第9話 私たちなら大丈夫!
※公爵視点です。
「そ、それは! エイモン様が『あの女は、魔力がある私たちより遥かに劣っているし、“父親からの仕事だ”と言えば、逆らわずにやるから押し付けていい』と……」
「馬鹿か!!」
執務室に怒鳴り声が響き渡った直後、顔を引き攣らせる文官達を指さす。
「いいか! カーラを道具として使っていいのは、実の父親であり、公爵家当主である私だけだ! エイモンやお前たちの道具として使っていいものではない!!」
エイモンだって理解していたはずだ。
あの女は、アリシアが殿下と結ばれるまでの繋ぎ役だから、あまり負担をかけさせてはいけないと。
その時、顔面蒼白の文官の一人が、愚かにも主である私へ反論してきた。
「で、ですが旦那様! あなた様やエイモン様が我々に押し付けた仕事は、一介の文官では到底処理出来る量ではありません!」
「は?」
「ヒィッ!」
文官のみっともない言い訳に思わず眉を顰める。
「貴様、仮にもこの公爵家で働く文官であり貴族だろう? ならば、この程度の仕事、捌けて当然じゃないのか?」
公爵家に仕える文官は全員、優秀な貴族家の出身なのだから、当然、幼い頃から領地運営について学んでいるはずだ。
なのに、出来ないだと?
私から再び睨みつけられ、文官達が揃って震え上がる。
まさか、我が家の文官がここまで使えない連中だったとは。
これは、落ち着いたら全員入れ替えなければならんな。
その時、先程の文官とは別の文官が愚かにも主である私に対して言い訳をしてきた。
この文官は、公爵家に働く文官達を纏め上げる者だった。
「確かに、我々は貴族で公爵家に仕える文官です。だから、事務仕事をこなす知識や教養はあります」
「そうだろ? だったら……」
「ですが、我々は文官。領地経営そのものに関しての知識や教養は全くと言っていい程ございません」
すると、二人の文官が声を上げる。
「領地経営は代々、ご当主様を始めとした公爵家の皆様が主導で行われるものですので、いくら我々が優秀でも、主に代わって領地経営に携わるなど無理なのです」
「それに、我々も公爵領から届く苦情や要望への対応で手一杯で……」
「だから、カーラへ仕事を押し付けていたと?」
「は、はい……。カーラ嬢は、一応、公爵令嬢でしたので……」
今にも倒れそうな表情で愚かしい言い訳をする文官達に、私は重いため息をつく。
我が家の文官が、ここまで使えない奴らだったとは。
「はぁぁぁぁ……分かった。この私自らが、エイモンやお前たちに領地運営の仕事を教えよう」
「「「「えっ?」」」」
深くため息をついた私の妥協案を聞いて、顔を引き攣らせていた文官達が揃って首を傾げる。
どうして首を傾げる?
むしろ、こちらが首を傾げたい。
「お前たちも知っているが、私は王宮での仕事で忙しい。そして、エイモンも次期公爵として……ひいては、次期宰相として忙しくなる。そうなれば、お前たちに領地運営を任せなければならない」
建国時から国の内政に携わってきた我がバリストン公爵家は、他の貴族家と同じく、自らの手で領地運営を行ってきた。
それは歴代当主達が皆、『宰相』という政の頂点に立ちながらも、領地運営出来る程の能力と余裕があったからだ。
だが、現公爵である私は、現在宰相という地位についていると同時に、アリシアという『聖女』の補佐を神官達と共にしなければいけない。
歴代当主達と比べても、私の抱えている仕事量は圧倒的に多い。
だから、今まで通りでは困る。
私やエイモンが不在でも、領地運営が問題なく回さないと。
「ともかく、お前たちが頼りにしていたカーラがいない今、お前たちには、今までカーラへ押し付けていた仕事もやってもらう」
そもそも、カーラに押し付けていた仕事は全て、私やエイモンがお前たちの優秀さを見込んで任せていた仕事だ。
自分達の仕事が戻ってくるだけ。
自業自得ではないか。
「いくら『魔力ゼロ』だからって、あの方は一応、王太子妃教育を受けていたのだぞ。だから、それなりに優秀だったのに……」
「ただでさえ、婚約者としての仕事で忙しかったはずなのに、あの方は私たちから押し付けられた仕事を何の文句も言わずに引き受けてくださった」
「それに、多忙なあの方は、私たち文官にも優しくて、何度励まされたことか……」
今後のことを想像し、不安で顔を曇らせる文官達に、私は彼らを安心させるように優しく声をかける。
「安心しろ。優秀なお前たちなら、あっという間に慣れる。それに、しばらくの間、優秀な私やエイモンもお前たち一緒に仕事をする。だから問題ない」
カーラ一人で出来ていたのだ。
私やエイモン、優秀な文官達が力を合わせれば、問題なく回るだろう。
エイモンはここ数年、主にアリシアの補佐として動いてもらっていたが、そろそろ次期公爵としての仕事に重きを置いてもらう。
次期公爵が公爵家の仕事が出来ないとなれば、他の貴族に笑われるからな。
ただえさえ、あの女の件で他の貴族達から距離を置かれているのに、これ以上、距離を置かれるような恥は晒したくない。
その時、ノックも無しに執務室の扉が勢いよく開かれる。
「あなた~、少し良いかしら~?」
「ダリアナ、どうした?」
男を誘惑するような露出の多いドレスと、鼻につくほど強い香水を身に纏ったダリアナが、ずかずかと執務室へ入ってくると、文官達が見ている中で、堂々と私の腕に手を絡めてしなだれかかった。
「先月~、王都で流行っているドレスをたくさん買ったんだけど~、支払いがまだだって、さっき執事のウィルトンに言われたのよ~」
「あぁ、支払いか」
確か、支払いはカーラに任せていたな。
あの程度のことなら、私より遥かに劣っているあの女でも出来ると判断したから。
仕方ない。
「分かった。それなら私が今日中にどうにかしょう」
「ありがとう~♪ それじゃあ明日、アリシアと一緒に新しいドレスを買いに行ってくるわね~。いずれ開かれる婚約パーティー用のドレスを買いに♪」
そう言うと、ダリアナは心底嬉しそうな顔で私の頬へキスを落とす。
「あなたと結婚出来て、本当に良かったわ。セドリック♪」
「私も、君と結婚出来て良かったよ。ダリアナ」
幸せそうな彼女と微笑み合って、私はようやくバリストン公爵家があるべき姿になったと実感する。
大丈夫。
私やエイモン、そして優秀な文官達がいれば、道具としか価値が無かったあの女の穴くらい簡単に埋められる。
――そう、この時の私は本気でそう思っていた。
エイモンが、想像以上に使えないことに気づくまでは。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、二話に渡って、公爵視点をお届けしました!
いや~、フラグが立ってますね(笑)
※大幅改稿しました。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




