第8話 私がこの国のお姫様♪
※アリシア視点です。
「はぁ~、ようやく我が家の面汚しを処分できたな」
「そうねぇ。あの女の子どもなんて、本当は私の手で殺してあげたかったのだけど」
「やめろ。あれでも一応、私たちのアリシアのために、それなりに役立っていたのだからな」
「あら、そうだったわ♪ ごめんなさ~い」
お義姉さまをボロ馬車で田舎貴族のもとへ追いやった私たち家族は、使用人たちと共に上機嫌で屋敷へ戻る。
誰一人として、お義姉さまがいなくなったことを悲しむ者はいない。
当然よね。
だって、お義姉さまは『魔力ゼロ』の欠陥品なのだから。
「アリシア、今日は殿下との婚約を盛大に祝おう!」
「そうよ! 今日のうちに私たちと親交がある貴族たちを全員呼んで、盛大なパーティーを開きましょう!」
「ダリアナ、それはさすがに難しいだろう」
「そう?」
「あぁ、王家主催の婚約披露も控えているのだから。そうですよね、殿下?」
いつになく機嫌が良いお父様に、隣を歩いていた私のフィリップ殿下が満足げに頷く。
「そうだな。王宮を出る時、父上も母上も僕たちの婚約を大層喜んでいたから、恐らく盛大な婚約披露パーティーを執り行うはずだ。だから今日は、公爵家でささやかに――いや、王宮で王家と公爵家だけで細やかな食事会をしよう」
「よろしいのですか!?」
「もちろんだとも。父上も母上も君たちと今日という素晴らしい日をお祝いしたいにおっしゃっていた。というわけでエイモン、君は先に戻って使用人達に指示を出してくれ」
「それでしたら、王宮を出る前に執事と侍女長に指示を出しております」
「さすがだな」
殿下に褒められ、満更でもない表情をするエイモンお兄様は、本当に優秀な方で私のワガママをお父様と一緒に叶ってくださる。
本当、義妹である私にとことん優しいお兄様だわ♪
「というわけでアリシア、早速僕と一緒に王宮に来てくれるかい? 今日のために、君が前々から欲しがっていたドレスを用意させているんだ」
「もちろんですわ、フィリップ様!」
甘い笑みの殿下に抱きついた途端、胸の奥から今まで感じたことがない優越感が沸き上がってきた。
ようやく、ようやく、お義姉さまから――私と半分だけ同じ血が流れている、あの女から全てを奪うことが出来た。
別にあの女が本当に私が意図的に流した噂のような酷いことをされたわけじゃない。
あの女から何かを奪う時以外、まともに話したことがないのだから。
殿下の腕に抱かれた私は、初めて公爵家へ来た日のことを思い返す。
7歳の時、私はお母様と共に、お父様に手を引かれてこの屋敷に来た。
貴族の家は、私たち親子が暮らしていたあばら屋根の家と比べ物にならないほど立派な家で、今日からここで暮らせると思うと物語のお姫様になったようで気分が高揚した。
けれど、本邸で使用人達と仲良く暮らしていたあの女を見た瞬間、有頂天になっていた気持ちは、形容しがたい屈辱感に塗り替えられた。
手入れが行き届いた艶やかなヘーゼル色の髪。
お人形のような整った顔立ち。
綺麗なドレスを着こなす気高く凛とした姿。
同じ父親の血を引いているはずなのに。
私より地味顔の女が、さも当然かのように使用人に世話をされ、美味しい食事を与えられ、暖かな部屋で眠り、好きなだけドレスや宝石を身につけて贅沢な暮らしをしている。
対して私は、毎日食べる物にも困って、隙間風だらけのあばら家で震えながら眠っていた。
お父様と同じ血を引いているなら、私だってあの女と同じ暮らしをしたっていいのに!
どうして、私は今の今まで、地味顔の女より貧しい生活を……!
「アリシア。今日からあなたも、あの女の子どものように綺麗なドレスを着て、宝石を身につけられるのよ」
あの女を見て、嫉妬でどうにかなりそうになった時、私の耳元でお母様が優しく囁く。
優越感に浸ったような甘美な囁きに私は背中を押され、静かに決意した。
あの女は、私と違って『魔力ゼロ』という貴族として出来損ないの女。
だったら、貴族として欠陥品の女から全部奪ってやる。
公爵令嬢としての地位も。
家族や使用人などあの女に関わる人間も。
ずっと暮らしている居場所も。
あの女を構成しているもの全てを一つ残らず全て奪うわ!!
そして、美しく愛らしいこの私のものにするの!!
「いい、アリシア。女はね、美貌と愛嬌さえあれば、いくらでものし上がれるの。そして、あなたは私の娘。神様が遣わした天使なの。だから、この私に感謝して貴族としての生活を満喫するのよ」
「はい、お母様♪」
正直、自分の身体を使って男に媚びることしか知らない女を、母親だなんて思いたくないし、感謝なんてしたくもない。
けど、その女から教わった立ち振る舞いのお陰で、私はあの女が大事にしていたものを全て奪えた。
父親からの愛はもちろんのこと。
あの女に誓っていた使用人たちの忠誠も。
あの女を疎ましく思っていた婚約者も。
あの女を心配していた友人も。
あの女のために使われていたお金も。
あの女が暮らしていた場所も。
あの女が名乗っていた地位も肩書も。
全部全部全部! 『聖女』である私のものになったわ!!
「フィリップ様!」
「何だ?」
「私、フィリップ様と一緒に、この国のために頑張りますね!」
本当は頑張る気なんてないんだけど。
お義姉さまがしていた王太子妃の仕事なんて、全部文官に任せればいいし。
私はあの女と違って、人を動かすのが得意だから、いつもように庇護欲をそそる振る舞いをすれば、皆、喜んで私に任された仕事してくれるはずよ。
今までだって、そうして人に押し付けて自分の手柄にしてきたから。
あっ、でもパーティーにはちゃんと出るわ!
素敵な殿方がたくさんいるから!!
「あぁ、期待しているよ! 僕のアリシア!」
嬉しそうに笑った殿下は、愛おしそうにピンクブロンドの髪に口づけをする。
アハハハッ、本当、私の周りにいる人ってチョロいわ!
『聖女』の仕事だって、本当は国中を巡って結界を張りつつ、騎士団と共に魔物討伐に参加しないといけない。
でも、私が『魔物と戦うなんて怖くて嫌だから王都から離れたくない!』って言ったら、殿下が国王夫妻に進言してくださった。
そして、国王様が神殿に対して『聖女の願いを叶えよ!』って命じてくださって、結果、王都から離れずに聖女として最低限の仕事をしている。
はぁ~~、み~んな、私の可愛さに絆されていて最高だわ~~♪
そして翌日、私は正式な王太子妃に選ばれ、王都に住む人達から祝福され、私はこの上ない優越感に浸った。
私のワガママが簡単に叶えられるこの国で、一番のお姫様になった私は、皆にチヤホヤされながら、今まで通り、『聖女』としての仕事もあまりせず、未来の国母として悠々自適に暮らせる未来が待っていると思っていた。
――だから、知らなかった。
『魔力ゼロ』と蔑まれていたあの女が担っていたものが、想像していたより遥かに多かったことを。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、カーラ追放後のアリシアのお話です!
実はこの話、短編でも入れたかったのですが、色々あって入れられませんでした。
ですので、今回やって入れられて嬉しかったです!
短編では『ワガママ女』というだけでしたが、長編ではそこに加えて『家族を含めて周囲の人間を駒としか思っていない』という要素を入れました。
本当、『聖女』とは思えないヤバイ性格のキャラですね(笑)
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




