」
叫ぶヨモちゃんを置き去りにして、俺たちはスカイツリーを後にした。
第1章 完




