第66話 自らの意思で
「まぁ、何であれ、カーラに対してワガママ放題だった義妹が、ようやくカーラの大変さを実感し、仕事に嫌気がさして城を出たのだろう」
「そうですね」
フィリップ殿下や国王夫妻から色々吹き込まれたであろうあの子には、『王太子妃』という『未来の国母』の地位が、とても輝いて見えたのだと思う。
だから、お父様たちを巻き込んで私から婚約者ごと奪った。
本当は、誰もが羨むほど華やかなだけの地位ではない。
国王の妻になるということは、国の全てを背負うということ。
周りにチヤホヤされ、思うままに振る舞えるだけの地位じゃない。
脳裏に蘇る義妹の笑顔に思わず下唇を噛んだ私は、『義妹が城を出た』ということに嫌な予感を覚える。
「フォール様」
「なんだ?」
「義妹が城を出たということは……恐らく、義妹は私のところへ来るかと」
どうしてそう思ったのか、自分でも分からない。
あの子のことは、『義妹』であることと、『交換』という言葉で私から大切なものを奪ってきたこと以外、何も知らない。
それでも、胸の奥が嫌な予感を告げていた。
義妹は、きっと私のところへ来る――と。
「あぁ、遅かれ早かれ、ここに来るだろう」
「っ!」
フォール様の言葉に背筋に冷たい何かが走る。
『お義姉さま!』
私のことを義理の姉なんて思っていない義理の妹の、有無を言わせない笑顔で告げられる『交換』という名の略奪。
――また、奪われてしまうの?
私の大切なものが、あの純粋無垢な笑顔によって。
今まで忘れていた恐怖が蘇り、思わず両手を握った時、大きな手がそっと私の肩を抱き寄せた。
「フォール様?」
「カーラ、君が嫌なら俺が義妹を追い払おう」
「えっ?」
「ここに来るということは、義妹の目的は間違いなく君だ。そして、義姉である君にとんでもないことを言い出すに違いない」
確かに、あの子が私に用がある時は、大抵は無茶苦茶なワガママをお願いする時だけど……
すると、眉間に皺を寄せたセバスがフォール様に話しかける。
「フォール坊ちゃま、カーラ様にはどこまで話されていたのですか?」
「叔母上の話はしたが、あの話はまだだ」
「あの話?」
フォール様、お母様のこと以外で私に話さないといけないことがあったの?
首を傾げる私とは対照的に、セバスの表情が少しだけ険しくなる。
「でしたら、アリシア嬢が来た際、カーラ様と一緒に話を聞いていただいたほうが」
「セバス。今、大事なのは、カーラがアリシアと会いたいか会いたくないかだ」
「っ! そう、かもしれませんが……!」
顔を歪めるセバスに、私は握ったままの両手に視線を落とす。
フォール様は、どんなことがあっても私の意思を尊重して、叶えようとしてくれる。
私が義妹に会いたくないと言えば、どんな手を使ってでも会わせないようにしてくれるはず。
だったら……!
「フォール様」
「どうした?」
顔を上げた私は覚悟を決める。
「もし、アリシアが来たら……会わせてください」
「っ! カーラ、本当にいいのか?」
驚いたように見るフォール様に、私は深く頷く。
「はい。あの子が私に用があるというのなら、私はあの子の義姉として応じます」
――正直、会いたくない。
会ってしまったら、また奪われてしまいそうになるから。
私が大切にしているもの全てを。
「カーラ、無理しなくてもいいのだぞ。君はもう、俺の婚約者であり……何があっても守りたい大切な人なのだから」
私の顔を見たフォール様がそっと私の両肩に手を置く。
多分、私の不安な気持ちが彼に見透かされたのだろう。
『俺の婚約者だから無理をしなくていい』
当たり前のように私を守ろうとしてくれる彼に、私は数え切れないほど救われた。
だから……!
「ありがとうございます。ですが、これは私がしたいことなのです」
そう。
これは私が、彼の婚約者として……未来の伴侶としてしたいこと。
それに……
「今なら、義妹とちゃんと向き合える気がするのです」
『お義姉さま、交換してください!』
『どうぞ』
『ありがとうございます、お義姉さま!』
初めて『交換』を口にされたあの日から、私は義妹と向き合うことを諦めた。
……何を言っても無駄だと悟ったから。
――でも、今は違う。
ここには、義妹に奪われたくないものが……私が心の底から大切にしたいと思えるものがたくさん出来た。
そして、人の温かさや優しさを、もう一度思い出した。
だから、今なら……大好きな人がいる今なら、義妹とちゃんと向き合って、自分の意思を言える気がする。
「それに、お二方がおっしゃっているあの話をアリシアと一緒に聞きたいですし」
「カーラ……」
その時、屋敷の入口が急に騒がしくなった。
「どうやら、来たみたいだな」
魔物討伐に行く時と同じ険しい表情をしたフォール様が、私を見つめる。
「カーラ、覚悟は良いな?」
「もちろんです」
そして――騒ぎを起こした元凶が、ガゼボのある庭に現れた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで次回、遂にアリシアが登場です!
第一章で奪われ、諦めていた彼女からは想像出来ない、見事な変化ですね!
人の優しさは、傷ついたものを癒し、勇気をくれるのですね。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




