第41話 初デート前に(sideフォール)
※フォール視点です。
カーラとの初デートを明日に控え、家族揃って夕食を囲んだ後、母さんの悪ノリで酔い潰れたカーラを部屋に送り届けた俺は、執務室で仕事を片付けていた。
昼間のうちに父さんとアランに引継ぎは済ませているが……途中の仕事がいくつかあったのでそれだけは俺の方で片付けたかった。
「それにしても、カーラがあんなにお酒が弱いとは思わなかった」
前に本人から『お酒が弱い』と聞いていたから、比較的アルコール度数の低いものを用意したのだが……まさか、たった一杯で酔い潰れるとは。
「決めた。公の場では、絶対にお酒は飲ませない」
あんな無防備で可愛い寝顔を衆人の目に晒すわけにはいかない。
あの天使のような寝顔を見て良いのは、俺一人で十分だ。
小さくため息をついた俺は、止まっていた仕事の手を動かす。
すると、執務室のドアがノックされた。
「どうぞ」
どうせ、セバスが様子を見に来たのだろう。
アランは父さんや母さんと一緒に酒を飲んでいるから。
「入るわよ」
「母さん!?」
意外な人物の来訪に、思わず椅子から立ち上がる。
そんな俺を見て、満足そうに笑った母さんが執務室に入ってくるといつもの調子でからかってきた。
「あら~、カーラちゃんとのデートだからって、気合が入っているわね~」
「うるさい。父さんと一緒に酒を呷っていたんじゃないのか?」
「まぁ、淑女に対して『酒を呷る』なんて失礼しちゃうわ~」
「実の母親だから言えるんだよ。今のカーラには絶対に言わない」
それに、成人済みの息子が二人もいるのだから、淑女より『貴婦人』だろうが。
「私はただ、初恋の子との初デートに浮かれすぎて、夜も眠れなさそうな息子を心配して、わざわざ旦那様に断りを入れてこうして……」
「だったら、さっさと父さんとアランのところに戻ってくれ。余計なお世話だ」
「あら、酷いわね~♪ せっかく心配してあげているのに♪」
「はぁぁ……」
俺と違って常に冷静なアランなら、もう少し上手く躱すのだろうが……全く、誰のせいで仕事の引継ぎをして、こうして残りの仕事を片付けていると思っているんだ。
何を言っても無駄だと悟った俺は、椅子に座り直すと深くため息をつく。
すると、俺の前に来た母さんから笑みが消える。
「フォール」
「なんだ?」
「あのこと、カーラちゃんに話したの?」
「…………」
『あのこと』
それが何のことなのか、手紙でやり取りしていればすぐに分かった。
小さく息を吐いた俺は、背を正すと静かに両手を組んだ。
「まだ、話せていない」
「それは、私たち辺境伯家との関係や、つい先日、あなたが言っていた『聖女の力』に関することも含めて?」
「あぁ、今のカーラには王都で酷使しすぎた心身を癒すことを最優先にして欲しかったから」
「そう」
嬉しそうに返事をした母さんは、優雅な足取りですぐ近くの応接用ソファーに座る。
そして足を組み、頬杖をついてニヤリと笑った。
「女の子に素っ気ないあなたにしては随分と優しいわね」
「当然だ。カーラは俺の婚約者だ。その婚約者が王都で頑張りすぎたのだから、休ませるのが最優先だろうが」
「そうね。じゃあ、辺境伯家に関しては私と旦那様から話した方がいい?」
「そう、だな……」
本当なら、現当主夫妻である父さんと母さんから辺境伯家について話してくれた方が助かる。
『聖女の力』に関しても……叔父上に来ていただいて話していただいた方が、合理的で説得力がある。
だが……
少しだけ思案した俺は、小さく首を横に振る。
「いや、俺から直接話す」
『婚約者として、隠し事はなるべく無しにした方がいい』
以前、カーラにそう言ったのは俺だ。
その小さな決まり事を、俺自身が破るわけにはいかない。
――例え、彼女を傷つけると分かっていても。
俺の返事を聞いて、驚いたように目を見開いた母さんが安堵したように微笑んだ。
「分かったわ、この件はあなたに任せる。旦那様とアランにも言っておくわ」
「助かる」
そう言うと、母さんはソファーから立ち上がる。
大方、カーラのことについて聞きたかったのだろう。
――父さんと母さんにとって、カーラは忘れ形見みたいなものだから。
すると、何かを思い出した母さんが俺に視線を向ける。
「そうだわ、旦那様から可愛い息子に報告」
「父さんから?」
アランと飲み比べをしている父さんから報告?
