第65話 足りないなら、奪えばいいだけ
※アリシア視点です。
「……そうだわ」
「アリシア?」
――足りないものがあるなら、奪えばいいじゃない。
首を傾げるフィリップ様をよそに、私は彼の机の上にあった辺境に関する書類を手に取る。
あの女がいる辺境は今、王都ほどではないけれど、諸外国から行商人が訪れるほど栄えている。
ということは、王太子妃だった頃ほどではないにせよ、あの女もそれなりに贅沢な暮らしをしているということ。
諸外国から運ばれてきたドレスやアクセサリーを好きなだけ買い、それなりに広く美しい庭で、毎日優雅にお茶を楽しんでいるに違いない。
だったら――!
「もう一度、交換すればいいのよ」
「っ!」
私の言葉に、フィリップ様をはじめ、その場にいた全員が息を呑んだ。
そうよ。もう一度、交換すればいい。
――あの女から、もう一度奪えばいいのよ。
「お、おい、アリシア! 嘘、だよな? 今、『もう一度交換する』と言ったのか?」
なぜか顔を青ざめさせているフィリップ様を見て、私は満面の笑みを浮かべた。
「はい、言いました」
「っ! なぜだ! 君は僕を愛していると言った! 『義姉に虐げられて苦しんでいるから助けて』と言った! だから僕は、君の願いを叶えようと、あの日、公爵と共に父上へ婚約者交換を願い出たんだ!」
そう言えば、婚約者交換のきっかけって、あの女から『未来の国母』という地位を奪うために、私が嘘をでっち上げ、この男に泣きついたことだったわね。
すっかり忘れていたわ。
椅子を蹴り上げて激高するフィリップ様に、私は民衆受けする慈悲深い笑みを浮かべた。
「フィリップ様。私は別に、あなたのことが嫌いになったわけではありません」
だからと言って、好きでもないのだけど。
私にとってあなたは……そうね。
私を楽にしてくれる人。
それだけ。
「だけど君は、『交換』すると……!」
「えぇ、言いました。ですが、本当に交換するわけではありません」
「は?」
そう、本当に交換はしない。
そもそも、あの女から奪った時点で私のものなのだから、返す必要なんてないわよね。
眉を顰めるフィリップ様に、私は今までの鬱憤をぶちまける。
「正直、私に……聖女である私に、贅沢をする自由すら与えず、道具のように毎日こき使うのでしたら、田舎貴族へ嫁いだ方が遥かにマシです」
「っ!」
私は、『聖女』である私をとことん甘やかし、贅沢をさせてくれる生活が欲しいの。
そのためなら、田舎貴族の元へ行っても構わない。
本当は心底嫌だけど。
だから……
「それに、あなた方だって言ったではありませんか。『お義姉さまの方がよかった』って」
「そ、それは! 過去の話であって、今はアリシアの方が良いと……」
「過去の話とはいえ、現状では私よりお義姉さまの方が有能。それは紛れもない事実でしょう?」
「くっ!」
悔しそうに顔を歪めるフィリップ様に、思わず笑みが零れる。
彼が苦しむほど、私の方が上なのだと実感できるから。
――あの女より、私の方が上なのよ。
「ですが、私は大好きなフィリップ様とも、両親がいるこの華やかな王都とも離れたくありません」
「アリシア……」
見え透いた嘘を見破れず、恍惚とした笑みを浮かべる彼を見て、さらに笑みを深めた私は、そっと耳元で囁いた。
「ですから、まずは私が辺境へ行き、『交換』を盾にお義姉さまを王都へ連れ戻します」
あの女は昔から『交換』に弱い。
だから、連れ戻すのは容易のはず。
「そして、お義姉さまを専用の執務室へ閉じ込めるのです」
「では、君が交渉している間に執務室を作らせておけばいいのだな?」
「はい」
そして、お父様に頼んで闇魔法師を秘密裏に呼び、『隷属』の禁術をお義姉さまへかけてもらう。
幼い頃、娼館へ来たお父様が闇魔法師を呼んで、禁術について話していたのを見たことがある。
――これで、お義姉さまは一生、私とフィリップ様のためだけに働く道具。
貴族令嬢が、元娼婦の娘の奴隷になるなんて。
アハハハッ……想像するだけで笑いが止まらないわ。
「だが、無理矢理連れ帰れば、フォールが……いや、リスタット辺境伯家が黙っていないだろう?」
あら、意外と頭は回るのね。
そこは褒めてあげてもいいわ。
「えぇ、ですので、お義姉さまを連れ帰った直後、聖女である私が魔物に襲われ、それが辺境伯家総出で仕組まれたことだとでっち上げます」
「そんなことが出来るのか!?」
「えぇ、お父様の力があれば出来ますわ」
お父様が辺境伯家をよく思っていないことは知っていた。
幼い頃、『あの女の母親とは政略結婚だった』と苦々しい顔で話していたもの。
そこに、『聖女が貴族によって故意に傷つけられた』なんて聞いたら、お父様は嬉々として動く。
そして、お父様から報告を受けた国王夫妻も神殿も必ず動く。
――『聖女』である私が言えば、嘘なんて簡単に真実になるのだから。
私の持つ書類へ視線を落としたフィリップ様が、満足そうに笑った。
「なるほど。僕が国王の名代として辺境伯家を潰せば、栄えている辺境を王家直轄領として手に入れられるし、カーラを以前のように働かせて、僕たちはあの頃みたいに楽をして暮らせるわけか」
「そういうことですわ」
私の提案に満足したフィリップ様は、嬉しそうに頷いた。
「では、君が辺境へ行く理由は『義姉に脅され、仕方なく辺境へ向かった』ということにしておこう。その方が良いだろう」
「さすが、フィリップ様ですわ!」
そう言って彼へ抱きつくと、彼は満更でもない表情で私を抱き締め返した。
適当に煽てれば、すぐに良い気分になってくれる。
本当に操りやすい人。
「それでは、行って参りますわ」
「あぁ、行ってこい!」
執務室を後にした私は、静かに笑みを歪める。
待っていて、お義姉さま。
今、そちらに行きますわね。
そして……もう一度、『交換』しましょう♪
私の輝かしい未来のために。
こうして私は、自由な未来を掴むため、転移魔法が付与された魔道具を使い、意気揚々と辺境へ向かった。
――そこで、私の知っているあの女は、もうどこにもいないのだと思い知る。
そして、私とあの女ですら知らなかった思わぬ真実を聞かされることになる。
……たった1人の男によって、私とあの女の人生が『交換』されていたことを。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、物凄い自己中心的な理由でアリシアはカーラのところに行ったのでした~
って、出来ないならやらせればいいって怖すぎますよね(笑)
アリシア、あなた聖女じゃない。
ガチの悪女だって!
そんなアリシアにカーラはどうするのか!?
次回、カーラの覚悟が試されます!
お楽しみに!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




