第46話 可愛すぎて困る
「フォール様!?」
唐突に距離を縮められ、隣から爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
その香りに、お酒など飲んでいないはずなのに、酔ってしまいそうになる。
そんな私をフォール様がまじまじと見つめる。
「母さんから連れて行かれた時は気が気で無かったが……本当に、綺麗だな」
「えっ?」
うっとりとした表情のフォール様が、髪飾りにそっと触れる。
「俺の色をカーラが纏っている。それだけとても嬉しいのに、こんなにも綺麗になって……一体、俺をどこまで夢中にさせればいいんだ」
「っ!」
あ、甘すぎるわ!
最近はお仕事や魔物討伐で忙しく、ゆっくり話す機会も少なかったから尚更。
至近距離で囁かれ、恥ずかしさで言葉に詰まった私は、慌てて彼が着ているものに視線を向けると、仕返しとばかりに彼を褒める。
「フォ、フォール様も、いつも違った感じでとても麗しいです!」
直視するのが難しくなるくらいに。
頬の暑さを隠そうと顔を俯かせて褒めると、フォール様が不思議そうに首を傾げる。
「そうか? 今日は、お忍びだから服は地味だが」
「そ、そんな! 今日のお召し物はフォール様の良さをより引き立てて、とても素敵ですわ!」
顔を上げた私は改めて彼の着ている服に視線を向ける。
白いシャツに黒のパンツという簡素な装い。
そして、普段は上げている前髪が今日だけは下ろされている。
それだけで、次期当主として凛々しい雰囲気とは明らかに違う、等身大の彼の姿に、私の胸は高鳴った。
「そ、そうか……カーラに褒められると嬉しいな」
「うっ!」
その顔、ズルすぎるわ。
耳を赤くしてそっぽを向くフォール様を見て、再び言葉を詰まらせていると、笑みを深めたフォール様がそっと私の頭を自分の肩に乗せた。
「フォール様?」
「しかし、こんなに可愛いカーラを見せたい気持ちと見せたくない気持ちがせめぎ合うのは嫌だな」
「フォール様!?」
何を言ってらっしゃるの!?
「いっそのこと、今から街の奴らに『外出禁止令』を……」
「フォール様! それだけはダメです!」
次期辺境伯がそんな横暴を働いたら、領民から間違いなく嫌われるわ!
その時、馬車の外から御者の笑い声が聞こえてきた。
「アハハハッ! 坊ちゃまは、カーラ様のことになると冷静にはなれないですね」
「うるさいぞ、グルーズ。俺は真剣に……」
「はいはい。少なくとも、カーラ様の忠告はちゃんと聞いてくださいね」
「分かっている」
不貞腐れているフォール様に思わず笑みが零れる。
フォール様って本当に皆様から、愛されているわね。
なんだか……
「羨ましいわ」
「えっ?」
お母様が生きていた頃は、使用人たちとも仲が良かったのに。
そして、ここに来てから、たくさんの人に優しくされて甘やかされるのに。
それでも、周囲から信頼されている彼を見て、羨ましいと思ってしまう。
誠実で優しい彼が、人々から慕われるのは当然のこと。
それなのに、胸の奥が少しだけ苦しくなった。
――私、いつの間にかワガママになってしまったわね。
私の呟きにフォール様が目を見開いた時、馬車が止まり、グルーズさんが窓越しに声をかける。
「坊ちゃま、ここでよろしいですか」
「あぁ、ありがとう。それと、『坊ちゃま』はやめろ」
「はいはい」
からからと笑いながら返事をする御者に、小さくため息をついたフォール様は私から離れると、開けられた扉から外に出る。
そして、大きくて無骨な手をそっと差し出す。
「それじゃあ、行こうか。我が愛しい婚約者様」
「っ!」
こんな、小説の中のお姫様のような扱い、初めてだわ。
それも、婚約者に。
「は、はい……」
恐る恐るフォール様の手を取った私は、馬車を降りると、窓越しに見えていたレンガ造りの街並みと、人々の活気が溢れる商業都市へ繰り出した。
――私にとってもフォール様にとっても、人生初めてのデートが始まった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、嫉妬話からの糖度が高いイチャイチャをお届けしました!
フォール様のカーラへの想い、本当に重いですね(笑)
次回、いよいよお忍びデートへ!
デート初心者の二人の初デートは一体どうなるか!?
どうぞ、お楽しみに!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




