第10話 俺が幸せにする(後編)
※フォール視点です。
『フォール様!』
俺の脳裏に蘇る、ヘーゼル色の髪とアイスブルーの瞳を持つ少女の笑顔。
俺が13歳の頃、母親と一緒に来たあの子は、王都に戻ってしばらく経った頃、王太子の婚約者になっていた。
その子がもし、俺のところに来てくれるのなら……
複雑な気持ちを抱えながら、公爵たちに気づかれない距離を保ちながら後を追っていると、二人の会話から『婚約者を交換する』という最悪の言葉が耳に届く。
……まさか、本当にするのか! あのバカげたことを!
「本当に、カーラの頑張りを全て、無駄にする気なのか……!」
「坊ちゃま……」
カーラを都合の良い道具として使っていたくせに!
後ろから公爵に殴りかかる衝動に堪える。
ダメだ、ここで俺が殴ったところで、彼女の現状が変わるわけじゃない。
カーラが王太子の婚約者として頑張っていることは、辺境に来る王宮の使者たちから何度も聞いていた。
……悪意に満ちた胸糞悪い噂と一緒に。
悔しさを堪えるように強く拳を握った俺は、背後のセバスに指示を出す。
「セバス。もし、本当に噂が現実になった場合……」
「その時は、誠心誠意お迎えいたしましょう。あの方は、旦那様にとって忘れ形見同然なのですから」
「……頼んだ」
深く息を吐いた俺は思考を切り替える。
そうだ。これは、愛人の娘など好ましく思っていなかった俺にとって人生最大の好機!
――逃すわけにはいかない!
その後、二人の後を追った、俺はセバスと二人の後に謁見の間に入る。
そして、公爵とフィリップから『婚約者交換』という心底胸糞悪い提案をされ、俺は『陛下からの許しを頂けましたらお受け致します』と返事をし、その場で前代未聞の婚約破棄と婚約成立が叶った。
◇◇◇◇◇
「前々から、公爵とフィリップは愚かだと思っていたが……まさか、国王夫妻までとは」
「坊ちゃま。王城を出たからといって、滅多なことを口にしてはいけません」
「分かっている」
俺も貴族の端くれ。そのくらいの常識は頭に入れている。
……婚約者が変わって、心底喜んでいる公爵と王太子殿下と違って。
深く息を吐いた俺は、セバスに視線を戻すとこれからのことを話す。
「セバス。予定通り王都の宿で一晩過ごし、明朝、宿を出てすぐ、転移魔法を使って辺境に戻る」
「おや、坊ちゃまのことですから、今すぐにでも新しい婚約者を迎えに行かないのですか?」
「バカを言うな。いくら俺が彼女を望んでいるとはいえ、俺の行動でこれ以上、彼女の立場を悪くするようなことはしたくない」
本当は、今すぐにでも彼女を公爵家から連れ出し、一緒に辺境伯家に来て欲しい。
彼女が周囲から疎まれていると知っているなら尚更。
だが、公爵令嬢である彼女の立場を、俺の身勝手のせいで悪くするわけにはいかない。
「それもそうですね。いくら坊ちゃまでも、そんな貴族として不作法なことは致しませんよね?」
「当然だ。それに、公爵家だって愚かではないのだから、他の家に嫁ぐ娘を立派な馬車に乗せてこちらに来るだろう」
体裁を重んじる公爵なら、例え、愛していない娘でも、貴族としての最低限のことはするはずだ。
小さく息を吐いた俺は話を戻す。
「屋敷に戻り次第、俺は屋敷にいる者達全員に説明し、両親と祖父母と叔父上に手紙で今日のことを伝える。その後、辺境伯家の『影』を使って彼女の周囲を再び洗い直す」
「かしこまりました。でしたら私は、坊ちゃまが使用人達に事情を説明された後、リスタット辺境伯家の名に懸けて、使用人達と共に最高のおもてなしのご準備を致しましょう」
「頼んだ」
彼女はきっと、深い絶望を抱えたまま辺境に……俺のところに来るに違いない。
ならば……!
「俺が、彼女を幸せにする」
『魔力ゼロ』と蔑まれながらも、母の死を乗り越え、王太子の婚約者として懸命に努力し続けた彼女が、辺境に来たことを、俺の嫁として来たことを後悔しないように。
静かに胸に誓った俺は、王都で一晩過ごした後、転移魔法を使い、急いで領地へと戻った。
――まさか、彼女が貴族とは思えない過酷な旅路を経て俺のところに来るとは思わず。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、前後編に分けてフォールの思いをお届けしました!
短編では描かれなかった彼のカーラに対する思いを明確に描けて嬉しかったです。
そんな彼が、カーラのことをどのように迎え入れるのか。
また、セバスが言っていた『忘れ形見』とは一体……?
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




