第67話 お義姉さま、交換してください!
「お待ちください、こちらに行っては……!」
「あ~!! いた~!!」
「っ!?」
穏やかな陽気に包まれた広大な庭に、聞き覚えのある甲高い声が響き渡る。
――遂に、来てしまったのね。
慌ててガゼボから出ると、フリルがたっぷり使われたドレスに身を包んだ女性が、私を見つけて目を見開いていた。
「アリ、シア……」
久しぶりに見た彼女の天使のような可愛い容姿に、思わず小さく唇を噛み締める。
本当は来てほしくなかった。
もう二度と関わりたくなかった。
――ここで手に入れた大切なものを、奪われたくなかったから。
胸の奥で、忘れていた恐怖と怒りが竜巻のように渦を巻いた時、突然、大きな手が私の肩を抱き寄せた。
「フォールさ……っ!」
隣を見ると、そこには義妹に対して敵意むき出しのフォール様がいた。
――まるで、スタンピードに行くかのような気迫ね。
片手で数えられるほどしか見たことが無い、彼の殺気交じりの険しい表情に少しだけ頬を引き攣らす。
すると、アリシアは私を指差し、鬼の形相で言い放った。
――半年前、別邸で言い放った『いつも』の言葉を。
「お義姉さま! 私と交換してください!!」
「っ!」
怒りの籠ったその言葉が、『お願い』ではなく『命令』だった。
思えば、半年前も、そうだった。
『交換してください!』
その一言で、婚約者も、『未来の国母』としての地位も失い、母との思い出が詰まった家まで追われた。
王都を出た時、辺境でも実家と同じ……いや、それ以上の扱いを受けるのだと、私は心のどこかで諦めていた。
……でも、違った。
ここには、私がずっと欲しかったものがあった。
人の温もりも、優しさも、誠実さも、愛情も――。
それを与えてくれたのは――隣にいる、大好きな人だった。
『ここは、バリストン公爵家ではない。リスタット辺境伯家だ』
そう、ここは私から何もかも搾取する場所じゃない。
私を信じてくれる人がたくさんいて、私が心の底から守りたいと思える場所。
「ねぇ、お義姉さま! 聞いているの!? 私と交換してって言っているの!」
「君、それが人にものを頼む時の態度……!」
「フォール様、大丈夫です」
「カーラ」
そっと目を開けた私は、フォール様へ優しく微笑みかけると、抱き寄せられていた腕へ静かに手を添える。
「私は大丈夫です。だから、信じてください」
眉間に皺を寄せる彼へ、私は笑みを深める。
王都にいた頃は、たった一人だった。
一人で抗い、そして全てを奪われた。
……でも今、ここには、私の言葉へ耳を傾けてくれる人達がいる。
『悪意ある噂』に惑わされず、私という人を見てくれる人達がいる。
そして――ありのままの私を愛してくれる人がいる。
だから、大丈夫。
「……分かった、信じよう。だが、無理はするな」
「ありがとうございます」
彼の優しさに甘えた私は、小さく頷くと、静かに義妹へ向き直る。
そんな私に、義妹が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「フン。見ないうちに、すっかり生意気になったわね」
「あら、元からこんな感じよ」
「っ! お義姉さまのくせに生意気よ!!」
そう言って、アリシアが私に向かって手をかざした瞬間――。
私の横から頼もしい腕が伸び、アリシアの足元へ業火が小さく円を描いた。
「撃ってみろ。その瞬間、貴様の魔法もろとも業火の中で灰燼に帰してやる」
「チッ!」
据わった瞳に冷たく鋭い言葉に込められた、明確な殺意。
さすがは次期辺境伯当主。
魔物すら一瞬で焼き尽くす業火と殺気を前に、押されたアリシアは、不服そうな顔でゆっくり手を下ろす。
すると、アリシアの足元を囲んでいた炎が静かに消え、横に伸びてきた手が下ろされた。
「すまない。『信じる』と言った手前、君の意思に背くようなことをしてしまって」
「いえ、むしろ助かりました」
魔力ゼロの私では、魔法を撃たれたらひとたまりもないから。
それに……大切な人が私の身内を傷つけるところを見たくなかったから。
小さく頷いた私は、笑みを潜めてアリシアへ向き直る。
「それで、アリシア。あなたの言う『交換』って、もしかしなくてもあなたと私の立場を交換して欲しいってことかしら?」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、アリシアと再会したカーラ!
欲望まみれのアリシアからの『交換』に、第二章で人として大切なものを取り戻し、愛されることの大切さを知ったカーラはどう答えるのか!?
(今回のタイトルは第一話のタイトルを少し弄りました(笑))
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