第9話 俺が幸せにする(前編)
※とある男の視点です。
「フォール坊ちゃま。こちらが想定していた以上に事が運んで良かったですな」
リスタット辺境伯家として王城での用事を済ませた俺、フォール・リスタットは、帰りの馬車の中、向かいでニヤケ顔を隠そうともしない執事を睨みつける。
「セバス、『坊ちゃま』はやめろ。俺はもう23だから、そんな可愛い呼び方をするな」
「ですが、『坊ちゃま』はまだご結婚されておりませんから。坊ちゃまは坊ちゃまですよ」
「はぁぁぁ……」
この調子だと、俺が結婚して子どもが出来ても、この有能な執事は平然と『坊ちゃま』と呼び続けそうだ。
父の代から仕える執事の意地悪に深くため息をついた俺は、呆れたように頬杖をつくと窓の外へ視線を向ける。
久しぶりに来た王都は、相変わらず美しいな。
……吐き気がするくらい貴族向けに綺麗に整えられている。
「まぁ、予想以上にあっさり事が進んだのは意外だったが」
それも、思わぬ形で事が早く進むことになるとは。
王都の美しい景色を見ながら、俺は王城で遭遇した国を揺るがす予定外の出来事を思い返す。
◇◇◇◇◇
建国時から国防を担っている我がリスタット辺境伯家は毎年、国への報告と国から支給される国境維持の補助金申請のため、年に一度、王都に訪れている。
例年なら当主である父上が行くのだが、今年から臨時で宰相補佐になった上に、仕事が思いの外、立て込んでしまったらしい。
そのため、今年は領主代行として領地で仕事をしている俺が、名代として遥々王都に来て、執事のセバスと共に王城に訪れることになった。
「坊ちゃま。申請が終わりましたら、旦那様のお手伝いを……」
「バカ言うな。行った瞬間、『お前は領地に帰って仕事しろ!』と追い出される」
「そうですね。これは大変、失礼致しました」
全く、この執事は本当に申し訳と思っているのか。
質の悪い冗談を口にするセバスにため息をついた時、興奮した様子で謁見の間へ向かうバリストン公爵殿と王太子フィリップが見えた。
「セバス、あれは……」
「えぇ、公爵様と王太子殿下ですな」
「そうだよな」
公爵が前妻を亡くした直後、愛人だった元没落伯爵令嬢と再婚し、その女との間に生まれた子どもを養女として迎え入れたことは辺境にも届いていた。
それだけでも、貴族としての信用を落とすには十分すぎる。
例え、その娘が『聖女』として神殿から認められ、国王から特例で認めたとしても、不逞の子を堂々と養女にするなど貴族としてありえない。
その上、体裁を気にすることで有名な公爵が、実の娘よりも愛人との娘が溺愛しているらしく、結果、社交界でのバリストン公爵家の評判は地に落ちた。
それでも公爵家が今の地位を保っていられるのは、国王夫妻からの信頼が厚いからに他ならない。
「坊ちゃま、どうされますか?」
「……とりあえず後を追おう。なんだか、嫌な予感がする」
セバスとアイコンタクトを交わした俺は、二人の後を追うように足早に廊下を歩いていく。
次期国王であるフィリップが、婚約者に執務を押し付け、公爵の愛人の娘と逢瀬を重ね、社交の場でパートナーとして連れてきていることは知っている。
その彼が、公爵と共に国王がいる謁見の間に向かっている。
それも、どこか嬉々とした顔で。
「もしかすると、ここ最近流れている例の噂が絡んでいるかもしれない」
「例の噂と言いますと……『王太子と次期辺境伯家当主の婚約者を変える』というものですか?」
「あぁ」
どこからともなく流れてきた、前代未聞としか思えない噂。
正気を疑うようなその噂がもし、現実になるとすれば……
「王家と公爵家はこれ以上、自分たちの信頼を落としてどうするつもりなんだ」
ただえさえ、国防を担っている我が家を敵に回している状態だというのに。
前にいる二人を追いながら、俺は王家から来た婚約を思い出す。
王家から打診された婚約は、『悪い意味で有名な公爵家の次女との婚約』という、どう考えても我が家をバカにしているとしか思えないものだった。
俺としては、不義の子より元本妻の子が嫁に来て欲しかった。
だって、俺にとってあの子は……初めて恋した子なのだから。
だからと言って、王太子の婚約者である彼女を奪うような真似はしなかった。
貴族として、それは『王家に逆らうことと同義』ということを分かっていたから。
王家からの打診が来てから、手紙で王都にいる両親に了承を得た俺は、その婚約を受け入れた。
それがまさか、ここにきて変わろうとしているとは。
――それも、王太子と彼女の結婚が一週間後に控えたこの状況で。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、アリシアの元婚約者であり、カーラの婚約者であるフォールの登場です!
短編では中盤から登場でしたが、長編では序盤からの登場です!
カーラのことを知っている彼でしたが……!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




