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【長編】この度、ワガママ義妹と婚約者を交換することになりました  作者: 温故知新
第二章 愛しい君を溺愛させて!

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第37話 共有出来る幸せ

 フォール様にハンカチを渡してから時が流れ、リスタット辺境伯領に来て二か月が過ぎた。


 侍医のマホロフさんから許可をいただき、敷地内に限られるけど、外に出られるようになり、私は天気のいい日は屋敷の庭に出ていた。


 辺境伯家の広大な庭には、王都ではなかなかお目にかかれない、色鮮やかな花々が咲き誇り、初めて間近で見た時は、その珍しさと美しさに、しばらく見惚れてしまった。


 そんな華やかな庭に作られた大理石のガゼボで、私はアンナと一緒に刺繡や読書をしたり、お茶を飲んで美しい花々を眺めたりしていた。


 時間が合えば、フォール様ともガゼボでお茶をしたり、一緒に読書をしたりした。


 実は、フォール様も私と同じく読書好きだった。


 就寝前に必ず読むほどに。


 そのことを知った私は、お互いにおすすめの本を紹介し合うことを提案した。


 するとフォール様は『カーラが望むなら是非やろう!』と快く頷いてくださり、それ以来、私たちは互いに紹介した本の感想を語り合うようになった。



「お二人とも、お茶のご用意が整いましたので、ここらで休憩にされませんか?」

「そうだな。カーラ、お茶にしよう」

「はい、フォール様」



 ガゼボで読書に没頭していた私は、向かい側に座っているフォール様に声をかけられ、栞を挟むとそっと本を閉じる。


 最初はフォール様と一緒の空間になぜか気持ちが落ち着かなくて読書に集中出来なかったけど、何回か一緒にいるうちに慣れたわね。



「カーラ様! 本日はメルクが腕によりをかけたレモンピールを使ったチーズケーキをご用意しました!」

「まぁ、今日は、メルクが作ったチーズケーキなのね!」



 メルクというのは、辺境伯家の専属菓子職人。


 とても大柄な体躯で寡黙な彼は元々、王都の有名なお菓子屋で働いていた。


 でも、甘いもの好きのお義母さまに口説かれ、辺境伯家のお抱え菓子職人になったらしい。


 彼の大きな手で作られるどれも絶品で、辺境伯家に来てからの毎日の楽しみの一つになっている。



「カーラはメルクの作ったお菓子が好きだな」

「当然です! メルクの作るお菓子はどれも美味しいですから!」



 そう言っていると、爽やかな香りの紅茶とともに、シンプルながらも上品な飾り付けがされたチーズケーキが運ばれた。


 はぁぁ、メルクの作るケーキは本当に綺麗で美味しそうだわ!


 『食べるのがもったいないわ!』と思いながらも、甘い香りに誘われて一口食べる。



「う~ん! レモンピールの酸味のある苦みとチーズの甘いコクが絶妙に合わさって、とても美味しいですわ~!」

「ハハッ、それは良かった」



 頬を抑えて味わう私を見て、楽しそうに笑ったフォール様は、器用にフォークを使って食べると満足そうに微笑む。


 そう言えば、フォール様も甘いものがお好きなのよね。

 なんだか、少しだけ可愛らしいと思ってしまったわ。




「カーラ、どうした?」

「いえ、なんでもありませんわ」

「そうか?」

「は、はい!」



 不思議そうに首を傾げるフォール様に慌てて視線を逸らす。


 ううっ、出会って二か月経つのに、未だにフォール様から見つめられることには慣れないわ。



「それで、どうだ? 俺がお勧めした本は?」

「あ、そうですね……」



 少しだけ乾いてしまった喉を紅茶で潤すと、フォール様からお勧めされた本の感想を伝える。



「昨日から読み始めていますが、主人公とライバルの駆け引きが手に汗握るもので、読んでいてハラハラしますわ」

「そうか、俺もその場面は読んでいてハラハラしたな」



 私とフォール様は好きなジャンルが違う。


 だからこそ、自分では手に取らなかった本に出会える。


 新たな価値観を知ることも出来る。


 そして何より、お互いの『好き』が共有できるこの時間がとても楽しかった。


 その時、ガゼボに少しだけ険しい顔をしたセバスが来た。



「フォール様、よろしいでしょうか?」

「なんだ、セバス」



 笑みを潜めていたフォール様に、セバスが何かを耳打ちする。


 急ぎの用事かしら? でしたら、この時間も終わりにした方が良いわね。


 すると、フォール様の表情が瞬く間に強張っていく。



「……分かった。では、急ぎ準備を頼む」

「かしこまりました」



 深々と頭を下げ、足早に去っていくセバスの背中に嫌な予感がする。


 まさか、またスタンピードが起きたの!


