第58話 お母様の実家
「すまない、突然、連れ出すような真似をしてしまって」
「いえ、様子からして余程急ぎのことだと思いましたので」
彼の手に引かれ、ガゼボに来た私は、向かい側に座る彼の緊張した雰囲気に、思わず背を伸ばす。
常に紳士な彼が、こんなにも緊張した面持ちで話す大事な話って一体……?
「そうだな……この話は、遅かれ早かれ、君に話さないといけないと思っていた」
「遅かれ早かれ、ですか?」
「あぁ、本当は君が辺境伯家に来た時に話そうと思っていたが……君の状態が、こちらが予想していた以上に酷かったから、話すことを先延ばしにしていたんだ」
「そう、でしたのね」
今ならわかる。
ここに来たばかりの私は、王都での過酷な生活と慣れない長旅での疲れが相まって、生死の狭間を彷徨っていた。
もし、あの状態のまま執務をしていたら……間違いなく、私はこの世にはいない。
本当に、フォール様の采配に感謝だわ。
「それで、話というのは?」
ガゼボに緊張感が漂う中、小さく息を吐いたフォール様が口を開く。
「カーラ、驚かずに聞いて欲しい」
その後に続いた言葉は、驚きを通り越して、言葉を失った。
「君の母上……フィオナ・バリストン元公爵夫人は実は、我が父の実の姉にあたるんだ」
「えっ?」
お母様がお義父さまの姉?
確かに、初めてお義父さまにお会いした時、どこかお母様に似ていると思った。
でも、まさかお母様とお義父さまが実の姉弟だったなんて。
「それでは、ここリスタット辺境伯家はお母様の……」
「あぁ、ここリスタット辺境伯家は、君の亡きお母上……俺で言うなら叔母だな。その実家なんだ」
「ご実家……」
その時、辺境伯家に来て間もない頃のことを思い出す。
『フィオナ様……』
来て早々、倒れた私を診察に来たマホロフさんが、私を見てお母様の名前を口にしていた。
あの時、お母様のことをご存じだったから、何か関係があるのかなと思っていたけど……なるほど、お母様が辺境伯家のご令嬢だったから侍医として知っていたのね。
フォール様の話を聞いて、やっと腑に落ちた私は、改めてガゼボの外へ視線を向ける。
お母様は、お父様とは政略結婚で結ばれたこと以外、ご自分のことも、ご実家のことも、家族のことも何一つ話してくださらなかった。
――亡くなるその時まで。
「となると、私とフォール様の関係は、赤の他人ではなく……」
「あぁ、戸籍上では従兄弟という関係になるな」
「そう、なのですね」
知らなかった。お母様に実の弟がいたなんて。
ご実家がここ、リスタット辺境伯家だったなんて。
――アリシアが本来、嫁ぐ家が亡きお母様のご実家だったなんて。
「……その様子だと、本当に覚えていないのだな」
「えっ?」
覚えて、いない?
視線を戻すと、寂しそうに笑うフォール様と目が合い、心臓がギュッと掴まれた。
――どうして、そのような表情で私を見て……
「実はな、叔母上は君に話していたんだ」
「話して、いた?」
「そうだ、君が叔母上の療養の付き添いとして、ここリスタット辺境伯領に来る前に」
「私が、付き添いで来る前に?」
フォール様の話を聞いて記憶を辿る。
けれど、全く思い出せない。
お母様が、私にご自身のことを話されていたことも。
――私がお母様の付き添いでリスタット辺境伯家に来たことも。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、遂にカーラの母フィオナの実家が判明!
前々から匂わせていましたが……ここで、ようやくフィオナの実家がリスタット辺境伯家であることは判明しました。
そのことをフィオナは話していましたが……カーラは思い出せません。
おかしいですね。
王都にいた頃の辛い記憶は覚えているのに。
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