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【長編】この度、ワガママ義妹と婚約者を交換することになりました  作者: 温故知新
第三章 再び交換しましょう!

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第59話 君を好きな理由

「本当に、私がお母様の付き添いで来たのですか?」

「あぁ。君が七歳の時、叔母上の療養で半年ほど滞在していた」

「七歳の時に半年ほど……」



 七歳――私が王族の婚約者になる前。


 お母様が亡くなる一年前のこと。


 あの頃にはすでに体調を崩される日が多かった。


 だから療養のため、この地を訪れたのね。


 言われてみれば、この屋敷に来た時、どことなく既視感を覚えたわ。


 まさか、随分前に来ていたとは思わなかったけど。


 その瞬間、脳裏に何かが蘇る。


 王都を出てしばらく、屋敷の前で馬車が止まり、幼い私の手を引いたお母様が嬉しそうに笑う。


 ――公爵家では一度も見せてくれなかった、溌剌とした笑顔で。



『カーラ。ここが私の実家、リスタット辺境伯家よ!』

『リスタット、へんきょうはく……』

『そうよ! そして、この方たちが私の大切な家族!』

『たいせつな、かぞく……』



 そう言って、お母様は誇らしげな笑顔で、一人ひとりを私に紹介してくれた。


 ――この記憶は、幼い頃の私の記憶?


 私が忘れていた記憶なの?


 すると、フォール様が懐かしそうに庭へ目を向ける。



「ここに来た時、君は淑女として完璧だった」

「そう、でしたか?」



 怒られてばかりだった気がするけど。



「そんな君を、俺は『何とかしたい』と思った。君が頑張り屋さんなことは、父さんや母さん……そして、君の母親である叔母上から手紙で聞いていたから」

「私がここに来る前から私のことを……」

「知っていた。だから君が辺境伯領にいる間、俺はアランや君を誘って一緒に庭で遊んだり、街に出かけたり、絵本を読み聞かせしたりしていたんだ」

「そう、だったのですね」



 記憶にないとはいえ、辺境伯家の皆様とそんな素敵な時間を過ごしていたなんて。


 その時、ゆっくりと立ち上がったフォール様が、私の隣に座ると優しく私の頭を撫でた。



「フォール様?」

「来たばかりの頃は、君は淑女の仮面を被って、公爵令嬢として俺たちと距離を置いていた。きっと、俺たちに迷惑をかけたくなかったからだろう」



 そうかもしれない。


 厳しい淑女教育を受けていた私は、他人に気を遣って当然だと思った。


 自分が『公爵令嬢』ということを、幼いながら理解していたから。



「だが、屋敷で一緒に過ごしていくうちに、いつしか君は一人の女の子として明るく、そして、好奇心のままに活発に振る舞うようになった」



 それは、貴族令嬢としてどうなのかしら?


 間違いなく失格よね。


 迷惑だってかけたはず。


 でも。


 私にもそんな年相応に無邪気だった時があったのね。


 ……今はもう覚えていないけれど。



「思えば、初めてカーラに出会った瞬間、俺は恋に落ちたんだ」

「っ!」



 それって、私が好きで読んでいる恋愛小説に出てくる『一目惚れ』では!?



「そして、日を追うにつれて、色んな表情を見せてくれる君に目が離せなくなった」

「フォール様……」

「いつしか、君は俺にとってこの世で大切な存在になった」



 そんな昔から、私のことを……


 不意に、この家に来た時のことを思い出す。



『初めまして、バリストン公爵家が長女、カーラ・バリストンでございます』



 何もかも忘れてしまった私を見て、出迎えに来たセバスと、その後に満面の笑みで抱き締めたフォール様は、一体どんな気持ちだったのかしら。


 胸が少しだけ痛む。



「カーラ?」

「私、今まで辺境伯家に来るのも、フォール様たちにお会いするのも初めてだと思っていました」

「あぁ、知っていた」



 そうよね。


 覚えていたら、『ご無沙汰しております』と挨拶していたはず。


 あまり申し訳なさに俯き、そっとスカートを掴む。



「だからずっと、あなた様が私を気遣って甘やかしてくださるのは、私の過去に同情し、婚約者として『私』という人に向き合い、尽くしてくださっているものだと思っていました」



 『悪女』として周囲に虐げられ、都合良い道具として働いていた私を知って同情したから、婚約者として甘やかしていると思っていた。


 ――婚約者の義務としてそうしているものだと思っていた。



「確かに、君の境遇に同情し、気遣って甘やかしたというのもある」



 やっぱり、そうだったのね……


 スカートを握る手に力が入る。



「だが、一番は……」



 スカートを握る手に大きくて無骨な……私の好きな人の手が重なる。


 その温かさに思わず顔を上げる。



「君が好きだから」

「っ!」



 ルビー色の美しい瞳が、真っ直ぐ私を射抜く。



「他でもない君だから甘やかしたい。頼りにして欲しい。独り占めしたい」

「それは、さすがに……」

「嘘じゃない。毎日思っている。特に最近は、まともに会えていなかったから」

「っ!」



 もう! フォール様ったら! 


 恥ずかしすぎて……でも嬉しくて、何も言い返せない。



『好きな君だから』



 出会ってからずっと、彼は何度も言ってくれる。


 元婚約者から一度も言われたことが無い言葉を。


 それは婚約者だからじゃない。


 義妹の代わりに来た相手だからじゃない。


『カーラ・バリストン』という、この世でただ一人の女性だから。


 そして、出会った瞬間に恋へ落ちた相手だから。


 彼は私の話を聞き、時には気遣い、時には甘やかそうとする。


 ――『私が忘れている』と分かっていても。



『今日、貴方を未来の妻として迎えられたことを、心から光栄に思います』



 辺境伯家に来た時、私の手の甲に口づけた彼の言葉は、婚約者としての気遣いでも何でもなかった。


 ――彼自身が心の底から想った言葉だった。


 優しく微笑む彼の情熱的な思いを聞いて、頬が熱くなり、思わず涙がこみ上げそうになる。



「それに昔、君と約束したからな」

「約束、ですか?」

「そうだ。『大きくなったら、結婚して私を甘やかして!』って」

「っ!」



 七歳の私、そんなはしたないことを言っていたの!?


 淑女教育を受けていたのに!?


 得意げな笑みを浮かべるフォール様から出た、幼い自分の失言に、恥ずかしさのあまり顔を両手で覆った。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


というわけで、フォールがカーラを好きな理由が判明しました!


まさかの一目惚れ!


フォール君、凄すぎるよ(笑)


あと、重いよ(笑)


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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