第34話 これ以上、奪わせない!
※フォール視点です。
「王家とバリストン公爵家が容姿の美醜と魔力の有無を重んじるのは、社交界では有名な話だ。そして、その歪んだ考え方はかつて、王国全土では常識だった」
特に、魔力の有無や保有量は当時の国防に大きく影響していたから。
今は魔法以外の方法での戦術も重要視されているので、昔のような魔力が国防に影響するようなことはない。
「ですが、先々代の頃に近隣諸国との交流が活発になったことで、その考え方が『国の発展を阻むもの』として廃れていったのですよね」
「そうだ」
容姿が地味でも、魔力が無くても、優れた者はいる。
それは、貴族も平民も関係ない。
そんな当たり前のことを、我が国は諸外国から教えてもらった。
大変恥ずかしいことではあるが。
現に、カーラは魔力ゼロだが、第一王子の婚約者として、王太子妃教育をこなす傍ら、バカ王子に代わって公務をこなしていた。
今の王国でそんな時代遅れの価値観に固執しているのは、王家とバリストン公爵家、そして王都を拠点としている貴族ぐらいだ。
「バリストン公爵家が勝手に暴走しているだけなら、貴族の内部監査役である我が辺境伯家が王家に進言し、王家の名で公爵家を取り潰してもらえばいい」
そして、貴族達を取りまとめる新たな公爵家が擁立されるまでの間、我が辺境伯家が一時的に貴族達を取りまとめればいいだけの話。
「ですが、王家は公爵家の傍若無人ぶりに何もしておりません」
「むしろ、拍車をかけている」
ハッキリ言って最悪だ。
よく今日までこの国が保っていられていると思う。
頬杖をついて心底ため息をついた俺は、セバスにこの国の現状について聞いた。
「セバス、ここ数年で我が国を出た貴族はどのくらいいる?」
「今のところおりません。全て、先代とその兄君の方のお力で辛うじて踏みとどまっていただいている状況です」
「そうか。本当、うちの爺さんと叔父上には感謝しないと」
「本当ですね」
公爵家と王家が足並み揃えて国を乱している状況で、辛うじて国として成り立っているのは、カーラを始めとした縁の下の力持ちたちと、裏で爺さんと叔父上が尽力しているから。
本当、持つべきものは優れた知性と人脈、そして人柄を備えた人間との縁だな。
もっとも、王都を拠点としている貴族たちは、どいつもこいつも前時代的な価値観と噂に惑わされている奴らだから、出て行っても構わないが。
フッと笑みを零した時、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、弟のアランだった。
今日は休みの俺に代わって仕事してもらっている。
「兄上、お休みのところすみません」
「構わない。どうした?」
「先程、叔父上から報告が届きました。恐らく、『聖女の力』に関してのことかと」
「「っ!!」」
遂に、分かったのか。
あの力の真実が!
