18話 ボーナスステージと青
不穏な沈黙を破り、頭の中でルビーの声が響いた。その声には普段の軽薄さは無く、事実だけを伝えてきた。
『『アメリカから核を載せた弾道ミサイルが、そっちに向かってる。その数、10』』
「は?」
東京スカイツリーの最上部に集まっていた全員の思考がフリーズした。
魔法少女のヨモちゃんが、裏返った声を張り上げる。
「な、なんでアメリカのミサイルがこっちに向かってくるのよ!?」
『『大方、衛星を叩き落とそうとして撃ち込んだはいいけど、衛星と同じようにおもっくそ乗っ取られたんだね』』
その瞬間、俺のポケットの中でスマホが震え、ファンファーレと共に不気味な通知が画面に踊り出た。
『―コングラチュレーション!! 聖地は守り抜かれました!―』
【トータル同時接続:3200万人】
「さんぜんにひゃくまん、そこまで行ったのか。そりゃ力が溢れるわけだ」
『―イベントは終了しますが、引き続き<ボーナスステージ>をお楽しみください―』
画面には「ミッション大成功!」の文字と共に、参加したユーザーへ大量のゲーム内ポイントが還元されていくエフェクトが流れている。
「人工衛星の次は核ミサイルとか、相当ねちっこいな、これ考えた奴」
「どこがボーナスステージなんですの、企画担当者を一度小一時間問い詰めたいですわ」
不満を漏らした直後――グッと身体が重くなった。
体の奥底から、みなぎっていた莫大な魔力が急速に霧散していく感覚に襲われる。
「イベントが終わったから、ユーザーからの魔力供給も止まったってことか!?」
『『ヤバくない!? このままだとミサイル迎撃できないじゃん! ミサイル到達まで、あと10分よ!!』』
ルビーの叫びが焦りを加速させる。
状況を察した魔法少女たちが「私たちが対応する!」と買って出てくれたが――
「どうやって止める気だ?」
「そりゃ、私の光線で撃ち抜くか、メイのパンチで叩き折るしか――」
「絶対ダメだ(や)!!」
俺とミッキーはハモって大反対した。
核弾頭を上空で撃ち抜いたり拳で砕いたりしたら、放射性物質が東京のど真ん中にブチ撒かれる。そんなもの、着弾するのと変わらない。
「うちの魔力で軌道を逸らせられるかもしれませんけど、流石に十発いっぺんに別のほうへ誘導するのは無理どすわ」
派手な着物を着た女性が困惑気味に呟く。
「私とこの方で協力すれば、軌道の誘導自体は何とかなるかもしれませんわ。ですが、逸らしたところで、どこへ捨てるというのです?」
「スカイツリーをゲートに変えて、異界か遠い宇宙に送り込むのはどうだ?」
「正気ですの!? スカイツリーを空間ゲートに書き換える作業なんて、最短でも半日はかかりますわよ! 10分でできるわけがありません!」
詰んだ。
魔力は急速に衰え、時間もなく、打開策もない。全員が絶望に包まれかけた――その時だった。
ガチャリ、と扉が開き、一人の男が姿を現した。
「はぁ、はぁ、はぁー、すぅー、おえっ」
息切れし、えずいているおっさんだ。
「ハルちゃん!?」
ハルちゃんと呼ばれた男は壁に手を置き、深呼吸を繰り返している。
何しに来たんだ、このおっさん。
「あの方、テレビで見たことありますわ」
え、誰、有名人?
「あの方は現職の防衛副大臣でおられますえ」
防衛副大臣!?
なんでまた、そんな人が息を切らしてこんなところに。
少し落ち着いたらしく、緩めたネクタイを再度締め直し、こちらを向いた。
「――まったく。若い者が雁首揃えて情けない」
「あ、はい」
あんまり、無理しない方が。
心臓発作とか起こさないか、見てるこっちがハラハラする。
「こんなロートルにまで出番が回ってくるとは思わなかったよ」
脱いでいた上着を羽織り直し、眉間に深いシワを寄せたおじさん――防衛副大臣の宮本晴信だった。
「もしかして、階段で上がってきたの?」
「ああ、停止していたエレベータの操作方法がわからなくてね」
俺たちが衛星打ち返している間、ずっと階段上がってたんだな、この人。
「危ないから早く降りて! ここ、あと数分で核ミサイルが落ちてくるんだよ!?」
「まあ落ち着きなさい、ヨモちゃん」
宮本はフッと不敵な笑みを浮かべ、腰に手を当てた。
見れば――彼の中年太りした腰には、スーツにあまりにも不釣り合いな、派手でカラフルなプラスチック製の『おもちゃのようなベルト』が装着されていた。
「ハルちゃん、そのお腹のベルト何?」
メイがどう見ても場違いなベルトに突っ込む。
だが、ミッキーがそのベルトを見た瞬間、顔色が変わった。
「!?」
「何か知っているのかミッキー」
俺が驚いて尋ねると、ミッキーは信じられないものを見る目でベルトを凝視している。
「……嘘やろ?」
「ミッキー?」
驚くミッキーを見て、何かを察した男が語りだす。
「ふっ、ミッキー君と言ったね。あの時、君がブラウン管の中で見た、あの怪人も、あの戦いも『全て本物』だったとしたら、君はどう思うかね?」
「は?」
宮本はさっき羽織り直したスーツの上着をバサリと脱ぎ捨てると、腰のベルトのバックルを勢いよく押し込んだ!
ジャキーン! と甲高い変形音が響き、宮本はキレッキレの動作で変身ポーズを取ると、ベルトから出てきた生き物のような青い帯が宮本の体に巻きつき、ピッチピチの戦闘用スーツが形作られてゆく。すっごいピッチピチ。
「変幻自在の碧き水!女神に涙は流させない!――ゴッデス・ブルー!!」
ズババァアーーン!
どこからともなく響き渡る効果音。
「溢れる慈愛を力に変えて! 女神戦隊ゴッテス・ファイブ!ここに推参!!」
ドカアァァァァンッ!!!
何が爆発したのか分からないが、宮本の背景でド派手な青い煙幕と炎が立ち上がった。
「「「「…………」」」」
スカイツリーの最頂部に、気まずい静寂が訪れる。
橋本さんは目眩を覚えたように目頭を押さえ、魔法少女たちはドン引きして一歩後ずさりし、ルビーは脳内で言葉を失っていた。
だが――ただ一人、ミッキーだけが目を極限まで見開き、全身を震わせていた。
「ほ、ほんまもんやぁぁぁぁぁぁっ!!?? 本物のヒーローやったんかワレぇぇぇっ!!ガキん頃、深夜におかんにかくれて見てた女神戦隊のブルーや!!握手してくれ!」
「はっはっは!もちろん、構わないとも!」
ミッキーがヘルメットを被った青いスーツの男と握手をしている。
『『一部のコアなマニアの間でカルト的な人気を誇りながら、たった5話で打ち切りになった作品らしいわね、いろいろエグくて』』
ルビーが補足説明をしてくれた。
その説明、今いる?
「ちょっと三木谷さん、落ち着きなさい!」
大興奮のミッキーを橋本さんが宥める横で、威風堂々とポーズを決めている男に聞いてみた。
「……ちなみに、他の4人は?」
宮本――ゴッデス・ブルーはポーズを決めたまま静かに言った。
「彼らは政務中だ」
「メンバー全員政治家かよ」
宮本はヘルメットのバイザーをキリッと光らせ、俺たちに向かって手を差し伸べた。
「君たちの力を貸してほしい。私一人では荷が重いが、君たちと力を合わせれば、あの悪しき企みを打ち砕くことができる!」




