14話 封印解放と作戦会議
【スカイツリー着弾まで:残り1時間】
「ちょっと待ってください。そもそも私たちが、この衛星墜落やらゲームやらに付き合う必要、ありますの?」
腕を組み、冷ややかな視線を投げてきたのは橋本さんだった。
「私もこの世界に多少愛着はありますが、命を懸けてまで他人を守り通したいかどうかは、別ではなくて?」
天井近くで浮遊するホログラム画面を見上げた。
「俺がルビーに頼んでハッキングしてもらったせいで、衛星が落ちてきた節もあるし、俺たちの過去が勝手に使われてるのも関係してるかもしれない。流石にこの状況を知っておいて放置はできないよ」
「せやけどヤマちゃん、人工衛星なんて大気圏に入ったら摩擦熱で勝手に燃え尽きるんとちゃうんか?」
ミッキーがパチスロの景品チョコをかじりながら呑気に呟く。
「残念だけど、燃え尽きてないわよ」
ルビーが苦々しい顔でホログラムの数値を更新した。
「大気圏で燃え尽きるどころか、他の衛星群も追随し始めて今は全部で5基。アメリカから抜いた動画を見たけど、異常な力場が発生してミサイルも効かなかったみたい。そのすべてが寸分の狂いもなく、同じ場所を目指して加速してるわ」
「5基全部が同じ場所?」
「スカイツリーよ」
「もうこれ、ゲーム関係者が意図してやってるとしか思えないな」
思わず拳を握りしめた。
俺たちの過去を勝手に弄繰り回してゲームにした挙句、現実の都市に衛星を叩き落としてイベントに仕立て上げる。相手の思惑にいいように踊らされていると思うと、腹の底から怒りが湧き上がってきた。
ホログラムに映るニュース画面に目をやると、アナウンサーが呑気な声で「今夜の隅田川大花火大会、現地は大変な賑わいを見せております!」と中継している。
政府からの避難警報もニュースの速報も一切出ない。花火を心待ちにする大勢の家族連れや浴衣姿の客で、スカイツリー周辺はごった返している。
「この人たちを見殺しにもできないしな」
深く息を吐いた。
「みんなには付き合ってもらわなくても大丈夫だ。一人でも現地に行くよ」
「正気ですの?ろくに力も戻っていない丸腰の状態でスカイツリーへ向かって、一体何ができるというのです」
「まあ、行ってみなきゃ分からんけどさ」
「むざむざ死にに行くだけですわ!」
「死ぬんかどうかはわからんけど、ここでヤマちゃん一人行かせてスカイツリーが吹き飛んでみぃ。後味悪くて目覚めが悪いわ。俺も手伝うたる」
「ミッキー!」
「あんた達が派手に動くなら、私はハッキングで偽装処理のサポートするわ、何十万人に動画撮られたとしても顔バレしないようにしてあげる」
ニヤッと口元を緩める。
「これで、助けてもらった分の貸し借りはなしね」
そして二人の視線が、最後に橋本さんへと注がれた。
「勘違いしないでくださいね。私は日本の平和など、どうでもいいのです。ただし、この事件が終わった暁には、世界樹の種子を何が何でも渡してもらいますわ。それを条件に手伝って差し上げます」
橋本さんはハァと深くため息を吐き、眼鏡を指先で直した。
「ありがとう、橋本さん!」
再度、俺のスマホが激しく振動し、『まおこれ』のアプリから不気味なファンファーレが鳴り響いた。
『―特設緊急ミッション開催! 夜8時より、リアルタイム強襲イベント開始!―』
「見ろ、続々とユーザーが緊急ミッションに参加しだしてるぞ!」
画面上のカウンターが恐ろしい速度で回っていた。
「始まってすぐに同時接続1500万人!? どんだけこのゲーム遊ばれてんのよ!?」
ルビーが叫んだ。
1500万人のプレイヤーが、「ミッション参加」ボタンを押し、タップを繰り返しているのだ。
スマホのステータス画面を見ると、ミッキーの封印解放率が40%まで跳ね上がっていた。
ミッキーの全身が青白く発光し始める。
「なんやこれ!? 体の奥から力が湧き出てきよる!」
「すごい、体に魔力が戻ってきていますわ!」
「こいつは凄いな。でもなんでいきなり」
久々に戻ってきた莫大な魔力の感覚に、俺の手が微かに震える。でも待てよ、これってもしかしてゲームの参加人数増えるほど、実際の俺たちにシンクロしてるのか?
試しに自分のスマホを操作し、パーティを編成しイベントへの参加をしてみる。すると、スマホを持った手からは目を凝らさないと見えないほどに細い魔力線がどこかに飛んでいくのが見えた。
「これ、ゲームを通して魔力収集してんじゃね?」
「はぁ?ほんまか」
念のため橋本さんのスマホでも操作すると、同様の現象が発生した。
「間違いありませんわね、信仰のシンボルがスマホに代わっただけで邪教がよくやる手段ですわ。よくもまぁ」
イベントに参加しているユーザー全員が、ただゲームを楽しんでいるつもりで、知らず知らずのうちにどこかへ魔力を送り込んでいるのだ。
自分の手をじっと見ても外部から魔力が入ってくる様子はない。なら、俺達の力を抑え込んでる何かに対して影響してると言うことなのか?なら――その術式を組んだ奴は、いったいどこにいる?