「えぇ、『第一王子が立太子され、本格的に公務に携わり始めてから、王宮内の仕事が少しずつ滞り始めている』とのことよ」
王太子として、本格的に公務に携わり始めたのに、王宮内の仕事が滞り始めているなんて。
なんともおかしな話だ。
まぁ、今になってあのバカ王子の本性が明らかになったのだろうが。
「宰相補佐として『有能』と言われている父さんが、そこまで言うということは……」
「王宮が……いえ、王都全体が停滞するのはそう遅くない未来ってことね」
やはりか。
カーラの王太子妃教育が遅れていたのは、あのバカ王子から大量の仕事を押し付けられていたからだ。
それも、『魔力ゼロで地味な無能だから』という、到底理解できない上に心底腹立たしい理由で。
そのカーラが抜けたのだから、王宮が……王都全体が止まるのは時間の問題。
いくら王太子妃教育を終えているとはいえ、あの女がカーラの穴を埋められるとは到底思えないしな。
実際、その影響は既に出ている。
――領主である父さんが『宰相補佐』として王都へ向かい、俺が領主代理としてアランと共に領地を預かるという形で。
「だとしたら、現実になりそうだな」
「そうね。あなたの言う通り、起きるかもしれないわね。社交界を揺るがした、前代未聞の婚約者交換が再び」
「あっちはもう、婚約者ではなく『王太子と王太子妃』だが」
「フフッ、それもそうね」
母の返事に組んでいた両手に力が入る。
あの義妹が辺境に来る未来が、思ったより早く現実になりそうだ。
「とりあえず、旦那様からの伝言は以上よ♪」
「あぁ、ありがとう。母さん」
「あら、あなたにしてはやけに素直ね。愛しのカーラちゃんが絡んでいるから?」
「うるさい。用が済んだのならさっさと父さんとアランのところに戻ってくれ」
せめて、あの義妹が来る前に辺境伯家と公爵家の関係についてカーラに話さないと。
『聖女の力』に関しては、あの義妹が来てからでも良いだろう。
――むしろ、その方が話しやすい。
あれは、カーラとアリシア、二人の人生に大きく関わることなのだから。
すると、またもや何かを思い出した母さんが咎めるような視線を向けてきた。
「それよりあなた、明日はどうするつもりだったの?」
「それはもちろん、屋敷で盛大に行うつもりだった」
屋敷暮らしにもすっかり慣れた今のカーラに、デートは負担になるかもしれないと思ったから。
「はぁ、そんなことだろうと思ったわ。全く、少しはこの母に感謝してよね」
「はいはい、感謝していますよ」
「相変わらず、可愛くないわね~」
「そうですか」
素っ気ないと返事をすると、母さんが何かを諦めたように深いため息をついた。
「まぁ、いいわ。それじゃあ、明日は頑張るのよ。せいぜいカーラちゃんに愛想尽かされないように」
「言われなくても分かっている」
「なによ、本っ当に可愛くないわね」
「息子に可愛さを求めるな」
つまんなさそうに鼻を鳴らした母さんが部屋を後にすると、小さくため息をついた俺は書類に目を落とす。
全く、相変わらずお節介な母親だ。だが、今は感謝だな。
「さて、明日のためにも頑張るか」
明日は、カーラとの初デートなのだから。
――遂に、俺の長年の夢の1つが叶う。
『カーラとの初デート』という事実を噛み締めながら、俺は残りの仕事を片付けた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、カーラとの初デートを前に頑張っちゃうフォールをお届けしました!
色々重い話をしていましたが、今のフォールにとって大事なのはカーラとの初デート!
そのためなら、何だってしますし、お母様からの愛のあるキツめのからかいにも素っ気なく対応しますよ(笑)
というわけで、次回はいよいよカーラとフォールの初デート編!
恋愛小説大好きなのに自分の恋愛にとことん疎い女の子と、初恋相手に大暴走してしまう男の子との初デートは果たしてどうなるのか!?
個人的に、短編からの長編化に伴い、一番書きたかったお話なので、楽しんでいただけると幸いです!
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