 この間、あったばかりなのに!


 つい先日、大森林で起きたスタンピードで、フォール様は騎士団を率いて討伐に向かい、私は屋敷で後方支援に追われた。


 怒号が響き渡る屋敷の様子を思い出し、顔を強張らせる私を見て、フォール様が安心させるように笑みを零す。



「フォール様、もしかしてはまた……!」

「大丈夫だ。スタンピードが起きたわけではない」

「ですが、ここ最近、結界の効力が徐々に落ちていると聞きましたが」

「それは、この前の魔物討伐で聞いたのか?」

「えぇ、使用人たちの話を偶然聞いてしまったのですが」



 『聖女の力』が宿る結界の効力が落ちているなら、国の防衛に関わる重大な問題だと思うけど。



「そうか……すまない。隠していたわけではなかったのだが、その……」

「私のことを思って、あえて言わなかったのですよね?」



 ――その時、偶然、その場にいたアラン様がおっしゃっていたから。



「そうだ。君には心身の回復を最優先して欲しかったから。とはいえ、先日は無理をさせてしまった」

「いいえ、あれは自分で言い出したことですし」



 アンナやレイラ、セバスには何度も止められたけど。


 ――『フォール様に怒られる!』と。



「それに、私がしたことと言えば、アンナと一緒に医師や治癒師の皆様の手伝いくらいでしたから」

「そうだったな。改めてだが、お疲れ様。そして、皆の力になってくれたこと、心から感謝する」

「っ!」



『感謝する』



 その言葉に思わず泣きそうになる。


 自分のしたことに感謝されたことなんて、お母様が生きていた頃以来無かったから。


 テーブルの下でギュッとドレスを掴むと、『いえ』と言って小さく首を振って話を戻す。



「それで、結界の方がどうなのですか?」

「確かに、結界の効力は徐々に落ちてきているが、すぐに破らせるものではない」

「そうなのですか?」

「あぁ、だから安心して欲しい」

「分かりましたわ」



 私も次期辺境伯夫人として、フォール様の力になりたい。


 けれど今は、体調を改善させることに専念しないと。


 そうしないと、目の前の人の役に立てない気がするから。



「では、『急ぎ』とは一体何ですか?」



 小首を傾げる私に、笑みを潜めたフォール様が静かに告げる。



「近々、うちの両親が帰ってくる。それで、迎える準備をしなければならないと思ってな」

「それはつまり、私が辺境伯夫妻にご挨拶する機会が出来たということでしょうか?」

「あぁ、本当はもう少し後だと思っていたのだが……」



 深くため息をつくフォール様とは対称的に、私は緊張で体が強張る。


 フォール様とアラン様のご両親にご挨拶。


 この辺境を治めるお二人と初めて顔を合わせる。


 正直、とても不安だし……怖い。


 でも、やるしかないのね。


 ――いずれ、フォール様の『妻』として彼の隣に立つ日が来るのだから。


 小さく息を吐いた私は俯いていた顔を上げる。



「でしたら早速、アンナとご挨拶の時に着るドレスについて話し合ってもよろしいですか?」

「もちろんだ。アンナ、頼んだ」

「かしこまりました、坊ちゃま!」



 ――そうして、私はアンナと共に、次期辺境伯夫人として義理の両親にご挨拶する準備を進めた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


というわけで、リスタット辺境伯家に来て二か月が経ちました。


共通点を見つけたことで、徐々に縮まるカーラとフォールの距離。


カーラにとって、フォールという存在が少しずつ大きくなってきましたね。


良かったね、フォール!


そんな彼の激重本性をカーラが目の当たりにするのも、そう遠くないかも?(笑)


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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