第52話 誕生日と恋心
「カーラ」
「はい」
フォール様に名前を呼ばれ、美しい景色から視線を逸らすと、優しく微笑むフォール様が綺麗な細長い箱を差し出してきた。
「フォール様、こちらは?」
「受け取ってくれないか?」
「は、はぁ……ですが、私が頂いてしまってよろしいのですか?」
「あぁ、むしろ受け取って欲しい」
「っ!」
甘さを含んだ声音で懇願され、胸が高鳴った私は上品な箱を恐る恐る受け取る。
「ありがとうございます。ですが、どうして……?」
初デート記念とか?
恋愛ものの小説でよくあるような展開だけど。
「今日は君との初デートであり……君の誕生日だから」
「あっ」
そう言えば私、今日が19歳の誕生日だったわ。
お母様が亡くなってからは、誰も祝ってくれなくなったから、いつしか自分でも気にしなくなっていたわね。
――学園に通い出して、お父様と元婚約者から仕事を丸投げされるようになってからより一層。
「……知って、いたのですか?」
祝われる本人ですら覚えていなかった誕生日を。
「当然だろ、俺は君の婚約者であり……俺にとって大切な人、なのだから」
「っ!」
『フィリップ様、今度のフィリップ様のお誕生日パーティーなのですが、いかがされ……』
『俺の婚約者なのだから、当然、俺の満足するような形にしろ。だが、俺もパートナーは他の奴にするからな。魔力ゼロで地味な貴様は、王族である俺の隣に相応しくないから』
『……かしこまりました』
今まで婚約者の誕生日を祝うことはあったけど、婚約者から祝われることは一度もなかった。
――『魔力ゼロで容姿が地味だから』という理由で。
そんな私を彼が祝ってくれた。
『婚約者だから』という至極当然の理由で。
その時、私の頬に一筋の雫が伝う。
「カーラ!?」
慌てふためく彼を見て、私はようやく自分が泣いていることに気づく。
本当に私、ここに来てから涙もろくなったわね。
王都にいた頃に比べて、遥かに涙もろくなったわ。
「申し訳ございません。嬉しくてつい、涙が出てしまいました」
心配させまいと無理やり笑った私は、静かに涙を拭うと、頂いたばかりの小箱に視線を落とす。
「私、久しぶりに誰かに誕生日を祝われて……プレゼントも久しぶりに頂いたんです」
『カーラ、誕生日おめでとう』
お母様が生きていた頃。
私の誕生日には、お母様は使用人たちと共にプレゼントと大好きなケーキを用意してお祝いしてくれた。
可愛いぬいぐるみに、綺麗なドレスやアクセサリーに、前から読んでみたかった絵本。
お母様や使用人たちが用意してくれたプレゼントはどれも、淑女教育を頑張っている私が喜びそうなものばかりだった。
それがとても嬉しくて、私は自分の誕生日が大好きだった。
――まぁ、お母様から頂いたプレゼントは、『交換』という形でアリシアに奪われたのだけど。
そんな大好きだった日をこの人が祝ってくれた。
血の繋がりもない。
長い時間を共に過ごしたわけでもない。
それなのに彼は、出会って間もない私の誕生日を祝ってくれた。
――そのささやかな当たり前が、溶けかけた心を熱くする。
すると、笑みを潜めたフォール様が私をプレゼントごと抱き寄せる。
「フォール様!?」
「……これからは」
「えっ?」
『離さない』と言わんばかりに私を強く抱きしめたフォール様が私の耳元で囁く。
「これからは、必ず君の誕生日を祝う。今まで祝われなかった分も含めて、絶対に」
「っ!」
『今まで祝われなかった分も含めて』
その時、私の中で何かがほどけた。
お母様が亡くなってから、誰にも祝われないのが当たり前だと思っていた。
私が『魔力ゼロの地味女』であり、『聖女の虐める悪女』と囁かれているから。
それなのに、この人は違った。
この人は、『婚約者だから』と当たり前のように祝ってくれた。
――この先も祝ってくれると言ってくれた。
『貴方を未来の妻として迎えられたことを、心から光栄に思います』
『俺自身が君を蔑ろにされたことが許せない』
『どんな些細なことでも、言いたいことがあれば言って欲しい。やりたいことがあれば、遠慮なく言って欲しい。俺や俺が信じる人達が、絶対に君の言葉に耳を傾けるから』
『ここは、バリストン公爵家ではない。リスタット辺境伯家だ。君の、新しい居場所だ』
思えば、この人は出会った時から私を見て、私の話を聞いて、私を尊重してくれた。
――ずっと私という人間に正面から向き合ってくれた。
噂に惑わされず、現実にいる私を。
今日だって私の行きたい場所に連れて行ってくれた。
私が食べたことのない料理を食べさせてくれた。
『俺がしたいんだ』と言って、たくさんのドレスと装飾品を買った。
美しい景色を見せてもらった。
――奪われ、虐げられるばかりだった私に、この人はたくさんのものを与えてくれた。
その時、私はようやく気付いた。
デートが始まってから……いや、それよりも前から抱いていた気持ちの正体を。
彼の言葉や距離の近さに胸が温かくなって。
手を繋ぐとなぜか安心して。
離れると不思議と寂しくなってしまう理由を。
――私、この人が好きだわ。
婚約者としてではなく……フォール・リスタットという一人の男性が。
「フォール様。ありがとう、ございます……」
私の誕生日を覚えて祝ってくれて。
――そして、私の婚約者になってくれて。
お母様が亡くなってから、誕生日を祝われなくなり、胸の奥に閉じ込めていた寂しさや悲しさ。
生まれて初めて出来た好きな人から誕生日を祝われた嬉しさ。
そして、ようやく自覚した恋心。
様々な感情が胸の中で混ざり合い、私は彼の腕の中で泣いた。
――いつの間にか安心できる場所になっていた彼の腕の中で、子どものように思いっきり。
その間、フォール様は服が濡れるのも気にせず、私が泣き止むまでずっと背中をさすり続けてくれた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、デート編もクライマックス!
今回のデート、実はカーラの誕生日を祝うのも兼ねていたんです!
そりゃあ、フォールもカーラのために頑張りますよね!
まぁ、デート自体、母からの無茶ぶりだったので彼の中でも想定外だったと思いますが(笑)
その甲斐あってか、ついにカーラちゃん、恋心を自覚します!
おめでとう、フォール!
君の努力は報われたよ!(笑)
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




