第63話 思っていたのと違う!
※アリシア視点です。
時系列として、フォールがカーラにフィオナ(カーラの母)について話していた頃です。
辺境に行ったあの女からフィリップ様と『未来の国母』という地位を奪って半年。
フィリップ様の公務を手伝っていた私は、書類仕事に追われる日々に飽き飽きしていた。
あの女以上に優秀な私が、フィリップ様のお役に立てることが素直に嬉しかった。
――けど、それは最初のうちだった。
「アリシア、先ほどの書類はどうなっている?」
「こちらですわ」
「ありがとう」
彼が文官達に丸投げしていた書類を私が処理し、それを殿下へ渡す。
文官達に教わりながら苦労して仕上げたその書類を、彼はさも当然かのようにこちらを見ず受け取る。
そんな彼を見る度に、私は自分が惨めに感じると同時に、彼に対して苛立ちを募らせる。
王太子妃って、もっと華やかな地位じゃないの?
もっと贅沢が出来て、もっとチヤホヤされるものじゃないの?
こんな……こんな毎日、書類仕事に追われているものなの!?
彼の机の端に積まれた書類の山に、思わずため息が漏れる。
山がようやく片付いたと思えば、翌日には山が増える。
これって、本来は文官達の仕事じゃないの?
『聖女』である、次期王妃である私が、こんな地味なことをする必要が無いわよね?
だって、今の王妃は、毎日優雅にお茶を飲んだり、ドレスや装飾品を選んだり、刺繡や読書を楽しまれているじゃない。
王太子妃教育では教えてくれなかった。
『未来の国母』という地位が、こんなにも地味で大変な立場だったなんて!
そんなことを思っていると、書類に目を通したフィリップ様が小さくため息をつかれた。
「アリシア。提出書類には必ず、僕が分かるくらいの要約を別途でつけるように言っているだろ? これでは、僕が分からないまま決裁をすることになるじゃないか」
「っ!」
なにが、『要約をつけろ』よ!
優秀な王太子っていうなら、自分で読んで理解して決裁しなさいよ!
「……申し訳ございません。すぐに作成して提出致します」
「あぁ、そうしてくれ。全く、君は僕と同じ優秀な人間なのだから、このくらい出来ないと困るよ」
「っ!」
あぁ、イライラする。
どうしてこんな男の婚約者になったのかしら。
こんなことなら、あの田舎貴族に嫁ぐべきだったわ。
多少贅沢が出来なくても、毎日、書類に追われる日々に比べたら遥かにマシよ。
すると、フィリップ様の机の上に置かれているいくつもの書類の中の一つに目が留まる。
「リスタット辺境伯領、月間魔物出現報告……」
無意識に出たその言葉に、仕事の手が止まったフィリップ様が、つまらなそうに頬杖をつく。
「あぁ、フォールがいるあの地味な場所か。確か、カーラがいるところだよな?」
「そうですね。あの姉にはお似合いの場所ですわ」
「だろうな、あの地味女にはお似合いの場所だ」
そうよ、ここはアステタント王国の中心であり、国で一番華やかな街、王都。
一歩出れば、綺麗なドレスも宝石も、有り余るほど並んでいる。
誰もが羨む贅沢が思う存分出来る場所なのよ!
何もない辺境とは大違いだわ!
フィリップ様の言葉を聞き、忘れかけていた優越感が胸に湧き上がった。
けれど、その後に続いた言葉に、思わず耳を疑った。
「だが、ここ最近は魔物討伐に伴う負傷者が激減しただけでなく、隣国へと繋がる行路に魔物が出なくなったため、諸外国から行商人が来るようになったらしい」
「へぇ~、まぁ、王都の華やかさには欠けるのでしょうけど」
「それはそうだな」
ニヤリと笑ったフィリップ様は、ふと懐かしむようにポツリと呟いた。
「……カーラがいた頃なら、もっと贅沢が出来た気がする」
「っ!」
その瞬間、胸の奥がざわついた。
どうして、今になってあの女の名前が出てくるの?
あの『魔力ゼロ』の欠陥品は、もう王都にいないじゃない。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、王太子妃になってようやく現実を突きつけられるアリシアでした。
いや~、理想と現実って全然違いますよね。
まぁ、次回、更にその事実を思い知らされることになるのですが。
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