第57話 話す時が来た
※フォール視点です。
カーラが辺境伯家に来てから、あっという間に半年が経った。
辺境伯家に来た当初のカーラは、今にも消えそうなくらい心身共に消耗しきっていた。
そんな彼女は今では表情も明るくなり、婚約者として俺やアラン達の仕事を積極的に手伝ってくれている。
「カーラ義姉さま、本当に優しくて頼りになりますね。さすが、長年、勘違いバカ王子の尻拭いをしてこられただけはあります」
「アラン、言い過ぎだ。カーラの前で絶対に言うなよ」
「分かっていますよ、兄上。ですが、事実でしょ?」
「そうだな」
――たまに無理して俺に注意されることがあるが。
それでも、カーラの辺境伯領の現状に寄り添おうとする真面目さと、元王族の婚約者として培った知識や経験に、俺たちは毎日のように助けられている。
カーラが俺の頼みで席を外しているのを良いことに、領内から来た陳情書を処理していたアランが、仕事の手を止めてカーラを褒める。
――彼女が褒められ慣れていないことを知っているから。
普段、あまり人を褒めない弟の言葉に俺の手が自然と止まる。
「特に、ここ最近、兄上は魔物討伐で屋敷を開けていることが多いので、義姉上が僕の仕事を手伝う機会が増えたのですが……義姉上の助言はとても的確で分かりやすいのです」
『アラン様、こちらの街路に置かれている結界用の魔道具の配置と騎士団から来た補給案ですが一度見直した方がよいかと』
『なぜです?』
『今のやり方ですと、計算上、必ず一人は負傷者が出ることになります。そうなりますと、負傷者にかかる費用が更に多くなり、他の予算にも影響してくるかと。特に、大規模な魔物討伐が頻繁に起こっている現状では』
『言われてみれば、予備費があるとはいえ、現状のままだと他の予算に影響してきますね。この前も、スタンピードで近くの村で人的被害だけでなく家屋被害も出て、予備費を使いましたし』
『ですので、我が国の次に魔物の発生が多い隣国が取り入れるやり方を参考に見直された方が良いかと。よろしければ、資料を王都から取り寄せましょうか? 隣国の事情に詳しい文官を知っていますので』
『では、よろしくお願いします』
『かしこまりました』
「そのお陰で、魔物討伐に伴う負傷者も激減し、諸外国から来る行商人も多くなったな」
「はい!」
普段、魔物討伐に追われている騎士団は、隣国の状況を把握する余裕がない。
俺自身も対策を探ってはいたが……さすが、王太子妃教育を受けたカーラ。
結果、魔物討伐での負傷者や街路に出没する魔物が激減し、我が領に来る行商人が多くなったことで、辺境伯領の経済も更に潤った。
すると、俺たちの話を聞いていた周囲の文官達も、仕事の手を止めてカーラを褒め始める。
「それに、こちらが指示する前に修正をしてくださり、根拠となる資料も一緒に出してくださったりするんです!」
「ご本人は『余計なことをしてしまいました』と申し訳なさそうにおっしゃっていますが……いやいや、余計なことではありませんよ!」
アランや文官達の話を聞いて、俺は彼女の婚約者として誇らしく思った。
カーラには寂しい思いをさせていたし……正直、アランたちとうまくやれているか心配していた。
だからこそ、彼女の努力が皆に認められ、辺境伯領の力になっている。
その事実が、不遇だった彼女のこれまでが報われたようで嬉しかった。
「そうだな、カーラはとても優秀で頑張り屋さんだ。だから、お前たちも彼女の姿を見て学び、頑張ってくれ。俺も頑張るから」
「「「「「はい!!」」」」」
そうだ、俺も頑張らないと。彼女の隣に立つ男として。
その時、いつになく険しい表情のセバスがノックも無しに入ってきた。
普段の彼なら絶対にこんな無礼なことはしない。
――嫌な予感がした。
「どうした、セバス。いつものお前らしくない」
「申し訳ございません、フォール様。ですが、急ぎお渡ししたいものがございまして」
そう言うと、セバスは持っていた便箋を俺に渡す。
「これは、叔父上からか?」
「はい。それと、王都にいる旦那様から先程、通信魔法で坊ちゃま宛に言伝を預かりました」
「っ!」
通信魔法で言伝を預かった。それはつまり、予想外のことが起きたということ。
「それは、この手紙に関係することか?」
「もちろんでございます」
「そうか」
「兄上」
「分かっている、アランにセバス、隣に移動するぞ」
「「はい」」
椅子から立ち上がった俺は、セバスとアランと共に執務室を出ると、そのまま密談で使う小部屋に入った。
「セバス。叔父上から手紙が来たということは……」
「恐らく、『聖女の力』に関して、でございます」
さすが叔父上。
この件に関しては時間も経っているし、抹消されている可能性があるから、調べること自体ほぼ不可能を思っていたが。
「二人とも、開けるぞ」
「はい、兄上」
「どうぞ、坊ちゃま」
近くにあったペーパーナイフで封を切り、中身を取り出すとアランやセバスと共に目を通す。
案の定、中身は『聖女の力』に関してのものだったが……
「ふざけるな!!」
小部屋に怒鳴り声が響き渡り、手に持っていた手紙はクシャリと音を立てて地面に投げつけられていた。
これが、実の娘に……家族にすることか!?
