第78話 与えらえた者として
「どうだ、アリシア嬢。今までカーラに強いていた『交換』をされた感想は?」
長い間、私たち義姉妹を縛り付けていた呪縛が、禍々しい紋様と共に消え去る。
私たちを包み込んでいた突風も静かに収まり、辺りは不気味なほどの静寂に包まれた。
そんな中、フォール様は小さく笑みを浮かべながら、アリシアへそう告げる。
――その目は、少しも笑っていなかった。
……正直、怖い。
でも、それくらい彼は本気で怒っていた。
私が『交換』という名の『略奪』を強いられてきたことを知っていたから。
――フォール様、本当に私のことを調べてくださっていたのね。
けれど、彼の無慈悲な言葉は、アリシアにはまるで届いていなかったようだった。
「ああっ……私の魔力が、私の聖女の力が……!」
騎士から解放され、起き上がったアリシアは、絶望した表情で震える両手を見つめる。
本当に信じていたのね。
この力は、生まれた時から自分の中にあったものだと。
――それが『交換』によって得た力だとは、最後まで知らないまま。
「だから、それは君の力じゃないと言っているだろう」
フォール様は呆れたようにため息をつく。
その傍らで、私もまた自分の両手を見つめた。
「これが、私の本来の力」
「そうだ。それは君がこの世に生を受けた瞬間、神から授かった大切な贈り物だ」
「…………」
さっき、フォール様に促されて初めて『聖女の力』を使った時にも思ったけれど……私の魔力って、人肌みたいにとても温かいのね。
――これが、本来私の中にあった力。
神様から授かった、私だけの特別な力。
その温もりを噛み締めるように、私は静かに両手を握り締めた。
そして……私は、心の中で静かに決意する。
「フォール様」
「なんだ?」
「私、この力を辺境だけではなく、この国に住む人たちのためにも使いたいですわ。魔物に脅かされている人たちを、一人でも多く救いたいです」
本当は、辺境のためだけに使いたい。
だって私は、未来の辺境伯家夫人なのだから。
けれど、この力は、それだけのために与えられたものではないと直感で分かる。
――アリシアのように、私利私欲のために使っていい力ではないことも。
この力は、魔物に脅かされている人々を救うためにある。
ならば私は、その人たちのためにこの力を使いたい。
――それが、この力を授かった者の使命だと思うから。
その時、フォール様が私の両手を包み込んだ。
「そうだな。神から与えられたこの力、皆のために使おう」
「良いのですか?」
「もちろんだ。カーラのこの力は、辺境だけのものじゃない。それくらい俺にも分かっている。なにより――」
フォール様が、ゆっくりと私へ顔を寄せる。
「俺の大切なカーラが望むことなら、俺はその意思を受け止める。そして、未来の夫として、必ず君を守る」
「っ……!」
彼の次期辺境伯としての誇りと気高さに満ちている姿に、思わず見惚れてしまう。
その瞬間、半年前に交わした誓いが脳裏をよぎった。
『俺の未来の伴侶である君に誓う。これから先、君が何を話しても、君がどんなことをしようとしても、俺が全て受け止める。そして、絶対に君が害されるようなことはしないし、させない……未来永劫だ』
あの日の誓いを、フォール様は今も変わらず守ろうとしてくれている。
――生涯をかけて、本気で。
改めて思う。
この方の未来の妻になれて、本当に良かった。
――この方に出会えて、良かった。
彼の笑顔と言葉。
そして、私の両手を包み込む大きく温かい手。
彼から与えられる温もりに、思わず涙が出そうになった瞬間、魔力と共に戻ってきた記憶が溢れ出す。
そうだ、私……幼い頃に、ここで彼と出会って、約束をしたわ。
「フォール様。私、思い出しました」
「何を?」
そっと顔を上げて、小首を傾げるフォール様に優しく微笑む。
「幼い頃、この場所であなた様と将来を誓い合ったことを」
「っ!」
――それは遠い昔、幼い私と若き日の彼が交わした、誰よりも大切な約束。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、魔力も取り戻し、記憶も取り戻したカーラ!
力を取り戻したことで、少しだけ強くなりましたね。
そんな彼女とフォールが交わした約束の全貌が、次回、明らかになります!
どうぞ、お楽しみに!
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