第7話 私がこの国のお姫様♪
※アリシア視点です。
「アリシア様! 婚約者がフィリップ様になられたのですよね! おめでとうございます!」
パーティー用のドレスに身を包んだ私は、王宮に仕える使用人たちに祝福され、思わず笑みが零れる。
「ありがとう! ようやくフィリップ様と一緒になれて嬉しいわ!」
「そうですよね! 私も殿下の婚約者が悪女から聖女様になって、嬉しいですわ!」
使用人の『悪女』という言葉に、笑みを深める。
お義姉さまをボロ馬車で田舎貴族のもとへ追いやった時、誰一人として、お義姉さまがいなくなったことを悲しむ者はいなかった。
当然よね。
だって、お義姉さまは『魔力ゼロ』の欠陥品なのだから。
今までフィリップ様の隣にいたのが間違いだったのよ。
その時、私のフィリップ様の瞳の色であるコバルトブルーのドレスに身を包む自分と目が合い、胸の奥から今まで感じたことがない優越感が沸き上がってきた。
ようやく、ようやくよ!
お義姉さまから――私と半分だけ同じ血が流れている、あの女から全てを奪うことが出来たわ!
別にあの女から私が意図的に流した噂のような酷いことをされたわけじゃない。
あの女とは何かを奪う時以外、まともに話したことがないのだから。
殿下の腕に抱かれた私は、初めて公爵家へ来た日のことを思い返す。
7歳の時、私はお母様と共に、お父様に手を引かれてこの屋敷に来た。
貴族の家は、私たち親子が暮らしていたあばら屋根の家と比べ物にならないほど立派な家で、今日からここで暮らせると思うと物語のお姫様になったようで気分が高揚した。
けれど、本邸で使用人達と仲良く暮らしていたあの女を見た瞬間、有頂天になっていた気持ちは、形容しがたい屈辱感に塗り替えられた。
手入れが行き届いた艶やかなヘーゼル色の髪。
綺麗なドレスを着こなす気高く凛とした姿。
同じ父親の血を引いているはずなのに。
お父様に愛されていないくせに、あの女はさも当然かのように使用人と会話していた。
『ミーナ。この後の予定は何かしら?』
『この後は、歴史の授業でございます』
『分かったわ。その前に、先程の授業の復習をするわ』
『かしこまりました。では、昼食はお部屋に運びますね』
『頼んだわ』
当たり前のように使用人に世話される。
当たり前のように美味しい食事を食べる。
当たり前のように暖かな部屋で眠る。
当たり前のように、好きなだけドレスや宝石を身につけて贅沢な暮らしをしている。
どうして……どうしてどうしてどうして!!!
どうしてあの女は贅沢しているの!?
私は、毎日食べる物にも困って、隙間風だらけのあばら家で震えながら眠っていたのに!
お父様と同じ血を引いているのに、どうしてあの女と同じ暮らしが出来なかったの!?
どうして、私は今の今まで、あの女より貧しい生活を……!
「アリシア。今日からあなたも、あの女の子どものように綺麗なドレスを着て、宝石を身につけられるのよ」
あの女を見て、嫉妬でどうにかなりそうになった時、私の耳元でお母様が優しく囁く。
優越感に浸ったような甘美な囁きに私は背中を押され、静かに決意した。
あの女は、私と違って『魔力ゼロ』という貴族として出来損ないの女。
だったら、貴族として欠陥品の女から全部奪ってやる。
公爵令嬢としての地位も。
家族や使用人などあの女に関わる人間も。
ずっと暮らしている居場所も。
あの女を構成しているもの全てを一つ残らず全て奪うわ!!
そして、美しく愛らしいこの私のものにするの!!
「いい、アリシア。女はね、美貌と愛嬌さえあれば、いくらでものし上がれるの。そして、あなたは私の娘。神様が遣わした天使なの。だから、この私に感謝して貴族としての生活を満喫するのよ」
「はい、お母様♪」
正直、自分の身体を使って男に媚びることしか知らない女を、母親だなんて思いたくないし、感謝なんてしたくもない。
けど、その女から教わった立ち振る舞いのお陰で、私はあの女が大事にしていたものを全て奪えた。
父親からの愛も。
使用人たちの忠誠も。
婚約者も。
友人も。
地位も肩書も。
全部全部全部!
『聖女』である私のものになったわ!!
「私、フィリップ様と一緒に、この国のために頑張るわね!」
本当は頑張る気なんてないんだけど。
お義姉さまがしていた仕事なんて、全部文官に任せればいい。
私がやる必要なんてないわ。
だって、私はあの女と違って、人を動かすのが得意だから、いつもように庇護欲をそそる振る舞いをすれば、皆、喜んで私に任された仕事してくれるはずよ。
今までだって、そうして人に押し付けて自分の手柄にしてきたから。
これからもそうしていけばいい。
あっ、でもパーティーにはちゃんと出るわ!
素敵な殿方がたくさんいるから!!
「さすが、聖女ですわ! いえ、未来の国母ですわ!」
私の言葉に満面の笑みを浮かべる使用人たち。
アハハハッ、本当、私の周りにいる人ってチョロいわ!
『聖女』の仕事だって本当は各地を巡らないといけない。
だって、聖女の使う魔法は、あらゆる害悪を払い除ける特別な魔法だから。
でも私が嫌だと言ったら、殿下も国王様も私の味方をしてくれた。
おかげで私は王都から離れずに済んでいる。
み~んな、私の可愛さに絆されすぎ。
まぁ、絆されるほど可愛いのだから仕方ないんのだけど。
そして数日後、フィリップ様は立太子され、私は『聖女』にして王太子妃に選ばれた。
あの女が十年かけて築いた場所に、私は何の苦労もなく立っていた。
「皆さま、ありがとうございます~!」
王城のテラスでフィリップ様と共に祝福を受けた私は確信した。
これから先も、私の望みは何でも叶うのだと。
――だから、知らなかった。
『魔力ゼロ』と蔑まれていたあの女が担っていたものが、想像していたより遥かに多かったことを。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、短編で描かれなかったアリシアの本性が描かれました。
いや~、怖いですね(笑)
※大幅改稿しました。
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