己の欲望を叶えるためだけに!!
「あの野郎、今すぐ殺してやる!」
『お父様にとっての家族は、最初から継母とアリシアだけでしたから』
そう言って、庭の美しい景色を見ながら、悲し気な表情をするカーラ。
カーラにとって、父親は理不尽を強いる人間であり――唯一の肉親。
父親に一切見向きされないと分かっていても、縋りたい時があったはず。
聞いて欲しい話があったはず。
そんな彼女の人生を滅茶苦茶にし、道具のように使い潰したあの野郎を許せるわけがない!!
あれが俺の義理の父親だと? 認めるものか!
あの野郎は魔物と同じだ! 人の皮を被った魔物だ!
「兄上」
「っ!……すまん、つい頭に血が上った」
――この部屋は外に音が漏れないから心配していないが……カーラに聞こえていないことを切に願う。
セバスが拾い上げた手紙を受け取ったアランが、手紙の皺を伸ばすとセバスと共に目を通す。
静かに眉を顰めるアランに対し、セバスは拳を小刻みに震わせていた。
それもそうだ。貴族としても人としても、外道としか言いようがないのだから。
「兄上、これが本当だとしたら……」
「あぁ、俺たちは今まで、とんでもない男を国の中枢に据えていたということになる」
なにせ、奴は欲望を叶えるために、家族を……ひいてはこの国を騙していたのだから。
「セバス、爺さんと父さんにこのことは……」
「既に伝えているかと」
「そうだよな」
叔父上のことだ。このことを知った時点で、爺さんと父さんに伝えているはずだ。
「兄上、これは事を始める口実としては十分ですね」
「あぁ、そうだな」
国王自らが、この国を揺るがす愚行に加担したのだ。
これを大義名分として行動を起こしても良いはずだ。
「兄上、このこともカーラ義姉さまに言うのですか?」
「もちろん。このことは、カーラも知っておかなければならない。今後のためにも」
――出来れば、あの義妹にも聞いて欲しいが。
「そのことなのですが、旦那様から『アリシア嬢が近々、こちらに来る可能性がある』と言伝を預かりました」
「やはりか……」
父さんから言伝はそれだったか。
もう、先延ばしは出来ないな。
小さくため息をついた俺は、覚悟を決めた。
――カーラに全てを話す覚悟を。
「一先ず、カーラに話してくる。カーラが忘れている過去と、叔母上が話さなかった真実を」
「そうされた方がよろしいかと。カーラ様もそろそろ思い出し、知るべきだと」
「そうだな」
あの男の呪いによって忘れた過去と……叔母上が頑なに話さなかった事実を。
『聖女の力』に関する話はその後だ。
『お母様は、ご自分のことについて何も話してくださらなかったですから』
叔母上、すみません。今から、あなたの娘に真実をお伝えします。
「……兄上」
「なんだ」
「絶対に義姉さまを幸せにしてあげてください」
「坊ちゃま、私からもお願い致します」
「当然だ」
彼女は俺と共に、これから先もずっと幸せになる人なのだから。
二人の願いを聞き届けた俺は、カーラに全てを話すべく、部屋を後にした。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、今回は長めのお話になりましたが、フォールが遂に腹を括りました。
カーラが忘れている過去とは?
フォールが思わず激怒した理由とは?
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




