第47話 初めての街歩きデートとおねだり
フォール様からエスコートされて馬車を降りた私は、『離れてはいけないからな』とフォール様に言われ、そのまま手を繋ぎながら歩いていた。
――人前で手を繋いで歩くこと自体、初めてでとても恥ずかしいけど、フォール様の手はとても温かくて……なぜか、離れ難くなるのよね。
恥ずかしさを堪えつつ、私は街の雰囲気に目を向ける。
「それにしても、この街は本当に活気がありますわね。さすが商業都市といったところでしょうか」
馬車の中から見ていても思っていたけど……こうして歩いてみると、街の活気がよく分かるわね。
街に響き渡る人々の威勢のいい声は、王都で暮らしていた私には新鮮に聞こえ、胸を躍らせた。
「そうだな。ここには、辺境伯領で生産された物だけでなく、周辺諸国から来た商人たちが持ってきた物もある。それを求めて来る者たちもいるんだ」
「そうなのですか?」
「あぁ、なにせ、国境に隣接する領地であり、この街は我が国と隣国の流通拠点の一つだからな。この国では見られない珍しいものがたくさんあるぞ」
「そうなのですね」
我が国と友好国である隣国の騎士団と、国防を一手に担っている辺境伯家の騎士団が、魔物が棲まう大森林を中心に互いに国境警備を全うしているお陰で、我が国と隣国の流通が非常に盛んなことは王太子妃教育で教わったわ。
でも、まさか、この街がその流通の拠点の一つだったなんて。
言われてみれば、王都では見たことがない、異国情緒が溢れる工芸品らしき物やお菓子が売っているわね。
デートの帰りにアンナ達へのお土産として買っていこうかしら。
「おぉ! フォールの坊ちゃん! 久しぶりだな!」
野菜を並べていた店主さんが私たちに気づいて、満面の笑みで大きく手を振る。
それに気づいたフォール様も満面の笑みで手を振り返す。
「おぉ、ジル爺さん! 野菜の方の売れ行きはどうだ?」
「お陰様で絶好調だよ! 辺境伯様にもよろしくお伝えしてくれ!」
「分かった、伝えておく!」
店主さんとフォール様の軽快なやり取りに思わず笑みを零す。
欺瞞と強欲が蠢き、腹の探り合いや足の引っ張り合いが当たり前だった王都では、決して見られない光景だったから。
「そう言えば、辺境伯領で穫れた農作物はとても美味しいと有名でしたわね」
「さすが、カーラ。よく知っているな」
「その……王太子妃教育で教わりましたから」
王太子妃教育でリスタット辺境伯領については一通り学んだ。
だから、辺境伯家の役割や領地の特色くらいは知っている。
――『商業都市』のような細やかなところは知らなかったけど。
「となると、実際に食べたことは……」
「ここに来て初めてですね」
「そうか。ならば今日、我が領で穫れた作物が美味しく食べられるところに連れて行こう!」
「そ、そんな! そのようなお気遣いをいただかなくても……」
「カーラ」
笑みを潜めたフォール様が、ルビー色の瞳で恐縮する私を見つめる。
「今日は俺たちにとって人生で初めてのデートだ。だから、今日はめいいっぱい甘えてくれ」
「その……これ以上甘えたら、ダメになる気がしますが」
美味しいお菓子だったり、綺麗な花をいただいたり、面白い本を紹介していただいたり……かなり甘えている気がしますが。
「それはそれで……」
「ダメに決まっていますわ! 次期辺境伯夫人が当主に甘えっぱなしなんて!」
辺境伯領に住んでいる皆様に示しがつきませんわ!
「ハハッ、冗談だ。でも、真面目なカーラならそれくらいでもいい気がするぞ?」
「えええっ……」
ただでさえ、フォール様のお仕事をお手伝いさせていただいていないのに。
――本当にダメになってしまうわ。
フォール様の言葉に困惑していた時、私たちに気づいた領民の皆様が、笑顔で手を振りながら声をかけてきた。
「フォール坊ちゃん! こんにちは!」
「坊ちゃん! 今日は若奥様とデートかい?」
「わ、若奥様!?」
私、まだ婚約者なのですが!?
「坊ちゃん、しっかりエスコートしなよ!」
「そうよ! こんな美人で可愛い奥さん、絶対に逃がしちゃいけないよ!」
「美人で可愛い!?」
私、アリシアじゃないわよね?
「アハハハッ……頑張る」
領民の皆様から声をかけられ、フォール様が苦笑いしながら手を振り返す。
――その横顔が、微笑ましくて胸が温かくなった。
「フォール様、愛されていますね」
「あ、あぁ……『坊ちゃん』呼びは勘弁して欲しいが」
照れ臭そうに笑ったフォール様は、緩んだ手を繋ぎ直すと顔を近づける。
「さて、カーラ。行きたいところはあるか? この街は俺の庭みたいなものだからな。どこへでも連れて行ってあげるぞ」
「そう、ですね」
こういう場合、宝石商のいるお店とか、貴族向けの仕立て屋さんに行けばいいのでしょうけど……
少し考えた後、口角を上げた私はフォール様におねだりをする。
――人生初の婚約者へのおねだりを。
「でしたら、本屋さんか図書室に行きたいですわ。出来れば、色んな物語と出会える場所に!」
私もフォール様も読書が好き。
それなら、新しい場所でお互いの好きを共有したいわ!
私のおねだりを聞いて目を丸くした後、嬉しそうに笑ったフォール様は、懐に忍ばせた懐中時計を手に取り時間を確かめると、とびっきり甘い笑みを浮かべて頷く。
「それなら、図書館に行こう。辺境伯領の中でも一番大きい図書館で、ここから近いしな」
「図書館!」
辺境伯領の巨大図書館!
一体どんな場所で、どんな本が所蔵されているか楽しみだわ!
期待に胸を躍らせる私とは対照的に、フォール様がなぜか申し訳なさそうな顔をする。
「だが、俺もカーラを連れて行きたい場所があるから、2時間ぐらいしか滞在出来ないが良いか?」
「分かりましたわ」
そうなると、じっくり本が読めないわね。
でも、見て回るだけでも楽しいと思うわ!
そうして、私とフォール様は辺境伯領で一番大きい図書館に足を運んだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、街歩きデートスタートです!
街の人たちに愛されているフォールに笑みを零すカーラ。
そんな彼女を甘やかしたいフォール!
実に微笑ましいですね!
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




