第48話 あなたと一緒に
「ここが、辺境伯領で一番大きい図書館ですか?」
「そうだ。建国時からある……恐らく、この国で一番歴史の長い図書館だ」
活気ある街を歩いてしばらく、私は歴史を感じる荘厳な外観に目を奪われる。
灰色の石造りの建物は小さな城のようで、所蔵されている本を求めて訪れた者たちを静かに歓迎していた。
王都やバリストン公爵領にある華やかな外観とは明らかに異なるわね。
「どうだ、気に入ったか?」
「はい! 外観だけでも素敵ですわ!」
「そうか。なら、中はもっとすごいぞ」
そう言って、フォール様は嬉しそうに私の手を引く。
その無邪気な表情に思わず頬が熱くなる。
彼の嬉しそうな横顔は何度も見ているはずなのに。
なぜか今日は、いつも以上に胸が高鳴る。
これが、恋愛小説で読んだ『デートの魔法』というものなのかしら。
随分前にアンナから借りた小説の一場面を思い出し、いつもより心臓の音がうるさく感じた。
その時、書物特有の匂いが鼻腔を擽る。
そして、目の前に広がる光景に、じわじわと胸を蝕んでいた気恥ずかしさが一気に吹き飛ぶ。
「素晴らしい、ですわ」
巨大な空間には天井まで届く巨大な書架が幾重にも並び、その間を静かに人々が行き交い、閲覧用に用意された場所に腰を下ろし、皆、追い求めていた本を開いて目で追っていた。
見渡す限り本だらけ! しかも、ほとんど見たことがない本ばかりだわ!
趣ある内装の館内に整然と並ぶ無数の書架に、胸のざわめきが抑えられない。
ここには一体、どんな本があるのかしら!
とても楽しみだわ!
「お眼鏡に叶ったようだな」
「もちろんですわ! ここに住みたいと思いたいくらいに!」
「アハハッ、それはさすがに勘弁して欲しいな。俺や皆が寂しくなってしまう」
「そ、それもそうですわね……」
私、勢い余ってなんてことを!
次期辺境伯夫人にあるまじきことを言ってしまい、恥ずかしさのあまり目を背け、火照った頬を両手で隠す。
「ならば今度、アンナを連れて来ればいい。休日の度にこの図書館に来ているみたいだから。俺より詳しいだろう」
「そう、なのですね」
フォール様の優しい気遣いに、頬を隠していた両手をそっと外す。
確かに、図書館の常連であるアンナと来たら、きっと楽しい。
恋愛ものが大好き同士だから。
でも……
柔和な笑みを浮かべる彼の大きな手をそっと握る。
「カーラ?」
「私、フォール様とも来たいですわ」
「えっ?」
わ、私なんてことを!
驚いたように目を見開くフォール様を見て、再び手を離した私は慌てて頭を下げた。
「も、申し訳ございません! お仕事でお忙しいのは重々承知しているのですが、その……フォール様とはお互い本を勧め合って、その本の感想を話していますから、フォール様と来たら、きっと楽しいかと思いまして……」
あぁ、私ったら! こんなことを言っても迷惑だって分かっているのに!
自分のワガママさ加減に嫌気がさした時、フォール様が静かに口を開く。
「良いのか?」
「えっ?」
ゆっくり顔を上げると、口元を手で覆い、耳を真っ赤にしてそっぽを向くフォール様がいた。
「その、なんだ……アンナは読書の趣味が合っているようだから、俺よりアンナといた方が楽しいのではないかと思ったのだが」
戸惑ったように話す彼の優しさに胸が温かくなる。
あぁ、この方はいつだって、私のことを考えてくださる。
――私がこの地に来てからずっと。
「確かに、アンナと来れば楽しいと思います」
「だったら……」
「でも私、フォール様と本の話をする時間も好きですから、フォール様とまた来ても楽しいと思います」
だって、もう既に楽しいと思ってしまっているのだから。
「……全く、君にはかなわないな」
「えっ?」
口元を覆っていた手を外し、深くため息をついたフォール様が、困ったように、そして嬉しそうに笑った。
「分かった。次のデートはここで朝から二人で読書としゃれこもう」
「っ!」
次……
次があるのね。
って、婚約者なのだから当然よね!
「さぁ、行こうか」
「はい」
甘く微笑む彼の手をとった私は、フォール様の案内で二時間、広い図書館の中を歩きまわった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、本好きカーラちゃんは図書館に来ました!
初めての図書館に胸をときめかすカーラちゃん!
可愛いですね!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




