第73話 『容姿だけ』という違和感
「自身の汚点を帳消しにし、あわよくばアリシアを未来の国母にするために……!?」
「国王夫妻に私を秘密裏に会わせるですって!?」
実の父親の思惑に、私とアリシアは思わず声を荒げた。
あの男が愛人である継母も、その娘であるアリシアも手放したくなかったことは分かる。
同じくらい、貴族としての体裁を守ることに執着していたことも。
でも、その二つを同時に叶えるために、国王夫妻へ秘密裏にアリシアを引き合わせようとするなんて……いくら何でも、強欲すぎない!?
そんな私たち姉妹に、フォール様は貴族なら誰もが知る現実を口にする。
「公爵は、国王夫妻が、バリストン公爵家以上に容姿と魔力を重んじる方々であることを知っていた」
フォール様の言葉を聞き、熱くなっていた頭が少しだけ冷えた。
そうね。
あの方々は、本当に容姿と魔力でしか人を見ない。
人柄も、努力も、優しさも関係ない。
――そうか、だからあの男は……
「だから、アリシアを秘密裏に国王夫妻へ引き合わせることで、汚点を帳消しにすると同時に、『未来の国母候補』として認めてもらおうとしたのですね? 国王夫妻なら、容姿だけでも興味を示すと分かっていたから」
「そういうことだ。もっとも、アリシア嬢を夫妻に会わせた際、『未来の国母にしてほしい』とまでは口にしなかったらしいが」
……当然よね。
そんなことを口にすれば、不敬罪に問われてもおかしくない。
それでも、そのような考えに至れたのは、公爵が陛下の幼馴染であり、互いに信頼関係が築かれていたから。
そして――あの男が、負ける勝負を決してしない人だから。
「お父様、そこまで私のことを考えて……」
フォール様の話を聞いて、顔を青ざめさせていたアリシアが、今度は感極まったように瞳を潤ませる。
本当に、なんておめでたい頭をしているのかしら。
母親似の容姿だったから生かされただけで、本来なら『貴族の汚点』として、この世から消えていてもおかしくなかったというのに。
そんな浮かれた気持ちの義妹をよそに、フォール様が話を続ける。
「とはいえ、アリシア嬢の容姿だけでは国王夫妻を納得させられないことくらい、公爵も理解していた」
「えっ?」
『だけ』ってどういうこと?
アリシアは生まれた時から『聖女の力』を持っていたはず……
「どうしてよ? 国王様と王妃様が気に入っているなら、それでいいじゃない」
得意げに鼻を鳴らすアリシアに思わずため息が漏れる。
そしてそれはフォール様も同じだった。
「容姿と魔力を重視する国王夫妻であるが、国を統べる王族として矜持はある」
「矜持?」
「つまり、お父様の血を引いているとはいえ、元男爵令嬢である娼婦のお継母さまから生まれたあなたを、容姿だけで貴族として認めるのは無理なのよ」
「っ!」
私の言葉に、アリシアが怒りで顔を赤くする。
全く、その程度で貴族として認められるなら、この国の貴族の品格が地に落ちるわ。
とはいえ、フォール様の『容姿だけ』って言葉が引っ掛かるわ。
――まるで、アリシアは生まれた時は『聖女の力』を持っていないみたいな……
「カーラの言う通り、母親譲りの容姿だけでは、王家はもちろん、周囲の貴族たちも君を貴族として認めることは出来ない……それこそ、『聖女の力を有している』というものでもない限り」
「そうですわね」
国王夫妻の好みに合う容姿だったとしても、所詮は貴族と平民の間に生まれた子。
国王夫妻に認めてもらうにしても、『不義の子』という印象を払拭しなければならない。
ましてや、貴族として迎え、未来の国母に据えようというのなら、なおさらだった。
だからこそ、『聖女の力』のような決定的な理由が必要だった。
実際、アリシアは国王夫妻、そして周囲の貴族たちを納得させる『聖女の力』を持っていた。
……少なくとも、その時の私はそう思っていた。
「愛する親子を貴族として迎え入れ、愛娘を未来の国母に据える方法を模索していた時、公爵は屋敷である事実を耳にする」
「ある事実、ですか?」
「そうだ」
首を傾げる私へ、フォール様が静かに告げる。
――それは、今までの人生を否定するようなものだった。
「『戸籍上の妻との間に生まれた子が、聖女の力を有している可能性がある』という事実を」
「っ!」
『戸籍上の妻との間に生まれた子』。
その子どもは紛れもなく――私、カーラ・バリストンのことだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、公爵の思惑が徐々に明らかになってきましたね。
フォールの『容姿だけ』という言葉に引っ掛かるカーラ。
そんな彼女に最後、とんでもない爆弾が投げ込まれましたね!
一体、どういうことなのか!?
次回、お楽しみに!
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