画面には、解放率の上昇に伴って新しく解放されたスキルの詳細が表示されていた。
【ステータス・アビリティ】
属性:魔・機 特攻:星
封印解放:40%
スキルLv1:『アザゼルの盾』神聖属性耐性、一定確率で反射
スキルLv2:『バラクエルの稲妻』敵の投擲武器を相殺、高確率で反射
スキルLv3:???
スキルLv4:???
スキルLv5:???
「バラクエルの稲妻?」
俺とミッキーは顔を見合わせた。
「技の名前とか付けたことないねんけど、これってやる時に叫ばなアカンやつなん?」
なんとなく、腕に某ポテトチップスの筒を装備したミッキーが技名を叫んでいる想像をしてしまった。
「ぷぷっ」
「なにわろてんねん、なぁヤマちゃん、上空から猛スピードで墜落してくる人工衛星って投擲武器に入るんか?」
「さぁ? 誰かが投げたわけじゃないしな」
「緊張感がないわね、これ反射は高確率って書いてあるけど100%ではないんでしょ?」
「そら人間やさかい、ミスはあるやろ」
技名が気になったので橋本さんにスマホを借り、自分のキャラもタップしてみた。後ろに気配を感じて振り返ると、皆が覗き込んでいた。
『嘆きの王 ヤァマ』
人、悪魔、魔神。
三つの血と力を喰らい、あらゆる理から逸脱した最新最凶の魔王。
神を殺し、国を滅ぼし、時空を越える。
彼が歩んだ地には嘆きだけが残り、彼に名を知られた者に安息の地はない。
異界へ逃げよ。時を越えよ。名を捨て、姿を変え、深海に身を隠せ。だが、嘆きの王は必ずお前の前に現れる。
「神々よ、逃げろ。無様に泣き喚いて命を乞いながら、世界の果てまで逃げ続けろ。――安心しろ。どこに隠れようと、最後の一柱すら残さず見つけ出してやる」
【ステータス・アビリティ】
属性:魔・闇 特攻:神
封印解放:40%
スキルLv1:『嘆きの盾』神聖属性吸収、一定確率で呪詛返し
スキルLv2:『フラミングソード』相手に業火付与、高確率でカウンターアタック
スキルLv3:???
スキルLv4:???
スキルLv5:???
「うわぁ」
思わず声が出た。紹介文書いた奴、絶対に許さん。
これじゃ、神を殺して回る変態じゃん!
後ろを振り向くとミッキーは笑いを耐えているように肩を震わせそっぽを向き、橋本さんは「やはり魔王」とか呟いてるし、ルビーはイラストと俺を見比べて鼻で笑った。
「笑いたいなら笑えよ!ったく。でも、このフラミングソードってなんだ?」
勝手に足元の影から、ズズ……と出てきた魔剣を見つめた。
魔剣は『わふっ(よんだ?)』と刃を揺らしている。
「お前、フラミングソードって名前だったのか?」
「自分の剣の名前、初めて知ったんかい!!」
ミッキーの怒号のようなツッコミが響き渡る。
だが、そのスキル説明を見た瞬間――俺の脳内で、全てのパズルのピースがピタリと噛み合った。
「この剣を昔みたいに使えるなら、確かに受けた運動エネルギーはそのまま相手に返せる」
「おいおい」
「俺が衛星を受け止める必要はない。カウンターを決めてやればいい」
「無茶やろ!?」
久々に戻ってきたこの魔力。
さらに、ミッキーのスキル。
「よし。良い解決方法を思いついたぞ」
俺はニヤリと笑い、魔剣の柄を固く握りしめた。
「ヤマちゃん、悪い顔しとるで。何する気や?」
「決まってるだろ。スカイツリーのてっぺんに登って、落ちてくる衛星をこの剣で打ち返す」
「「「はぁぁぁぁぁぁ!!???」」」」
満場一致の大悲鳴。
「アホか!? 軟球ちゃうねんぞ!!」
「俺の名前は、あの偉大なバッターと同姓同名の山田太郎だ。打てないボールなどないはずだ、たぶん」
「ドカベン理論を現実の人工衛星に適用すなッ!!!」
ミッキーが頭を抱えて叫ぶ。
「打ち損じてボール球が外れたら、どないすんねん!」
「その時は任せた、ミッキー! 」
「なんつー無茶ぶりや」
「もう時間がないですわ、行きますわよ」
俺たちのやり取りを冷たい目で見つめている橋本さんが、玄関の方を顎でしゃくった。
「わかっとるよ、狂乱の魔女様」
「次、その名前で呼んだら殺しますわよ」
キャラクター名で呼ばれ怒った橋本さんに尻を蹴られ、剣を担いだ俺とミッキーが東京スカイツリーへと玄関を飛び出した。
もし誤字、脱字を見つけたら教えてもらえると助かります……




