第87話 きっかけは、父からの依頼
「……すまん、つい、流れで、その……」
「は、はい……」
アリシアが屋敷を後にし、フォール様と想いを通わせて唇を重ねた私は、近すぎる距離感に思わず顔を背ける。
ううっ、フォール様への想いが溢れたばかりに勢いでやってしまったわ!
「そ、その……嫌、だったか?」
耳を真っ赤にして尋ねるフォール様に、視線を戻した私は小さく首を横に振る。
「い、嫌ではありませんでしたわ」
「そ、そうか……俺も、嫌じゃなかったぞ。カーラとの、初めての、キスは。むしろ、もっとやりたいというか」
「っ!」
私だって……って、何をはしたないことを考えているのよ!
「とりあえず、ガゼボに戻るか」
「そう、ですわね」
フォール様にエスコートをされながら私はガゼボに戻った。
私たちを、使用人や騎士の皆様が温かい目で見守っていた。
今更だけど、人前でキスは貴族令嬢としてさすがにありえないわ!
椅子に座った私は、公衆の面前でフォール様と口付けをした恥ずかしさで身悶えていると、不意にフォール様が私とアリシアに話したことを思い出す。
「フォール様、少しだけよろしいでしょうか?」
「良いぞ、何が聞きたい?」
「っ!?」
フォール様、こんなに甘い人だったかしら?
いや、甘いのは元からじゃない。
でもなんというか……キスをしたことでより甘くなったというか。
って、今はそういうことを考えている場合じゃないわ!
小首を傾げ、甘い笑みを浮かべながら私の言葉を待つフォール様に、心をかき乱された私は、小さく咳払いをして気を取り直す。
「先ほど、フォール様は『この婚約者交換は、全て仕組まれたこと』とおっしゃっていましたが……その、どこでそのようなことを知ったのですか?」
私を諦めきれなかったフォール様が、辺境伯家の力を使って調べたにしては、あまりにも知りすぎている。
特に、お母様の死因や私とアリシアの力があの男によって『交換』されていたことは、当事者であるあの男にしか分からないこと。
私もアリシアも……ひいては、王家すらも聖女の力が『交換』されているなんて思いも寄らなかったのだから。
すると、フォール様が僅かに笑みを潜める。
「すまない、そちらを説明していなかったな」
小さく頭を下げたフォール様は、ゆっくりと息を吐くと、この大それた茶番劇を知るきっかけを語り始めた。
「きっかけは、王宮で働いていた頃、父さんから『カーラの母親であるソフィア伯母上の死因について調べて欲しい』と頼まれた時だった」
「お母様の死因、ですか?」
「あぁ、父さん曰く伯母上がまだ辺境伯家の令嬢だった頃は、この広大な庭を駆け回れるほど元気な方だったらしいから」
「そうだったのですか!?」
信じられない。
私の知っているお母様は、いつもベッドで儚げに笑い、部屋に来た私の話に頭を撫でながら聞いてくれたから。
『カーラ。今日は調子がいいから、たくさんお話しましょう』
そのお母様が庭を駆け回れるほど、お元気だったなんて。
その時、フォール様の傍にいたセバスが深く頷く姿が目に入った。
先代から仕えているセバスは、もちろん辺境伯令嬢だったお母様のことをよく知っているはず。
セバスが深く頷いているのだから、そうだったのかも。
「話を続けてもいいか?」
「はい。お願いします」
「それで、俺は王宮で仕事をする傍ら、カーラがあのバカ王子の婚約者になった経緯と、爺さんから『今の王族を打倒出来る大義名分を調べろ』という頼み事と並行して、伯母上の死因について調べた」
「フォール様が王族打倒の大義名分をお調べになっていたのですか?」
フォール様のお仕事のお手伝いをさせていただいてしばらく経つけど、そのような仕事はなかった気がする。
「あぁ、今は、父さんが宰相補佐として王都にいるから父さんが俺の仕事を引き継いでやっている……いや、やっていたと言った方が正しいか」
「やっていた?」
「あぁ、なにせ、俺の大好きで有能なカーラが来てくれたことと、君の義妹が来てくれたことで、俺たちはこれ以上ない大義名分を得られたのだから」
「っ!」
アリシアのことはともかく、ここで褒めるなんてズルいわ!
でも……すごい。
そんな状況で、王宮での仕事をしながら三つのことを…………それもどれもが国家に関わる大きなことを同時に調べられるなんて。
当時、学園に通っていたのなら尚更。
改めて思うけど、フォール様って元婚約者より遥かに有能よね。
「お祖父さまと言いますと、前王弟殿下でしょうか?」
王都にいた頃、公の場以外で顔を合わせたことはなかったけど。
「そうだ、その時には既に現王族打倒のために動いていたからな……自分の兄である前国王を巻き込んで」
「そんな前からですか!?」
私があのバカ王子の婚約者として奔走していた頃から、リスタット辺境伯家では、現王族を打倒しようと動いていたの!?
それも、前国王陛下を巻き込んで!?
「あぁ、それくらいリスタット辺境伯家を始めとした多くの貴族が、今の王族には危機感を募らせていたからな……聖女様を盲信していた王都の貴族たちを除いて」
「…………」
私の知らないところで……私が、元婚約者やあの男の都合の良い道具として使われていた裏で、王族打倒を掲げていたなんて。
――前国王陛下は、実の弟が息子たちを倒そうとしていると聞いて、どう思ったのかしら?
あまりお会いしたことがない前国王陛下の心情を慮り、少しだけ胸が痛くなった私に、フォール様がとんでもない事実を突きつける。
「そして、その時に見つけた。公爵が隣国に視察に行った際、今はもう存在しない闇ギルドで凄腕の闇魔術師を雇う場面を写した写真が」
冷たい表情のフォール様が告げた事実に、思わず息を呑んだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、甘々な前半とシリアスな後半をお届けしました!
第三章でカーラとアリシアに真相を話していたフォールは、どうやってその事実を知ったのか。
次回、明らかになります!
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