第77話 取り戻した力
「……本当に『聖女の力』がお義姉さまのものだったというの?」
アリシアの言葉に、心配そうに私を見つめていたフォール様が、険しい表情をして視線を戻す。
「そうだ。その力は元々、カーラのものだ」
「嘘よ!」
現実を受け止めきれないアリシアが悲鳴のような声を上げる。
「だって、この力は私の力だって……『お父様とお母様が真に愛し合ったから授かった力だ』って、お父様が言っていたもの!!」
「アリシア……」
空色の瞳を潤ませながら反論する義妹を見て、ようやく気付いた。
この子も私と同じだった。
私が『魔力ゼロだ』と信じ込まされたように、この子も『自分こそが聖女なのだ』と信じ込まされていたのね。
――同じ父親によって。
「……結局、あの男が本当に愛していたのは、自分の望む未来だけだったのね」
本当に、あの男の娘であることが心底憎いわ。
「カーラ……」
私を見て、悔しそうに顔を歪めたフォール様が、視線を前に戻すと一歩前に出る。
「アリシア嬢、俺は嘘などついていない」
「嘘よ! 絶対に嘘! だって、こうして使えたじゃない!」
「そうだな。父親から施された禁呪によって」
「っ!」
現実を突きつけるように冷たく言い放ったフォール様は、小さく呪文を唱え、右手に魔力を集める。
そして、静かに指を鳴らした。
パチン!
乾いた音が重苦しい空気に包まれた庭に響いた瞬間、私とアリシアの左手が淡く光を帯びる。
「っ!」
「な、何よ……これ!」
光が収まり、左手の甲に現れたのは赤黒く禍々しい紋様だった。
恐怖で足に力が入らなくなり、その場にへたり込むアリシアと、恐ろしさのあまり息を呑んだ私へ、フォール様は静かに告げる。
――見るからに恐ろしい紋様の正体を。
「それが、公爵が君たち二人へ禁呪を施した証だ」
「!」
これが、幼い私たちに刻まれた禁忌の力。
「恐らく、幼い君たちが眠っている間に、公爵自らが二人の髪の毛を媒介として禁呪を行使したのだろう。禁呪は威力が絶大な反面、発動には相応の対価と条件が必要だ」
「「っ!!」」
この恐ろしい力がいつ、私たちに施されたのかは分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
――この禍々しい紋様こそ、私とアリシア、二人の人生を狂わせた元凶なのだと。
「……嘘よ」
「アリシア?」
「嘘よ……嘘よ、嘘よ、嘘よ――!!」
アリシアは左手を押さえるように右手を重ねると、整えられていた桃色の髪を振り乱し、その場へ崩れ落ちた。
「だって! この力は私のものだって! お父様が……お父様がそう言って……!」
ポロポロと涙を流しながら震える声を漏らすアリシア。
崩れ落ちたその肩を見て、私たち義姉妹が信じていた世界が、今この瞬間、音を立てて崩れたのだと悟った。
「アリシア……」
嗚咽を漏らしながら泣く彼女に思わず手を伸ばそうした時、フォール様が私の手首をそっと掴んだ。
「フォール様?」
「第三者である俺にまで君たちの紋様が見えるほど禁呪が弱まっているということは……もう頃合いだな」
真剣な表情のまま私の左手を取ったフォール様は、騎士たちへ静かに目配せをする。
その合図だけで騎士たちは一斉に動き、アリシアの身体を取り押さえた。
「な、何するのよ!」
必死にもがくアリシアへ一瞬だけ憐れむような目を向けたフォール様は、私を彼女の前まで導く。
「フォール様、一体何を……?」
戸惑う私へ、フォール様は穏やかに微笑んだ。
「カーラ。アリシア嬢の紋様が刻まれた手の甲へ、君の手を重ねてくれ」
「わ、分かりました……」
「離しなさい! 離しなさいってば!!」
何をしようとしているのかは分からない。
それでも、不思議と恐怖はなかった。
――フォール様なら、私を傷つけるようなことはしない。
今ならそう信じられるから。
涙を流しながら抵抗するアリシアの左手へ、私は恐る恐る自分の左手を重ねた。
その瞬間、激しい突風が渦を巻き、私たち二人を包み込む。
「きゃっ!」
「カーラ!」
髪も服も大きく揺れる中、重ねた手の甲から禍々しい紋様が少しずつ消えていく。
そして、重ねた手から温かな何かが、ゆっくりと私の中へ流れ込んできた。
「や、やめて! 私の魔力が! 聖女としての力が!!」
「えっ?」
涙を流しながら叫ぶアリシアに驚いた私は、すぐ隣にいたフォール様を見やると、視線に気づいたフォール様が満足げに頷いた。
「どれほど強力な禁呪でも、永遠ではない。幼い頃に施された術なら、なおさらだ」
「っ! では、今起きていることは……!」
「ああ。公爵が君たちへ施した禁呪が、今まさに解けようとしている」
「「っ!」」
それじゃあ今、私の中に流れ込んでくる温もりは……!
「第三者に見破られるほど禁呪の効力が弱まった今なら、正式な手順を踏むことで解呪魔法を用いずとも術は解ける」
そして、フォール様は心底嬉しそうに笑った。
――まるで、長い間、ずっとこの時を待っていたかのように。
「つまり、公爵によって奪われた――本来の君の力が戻ってきたんだ」
その言葉を聞いた時、私はようやく理解した。
今、私の中へ流れ込んでいる温もりこそが、あの男によって奪われた、本来の私の魔力なのだと。
すると、私とアリシアの手の甲に刻まれていた禍々しい紋様は完全に消え去り、私たちを包んでいた突風も、まるで最初から存在しなかったかのように静かに収まっていった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、フォールの手によって、カーラの本来の力をアリシアから取り戻しました!
いや~、お父様、めっちゃ怖いですね(笑)
さて、お父様によって『交換』された力が、フォールによって『交換』された今、どうなるのか!?
次回、お楽しみに!
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