第88話 真実の証拠
「あの男が……お父様が、隣国で闇魔法師を雇っていたのですか?」
「そうだ。これがその証拠だ」
そう言って、セバスが渡してきたのは、一枚の写真。
そこには、地下空間らしき薄暗い場所で、フードを被った男が二人、重要な契約を結ぶときに使われる『魔法契約』用の羊皮紙で契約を交わしている瞬間が映っていた。
その二人の男の一人に見知った顔……あの男がいた。
「今は皇帝の命令で解体されてしまったが、かつてその闇ギルドは世界的に有名で、公爵が雇ったそいつは、闇社会でも名の知れた闇魔術師だった」
「そうだったのですね」
隣国の闇ギルドについては、フォール様の話を聞いて、王太子妃教育で教わっていたことを思い出した。
でも、まさか、そこで有名な人物をお父様が雇っていたなんて。
――それも、破れば魔法がすぐさま発動する魔法契約まで交わして。
「ちなみに、あの男と接触していた闇魔法師は今……」
「残念ながら行方不明だ。だが、闇ギルドの元ギルド長がその男のことを知っていてな。その時のことを詳しく話してくれた」
「話してくれたのですか?」
「あぁ、公爵に手を貸した奴、ギルド長から相当恨みを買っていたらしくてな。隣国に行った時、ギルド長が喜んで話してくれた。『あの男、俺に得意げにベラベラと話してくれた』って」
「なるほど」
「あと、その時の契約書の在処も教えてくれた。もちろん、原本は隣国に渡して、写しをいただいたが」
その魔法契約には、『契約内容を第三者に漏らしてはいけない』という重要事項は含まれなかったらしい。
静かに口を噤む私に、フォール様がさらに衝撃的な事実を告げる。
「そして、当時高級娼婦だったダリアナ夫人が、公爵の指示で伯母上を死に追いやった薬を買っている写真も同時に見つけたんだ」
「え?!」
セバスが出した二枚目の写真には、目も当てられないような派手な露出の高いドレスを着た継母が、公爵と共に怪しげな男から薬を買っている瞬間が映っていた。
――この薬、お母様がよく飲んでいた薬と一緒だわ。
「あの女の顧客の中に闇社会に影響力のある貴族がいてな。そいつから薬や密売場所を聞いたそうだ」
「その……その話はどこから聞いたのですか?」
「それはもちろん、ダリアナ夫人に薬を売った男だ」
「えっ?」
一体、どのようにして聞いたのですか!?
「どうやら、公爵夫人になっても尚、しつこく会いに来る男に痺れを切らしたらしくてな。ダリアナ夫人が匿名でその男を売ったらしい」
「それで、恨んだ男はフォール様に洗いざらい話したと」
「そういうことだ。自白剤を使うまでもなく、こちらが聞いていないことまで話してくれた。ついでに、騎士団にお願いして夫人に売った薬と契約書の写しを控えさせてもらった」
「な、なるほど……」
フォール様の話を聞いて、静かに視線を落とす。
そこまでしてあの男は、自分の願望を叶えたかったのね。
お母様の人生も、私の人生も……アリシアの人生も滅茶苦茶にして。
静かに拳を握った私は、視線をフォール様に戻す。
「それにしても、偶然とはいえ、よくそのような大事な証拠が見つかりましたね」
「そうだな。恐らく、公爵を陥れたい貴族の誰かがいざという時のために隠し撮りし、王国へ戻る際に、地下書庫へ隠したのだろう」
「確かに、地下書庫は滅多に人が来ませんから何かを隠すには丁度いいですわね」
王都にいた頃、公務に必要な資料や調べ物をするためによく地下書庫に通っていたから、あの場所が絶好の隠し場所なのは理解できる。
薄暗く、ジメジメしていて、あまり人が寄り付かないから。
大方、あの男を陥れたいその方は、そこを利用したのね。
「そこで、あの男が願望を叶えるために『禁呪』を使ったことと、お母様を殺すために毒を買ったことが判明したのですね?」
「そうだ。念のため、伯母上の診察をしていた医師にも聞いたら、公爵の命令で毒を使い、診断書を偽装していたことを自白した」
「っ!」
『カーラ様、今日は奥様と一緒に散歩などいかがですか?』
『えっ、良いの!?』
『はい。今日は、体調が優れていますから』
脳裏に過るお母様を診察する初老男性医師の微笑み。
あの人は、王都でお母様が気を許せる人の一人だった。
その人が、お母様を裏切っていたなんて。
「そこから、公爵がなぜ『禁呪』を使って魔力交換をしたのか、どうして伯母上を殺すに至ったか、影やセバス、そして、爺さんや大伯父上に協力してもらって調べた」
「前国王と前王弟も協力してくださったのですか?」
「あぁ、内政を担う家の当主が国防を担う家の令嬢だった妻を殺す……どう考えても、国を揺るがす一大事だから」
「言われてみればそうですわね」
元とは言え、お母様は辺境伯家の令嬢。
そして、結婚相手は内政を担う家の当主。
政略結婚とはいえ、国の未来を考えた大事なもの。
それを壊すなんて、この国を混乱に陥れたいと捉えられてもおかしくないわ。
「その結果、あの男の恐ろしい企みが判明した……正直、これを知った時は、アランを除いた家族全員が怒り狂った」
「お義父さまやお義母さまもですか?」
二人とも、穏やかで明るい方だから、そのようになるとは想像つかないけど。
もちろん、フォール様もだけど。
「そうだ。父さんにとって、伯母上は大事な家族で、母さんにとっては、血の繋がらない『姉』として慕っていたから」
「そうでしたか」
『カーラ。ここが私の実家、リスタット辺境伯家よ!』
『そして、この方たちが私の大切な家族!』
幼い頃に見た、お母様の眩しい笑顔。
お母様が辺境伯家の家族が大好きなように、辺境伯家の皆様もお母様が大好きだったのね。
「そして、さすがの大伯父上も『たった一人の娘を貴族に……ひいては、未来の国母にするためにここまでするのか』と言葉を失い、同時に『この男を公爵に、宰相にしなければ』と酷く悔やんでいた」
「…………」
かつて、『賢王』と呼ばれた先代国王が言葉を失うほどに、あの男の欲望を叶えるための執着と用意周到さは凄まじかったというわけね。
そして……
「それでも、現王族を打倒する大義名分には至らなかった。カーラがこちらに来て、アリシア嬢が恐ろしい企みを携えて『交換』と言ってくるまでは」
「そう、でしたか……」
――仲のいい幼馴染が起こしたこととはいえ、陛下が『知らなかった』と言えば、済む話だから。
その時、庭に一組の仲睦まじいカップルが現れた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、今回は第三章で明かされた真相の裏付けの回です!
約10話に渡って話した真実の裏側には、このような証拠がありました。
(アリシアには見せられませんでしたが)
そんな証拠を見たカーラとフォールの前に現れたカップルとは!?
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




