第5話 王命による婚約
「はぁ~~、まさか、本当に婚約者を交換するなんて」
貴族の体裁を大事にするお父様が、自ら醜聞になるような愚かな真似をするなんて……
「でも、義妹を溺愛しているあの人と殿下ならやりそうね」
……そして、義妹が大好きなあの夫婦も許してくれそう。
屋敷を出てすぐ、痛む背中を擦りながら、私は煌びやかな王都の街へ視線を向け、大きくため息を吐いた。
我がアステタント王国の貴族は、誰もが魔力を持っているとされている。
そして、この国の王族と我がバリストン公爵家は、代々、魔力と容姿を重視している。
私みたいに貴族なのに『魔力ゼロ』なんて以ての外。
そんな国の公爵令嬢に生まれた私と、膨大な魔力を持つ殿下の婚約が決まったのは、私が八歳の時。
――お母様が亡くなる少し前だった。
お父様と共に王宮へ呼び出された私は、その日のうちに王命で第一王子の婚約者になった。
『王家に相応しい人物が公爵令嬢である私しかいなかったから』という、他の貴族令嬢が聞けば間違いなく憤慨する理由で。
――今でも覚えているわ。
顔合わせの時、私を見た国王夫妻が露骨に顔を顰めたことを。
あれは、幼心ながら恐怖を覚えたわね。
そして、顔合わせの翌日から厳しい王太子妃教育を課された。
『全ては、未来の国母として次期国王であらせられる殿下を支えるためです!』
そう言って、王家が雇った優秀な家庭教師たちは、淑女としての礼儀作法はもちろん、王国の歴史や文化、内政、果ては近隣諸国の言語や外交関係まで、私に叩き込んだ。
彼がお気に入りの令嬢たちと『社交』と称してお茶会をしている傍で。
「王宮から屋敷に帰ってきても王太子妃教育は続いたわね」
『お前が立派な国母になれるよう、屋敷での生活も全て王家へ報告するからな!』
疲労困憊で帰ってきた私に、お父様は領地の仕事の一部を『手伝い』と称して押し付け、休息を与えなかった。
――第一王子の婚約者に選ばれてから、毎日が地獄だった。
義妹と継母が来て、王都に『第一王子の婚約者が聖女を虐めている』という根も葉もない噂が流れたことで、両親はもちろん、使用人たちから冷遇され、周囲から蔑みの目を向けられるようになってからはより一層。
それでも、私は必死に耐えてきた。
――十年間、ずっと、自分の感情すら押し殺して。
「特に、政治と外交には力を入れていたわね」
今の王家は、公爵家と同じく、容姿の美しさと魔力量の多さで他人を評価する。
そのせいで臣下への負担は増え、外交の場では何度も緊張が走った。
――政治と外交だけは、学園入学後に公務として実践を積まされたわね。
もっとも、結婚式まであと一週間のタイミングで婚約者が交換されたのだから、もう関係ない話なのだけど。
「それでも、殿下とは信頼し合える関係でいたかったわ」
例え、王家主催のお茶会で彼や国王夫妻が『聖女』アリシアに一目惚れしたことを分かっていても。
月に一度の婚約者とのお茶会で、古いドレスに身を包む私を追い出し、可愛いドレスを着たアリシアを傍に置いたとしても。
未来の国王と王妃として、互いに信頼出来る関係でありたかった。
だから、婚約者として厳しい王太子妃教育にも耐え、彼から理不尽に押し付けられる仕事を黙々とこなし、『聖女』である義妹と婚約者の近すぎる関係を黙認したのに……
「はぁ、私の十年、本当になんだったのかしら?」
――一体、何のために頑張ったのかしら?
胸の痛みを抑えるように、小さなトランクを抱き締める。
「リスタット辺境伯家。バリストン公爵家と同じく、建国時からこの国を支えている由緒ある家」
そこに、アリシアの婚約者だった……いや、私の新しい婚約者がいる。
「あまりに社交の場に出ない人みたいだけど、一体どんな人なのかしら?」
私もお父様や殿下から押し付けられる仕事のせいで、あまり社交の場に出られなかったけど……殿下みたいな人なのかしら?
僅かな不安を抱えたまま、私は住み慣れた王都を後にした。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、未来の国母として頑張っていたカーラちゃん!
本当に健気ですよね!
※大幅改稿しました。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




