第91話 私の覚悟
「すまない、少し感情的になってしまった」
「いえ」
――お義父さまの気持ちは何となく分かる気がするから。
僅かに眉をひそめる私を見たお義父さまは、小さく頭を下げると、軽く咳払いをしてフォール様へ視線を向けた。
「それで、フォール。これからどうする?」
『これから』――その意味を、私はもう理解していた。
私へ視線を向けたフォール様は、少しだけ考え込むと、これからのことを話し始めた。
「とりあえず父さんが言ってくれた通り、爺さんと婆さん、そして、大叔父上のところに行って、カーラのことを紹介したい」
「あぁ、そうしなさい。あの人たちもきっと喜ぶだろう」
お義父さまの言葉に思わず安堵する。
――お祖父さまたちも迎えてくださると分かったから。
「それで……反乱計画がどこまで進んでいるのか知りたい。お願いしたいこともあるから」
「お願い?」
お祖父さまたちにお願い? 一体何を……?
「何より……カーラと共にこの国を引っ張っていく上でも知りたいんだ」
「「っ!!」」
それを聞いたお義父さまとお義母さま、そしてアラン様が驚いたように目を見開く。
そう言えば、フォール様が私に『反乱』について話していることを、まだお義父さまたちに話していなかったわ。
「すみません、実は……」
「あぁ、もう分かった。フォールから聞いたのだな。我々がこれから何をしようとしているのかを」
「……はい」
「すまん、父さん、母さん」
「本当よ。そういうことは、まとめて話して頂戴」
「……すまなかった」
フォール様が深々と頭を下げ、深いため息をつくお義父さまの隣で、お義母さまは視線を私に戻した。
「それで、カーラちゃん、フォールから私たちの話を聞いて、どうしたいの?」
「それは……」
――もちろん、決まっている。
小さく息を吐いた私は、お義父さまとお義母さまに向かって口を開く。
「私は、フォール様と出会い……いえ、再会して半年しか経っていません」
「再会……カーラさん、まさか……!」
「はい、全て思い出しました。私がお母様と半年、この豊かな地で過ごした日常を」
『カーラちゃん、一緒にお菓子食べましょう~!』
『カーラ嬢、こんにちは』
今なら思い出せる。
幼い頃、王都から来た私を、お母様や使用人の皆と共に、優しく見守ってくれたお義父さまとお義母さまのことを。
目を潤ませるお義母さまと、安堵したように微笑むお義父さまを見つめ、私は話を続ける。
「その上で申し上げます。王太子妃教育を受け、長年王太子殿下を支えてきた私から見ても、フォール様は現王太子より遥かに次期国王に相応しい方です」
「まぁ、長年、殿下の尻拭いをしていた君だから言えることなのだろう」
フォール様の仕事を手伝うようになってから、フォール様のお傍にいる機会が多くなった。
彼は常に、辺境に何が必要なのかを考え、多くの人の声に耳を傾けていた。
アラン様や文官、そして領民たち。
そうした人々の意見を聞いたうえで、自ら判断し、指示を出し、時には自ら動く。
魔物討伐の際には、自ら率先して前線へ立っていた。
一方で殿下は国の未来よりも婚約者との時間を優先し、仕事を部下へ押しつけてばかりいる。
どちらが次期国王に相応しいか。
答えは、考えるまでもなかった。
「そんな彼を、私は妻として支え……この国の『聖女』として、そして、次期王妃として彼と共にこの国を導きたいです」
――それは、辺境に来て間もない頃の私には、到底口にできない言葉だった。
そして……私自身への誓いでもあった。
思い返せば、私の日常は、常に大勢の悪意に晒され、都合の良い道具として扱われていた。
だから、公爵家を追い出され、辺境に来た時、私の中には絶望しかなかった。
けれど、ここに来て様々な人との出会いや再会を通して、人の温かみを思い出し、心から大切にしたいと思える人や場所が出来た。
だからこそ、私はこの人と共に生きていきたい。
人の温かさを教え、自分の意思で歩く勇気をくださったフォール様となら、この国を明るい未来へ導けると信じている。
――この決断が、王族だけでなく、実家を敵に回すと分かっていても、この道を選ぶ。
……それが、私の覚悟。
すると、私の話を聞いたお義母さまが椅子から立ち上がり、そのまま私を優しく抱きしめた。
――まるで、幼い頃にお母様が私にしてくださった時のように。
「お、お義母さま!?」
戸惑う私を、お義母さまはもう少しだけ強く抱きしめ、耳元で囁いた。
「ありがとう、カーラちゃん。この国のために、大きな決断をしてくれて」
「いえ、私はただ、フォール様と共にありたいだけなのです」
誰よりも優しく、誰よりも誠実な人と共にいたいだけ。
それを聞いて、お義母さまがクスリと笑った。
「成長した今の姿を、きっとお姉さま……あなたのお母様も誇らしく思っているわ」
「っ!」
その瞬間、幼い頃の記憶が脳裏を過った。
『カーラ。あなたは幸せになるために生まれてきたの。だから、今は幸せになるために必死に頑張るのよ』
『本当、ですか?』
――こんなに苦しいのに?
厳しい淑女教育で泣きじゃくる幼い私に、頭を撫でていたお母様が優しく抱きしめる。
『本当よ。あなたの頑張りは、絶対にあなたを幸せに導いてくれる。だって、私がそうなのだから』
『お母様が?』
『そうよ。私が頑張ったから、あなたという世界一大切な宝物に出会えたのだから』
――あぁ、思い出した。
お母様、やっぱり幸せだったのね。
あの時、頬を擦りながら幸せそうに微笑むお母様の言葉を半分も信じられなかった。
だって、いつも痛くて苦しくて逃げたかったから。
でも、今なら信じられる。
私も、お母様のように幸せになれる。
だって今、私の隣には、一緒に幸せになりたい人がいるのだから。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、ようやく異世界恋愛もの主人公っぽくなってきました我らがカーラちゃん!
いや、異世界恋愛ものの主人公なんですけどね(笑)
それにしても、第一章に比べて明らかに別人ですよね。
これも、フォールの激重の愛を受け止め続けたお陰なのでしょうか?(笑)
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




