第94話 未来の国母になります
「それでフォール、お前さんが来たのは、未来の嫁さんを紹介する……だけではないだろ?」
「さすが、お祖父さまです。感服します」
「ハハッ、孫の考えることなんざ、当然分かるぞ」
屋敷の応接間へ通されてすぐ、テーブルを挟んで向かい側に座るお義祖父さまは、お義祖母さまと楽しそうに笑い合う。
そんなお義祖父さまへ、私の隣に座ったフォール様は笑みを消し、堂々と宣言した。
「俺は、彼女を……カーラ・バリストン公爵令嬢を俺の唯一愛する妻として、次期王妃に据えます」
有無を言わせない威風堂々とした佇まいは、次期国王に相応しい威厳と品格を備えていた。
でも、義理とはいえ祖父母の前で『唯一愛する』なんて、独占欲丸出しの言い方をしないでほしいわ。
……物凄く恥ずかしいから。
フォール様から熱く重い紹介をされ、心臓がうるさく音を立てていると、こちらを見たお義祖母さまが笑みを潜めた。
「ということはカーラさん、聞いてしまったのね。フォールちゃんから」
「ええっと……」
フォール様のことを『フォール坊ちゃま』と呼ぶ方は見たことがあるけれど、『フォールちゃん』と呼ぶ人は初めて見たわ。
「お祖母さま、『ちゃん』付けは勘弁してくれと何度も言っているじゃありませんか」
恥ずかしそうに顔を隠すフォール様を微笑ましく思いつつ、視線をお義祖母さまに戻した私は小さく頷く。
「はい。フォール様から全て聞きました。そして、覚悟を決めました」
お義祖母さまのいう『聞いてしまった』。
それは間違いなく、辺境伯家が旗頭となり、王侯貴族を束ねて王族に対して反旗を翻すということ。
すると、お義祖母さまが心配そうに眉を顰める。
「でも、分かっているの? あなたが私たち側につくということは、家族を敵に回すということになるのよ?」
その眼差しは、私を心配すると同時に見定めてもいた。
私が辺境伯家につく意味を、本当に理解しているのか。
そして、家族を敵に回す覚悟があるのか。
そんなこと――フォール様と共にいると決めた瞬間、理解したし、覚悟もした。
「分かっております。その上で、私はフォール様と共に生きると決めたのです」
王族や公爵家は、私から大切なものを容赦なく奪い、都合の良い道具として使うことしかしなかった。
何かを与えてくれることは、一度もなかった。
でも、フォール様を始めとした辺境伯家の皆様は、王都で傷ついた私を温かく迎え、惜しみない愛情を注いでくださった。
――特に、隣にいるフォール様は、いつも私を気にかけ、私自身の意思を尊重してくださった。
だから、私を家族として迎えてくださった皆様のために……何より、大好きなフォール様のために、私はフォール様と共に生きると決めた。
こんなこと、王都にいた頃なら絶対に思っていない。
でも、大切な人がいる今、本気で思う。
フォール様の妻として……『未来の国母』として、彼と共にこの国を導こうと。
それに……
「それにあの男は……実の父は、私の大切なお母様を奪いました。だから、私自ら裁きたいのです」
厳しい環境の中を生き抜けたのは、『お母様』という大切な存在がいたから。
その命を奪った公爵家当主であるあの男を、決して許すことはできない。
辺境伯家側につくことを宣言した私を見て、お義祖母さまは驚いたように目を見開き、やがて優しく表情を緩めた。
「聞いていた話だと、あなたとソフィアは正反対だと思っていたけど……その意思の強いところは、ソフィアそっくりね」
そう言って笑うお義祖母さまの瞳は、僅かに潤んでいた。
きっと、今の私の姿がお母様と重なったのね。
すると、隣で話を聞いていたお義祖父さまが口を開く。
「ところでフォール、先日、手紙で『カーラさんに聖女の力が戻った』と書いてあったが……それは、本当なのか?」
「本当です。カーラ、お二人に見せてくれるか?」
「分かりましたわ」
静かに頷いた私は、両腕を伸ばして目を閉じ、お二人の『無病息災』を願いながら、魔力を両手へ巡らせる。
すると、両手から白く淡い光が生まれ、そのまま目の前に座るお二人の体を優しく包み込んだ。
「この温かな光。間違いない、聖女の力だ」
「そうですわね。この慈悲に満ちた魔力……まるでカーラちゃんそのものね」
この聖女の力が、私そのもの……。
――そんなふうに言われると、なんだか照れ臭いわ。
温かな光に包まれ、お二人が穏やかに笑みを零した、その時――応接間の扉が開いた。
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