第54話 子どもの未来のために
第二章、完結です!
※辺境伯家当主視点です。
「あら、まだ飲んでいたの?」
「ジェシカ」
息子フォールの婚約者であるカーラさんの19歳の誕生日を皆で盛大に祝った後、寝室で1人晩酌をしていた俺は、湯あみを終えた妻ジェシカを見やる。
息子二人が成人したにも関わらず、彼女の美しさは留まることを知らず、年々、増すばかりだ。
「どうしたの?」
「いや、君は相変わらず綺麗だなと思っただけだ」
「そう言う旦那様こそ、相変わらず麗しいじゃない」
「美しい君に相応しくするために努力しているだけだ」
「あら、それは嬉しいわ。美しさに益々磨きがかかりそう」
「やめてくれ、変な虫がつく」
「ウフフッ、冗談よ」
とても冗談には聞こえないが。
全く、いつまで彼女に対して気が気でならない思いをしないといけないのか。
『贅沢な悩みだ』と思いつつ小さくため息をつくと、ネグリジェを着た彼女が俺の隣に座る。
そして、甘えるように俺の肩に頭を乗せた。
普段は勝ち気な彼女だが、こうして二人きりの時は遠慮なく甘える。
それだけで、胸の中にあった重苦しい感情が消え去る。
我ながら単純な男だ。
「フォール、幸せそうだったわね」
「そうだな。あんな嬉しそうなフォール、随分と久しぶりに見た」
「あら、私は初めて見たわ。あんな女の子にデレデレなフォール」
「ハハッ、確かにそうだな」
――社交に出れば、最低限の言葉しか交わさないから。
幼い頃から剣や家を大事にしていたフォールが、王都から来た彼女と出会った後、『彼女を婚約者にしたい』と言い出した時はジェシカと揃って心底驚いた。
今後のことも考え、『そろそろ政略結婚の相手でも考えた方が良いか』と二人で話し合っていた矢先に起きたことだったから尚更だ。
俺としては、フォールもアランも恋愛結婚して欲しかった。
幼馴染だった俺とジェシカが結ばれたように。
だから、フォールの申し出に対し、辺境伯家当主として、そして、父として了承した。
――カーラさんの頑張りは、ある人からの手紙で知っていたから。
『あとは、どうやって公爵を説得するか』
そんなことを考えていた矢先、現王太子の婚約者が彼女に決まった。
「カーラちゃんに『婚約者が出来た』って言ったら、あの子、絶望のあまり一ヶ月も塞ぎ込んでいたわね」
「あぁ、あの時は説得をしようにも、全く聞く耳を持たなくて大変だった」
『嫌だ! 俺は、カーラが良い!』
『だが、カーラ嬢には婚約者が……』
『絶対に嫌だ! 俺はカーラが良いんだ!!』
『いい加減にしろ! カーラ嬢の婚約者はフィリップ殿下に決まったのだ!』
『それでも嫌だ!! 俺は、カーラと約束したんだ! 『結婚する』って!!』
普段は聞き分けの良い、駄々もワガママも滅多に言わないフォールが、珍しく駄々をこねてワガママを言い、俺を含めた辺境伯領の皆を困らせたのだ。
「『このままではまずい』と思い、どうにか息子の初恋を諦めさせようとカーラ嬢がフィリップ殿下と婚約した経緯について『影』を使って徹底的に調べさせたが……」
「それがまさか、私たちにとって奇貨を得ることになるなんてね」
――最初は、息子の初恋を諦めさせようとしただけだった。
だから、思わぬ収穫を得ることになるとは思いも寄らなかった。
我が国で『随一の炎魔法使い』と呼ばれるフィリップ殿下の婚約者が、魔力ゼロのカーラ嬢に選ばれた理由。
それがまさか、あの男の野望を叶えるためだったなんて。
そして、我々が……いや、父上が水面下で進めていた計画の奇貨になるなんて。
「まぁ、結果としてフォールの初恋を諦めさせられなかったが」
「だって、初恋のお姫様が、悪い奴らに囚われているって知ったんですもの。俄然、やる気が出るに決まっているじゃない」
「そうだな。カーラさんがあのバカ王子と婚約した経緯を知ってから、フォールはより一層努力をするようになったから」
――いつか、自分の手でお姫様を……カーラさんを救い出すために。
血の滲むような努力をフォールは一切妥協せずこなしてきた。
それを俺と妻、そしてアランや使用人の皆が……辺境伯領全員が温かく見守っていた。
「……同時に、あなたと私は復讐のきっかけを得た」
「そうだな」
静かな寝室に、テーブルの上に置かれたグラスの中の氷が解ける音が響き渡る。
『影』を使ってカーラさんとバカ王子が婚約をした経緯を調べていく過程で、ある人物の真相を知り、俺とジェシカは怒りでどうにかなりそうになった。
「とはいえ、『婚約者交換』という前代未聞の出来事には、さすがの俺も開いた口が塞がらなかったが」
「でも、そのお陰でフォールは初恋を叶えた。私たちにとっても喜ばしいことね」
「そう、だな……」
彼女が、俺とジェシカにとって、大切な人の忘れ形見のようなものだから。
「……フォールは、『自分の口で話す』と言っていたな?」
「えぇ、『自分の妻だから自分の口で話す』って」
「そうか」
実にフォールらしい。さすが、我が息子と言ったところか。
テーブルの上に置かれたグラスを手に取り、残った酒を呷ると、グラスに残った氷を見つめる。
「ようやく、明かされるのだな」
「そうね」
フォールから話を聞いた時、カーラさんはどう思うのだろう。
実家のことを。王家のことを。そして……我が家のことを。
――願わくば、我が家を嫌いにならないで欲しい。
ここは君にとっても、君の母上にとっても大切な場所なのだから。
「フィオナ姉さん、実の娘に隠していたことを俺の息子に明らかにされても怒るよな?」
「さすがに怒るわよ。『私の娘に何を話しているのよ!』って」
「そうだな。姉の妹分を自称していた君が言うなら間違いないだろう」
「でも、『子どものためだ』って言えば、納得するんじゃないかしら」
「間違いない」
姉さんが亡くなったと聞いた時のことは今でも覚えている。
手紙で簡潔に書かれたその知らせを、俺は何度も拳で叩きつけた。
そして真実を知った時、俺は怒りのままにその手紙を魔法で燃やそうとした。
――さすがに父上に止められたが。
「ジェシカ」
「なに?」
「守ろうな、俺たちの子どもの未来を」
「もちろん、そのために動いているんじゃない」
甘えるように見上げて微笑む彼女に小さく笑みを零す。
そうだ、俺は子どもたちの未来を守るために、宰相補佐として機会を伺っている。
――俺と妻の大切な人を奪い、息子の初恋相手に理不尽な人生を強いた人間に天罰を下すその時を。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、今話で第二章は完結です!
最後は何やら不穏な空気のまま終わってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
何もかも諦めていたカーラが、フォールを始めとした辺境伯領の皆の温かさに触れたことで、徐々に自分を取り戻し、そして……人生初の恋をします。
非常に甘々な展開ばかりでしたが、個人的に短編で描けなかった話が思う存分書けて嬉しかったです!
次回、閑話を挟んで遂に第三章に突入です!
第三章では短編でも出ていたあの話がメインになります!
そう、『ワガママ義妹』と『主人公』に纏わるあの話です!
長編では更にパワーアップしておりますので、楽しんでいただけると幸いです。
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