言葉を失うセバスを一瞥し、興奮する気持ちを無理矢理落ち着けさせた俺は、アランに視線を戻す。
「中身は確認したのか?」
「申し訳ございません。叔父上から兄上への報告ということでてっきり、『聖女の力』に関することかと思い、まだ……」
「そうか」
カーラが来たタイミングで、叔父上がわざわざ書簡を寄越したということは、そのことで間違いないのだろう。
「分かった。すぐに執務室に向かう。俺も、早急に報告しなければならないことが出来たからな」
「お休みの方は?」
「後日、返上する」
「分かりました」
ソファーから立ち上がった俺は、背後にいるセバスに指示を出す。
「セバス。公爵家に関しては、引き続き『影』を使って監視させろ」
「引き続きですか? カーラ様がこちらに来たというのに?」
「あぁ、カーラと辺境伯家をとことんコケにした馬鹿どもだ。何をしでかすか分からない。特に……」
「特に?」
首を傾げるセバスの気持ちも分かる。
公爵家を監視していた『影』は、本来、カーラの現状を把握し、一刻も早く彼女をあの地獄から抜け出す手立てを考えるためだった。
だから、カーラが俺のもとに来た今、公爵家への監視は不要になるはずだ。
だが、あの女中心で動いている公爵家を知っている俺はそう考えなかった。
「『アリシア・バリストン』」
「えっ?」
「アランにも言ったが、あの女がカーラから全てを奪って満足するとは思えない」
「とおっしゃいますと?」
カーラがあの地獄な日々を過ごしている間、『影』からの定期報告書で幾度となく出てきた女の名前。
カーラから『交換』と称して、ドレスやアクセサリー、家族や友人、果ては婚約者も奪った最低最悪の女。
……あの女が俺の婚約者でなくて良かったと心底安堵するくらい。
その女のことを俺は最初、『カーラと父親が同じにも関わらず、生まれも育ちも違うことに嫉妬し、その結果、カーラから何もかも奪う女』と思っていた。
だが、彼女が『魔物は怖いし、王都から出たくない!』という理由で聖女の仕事を制限したと知った時、彼女に対する認識を改めた。
あの女は、他の誰よりも自分自身が大好きで、自分が一番じゃないと気が済まない奴だ。
そして、家族を含めて周囲の人間を全員、『自分の人生の引き立て役』としか思っていない。
だから、自身の容姿と立ち振る舞い、そして『聖女』や『公爵令嬢』という権力を最大限に駆使し、周囲の人間を操り、底知れない欲望を叶えて満たしていく。
そんな女が……『聖女』ともてはやされ、公爵令嬢になったことで『我慢』も『面倒』も貴族になった途端に忘れた女が、王太子妃という地位に立ち、『未来の国母』という輝かしい未来が約束された今、このまま生涯を終えるとは到底思えない。
「『お姫様になりたい!』という欲を満たすために、カーラから地位も婚約者を奪った女だ。万が一、『王太子妃』という立場が厳しいものだと分かった場合……」
「まさか……!」
俺の考えを理解したのか、セバスが顔を真っ青にする。
あの女は、自分の欲望を叶えるためならどんなことでもする奴だ。
その女が『お姫様』という輝かしい立場が、実はこの国で最も大変な立場だと分かった時、どうするかは大方予想がつく。
「セバス、分かっているな?」
「もちろんでございます、フォール様」
頬杖を止めた俺は、両手を組むとギュッと握りしめる。
「二度目の婚約者交換なんて、あってはならない」
願わくば、あって欲しくない。
俺のところにきたカーラが、ようやく安息の場所を得て、幸せになろうとしているのだから。
「だが、もし起きたら……今度は、絶対に奪わせない」
もう、あんな思いは二度とごめんだ。
唐突に第一王子にカーラを奪われたと知った時のあの絶望は、一度だけでいい。
――今度こそ絶対に守ってやる。
俺の愛しい人を。
必ず。
静かに拳を握る俺を見て、目を見開いたセバスが静かに口を開く。
「では、例の件をカーラ様に……」
「もちろんだ。彼女の優しさと聡明さは、俺にとって……ひいては、この国にとって絶対不可欠になる」
「おっしゃる通りかと。なにせ、今まで公爵領の領地経営に携わりながら、第一王子の……現王太子の仕事の大半を請け負っていたのですから」
それもある。
だが何より……俺は、カーラのこれまでの苦労を絶対に無駄にはしたくない。
その後、執務室に向かった俺は、父さん達に連絡する前に、叔父上から来た書面に目を通す。
案の定、『聖女の力』に関することだったが……
「っ!」
本当に、こんなことがあっていいのか!?
「信じられん!! 鬼畜の所業としか思えないぞ!!」
これが、これが娘にすることなのか!?
……己の欲を、願望を叶えるために!!
執務室に怒鳴り声が響き渡り、気付けば拳を机に叩きつけていた。
凄まじい音と共に、頑丈な執務机の一角が砕け散り、冷たかった執務室の空気がより一層冷えた。
「兄上!?」
「坊ちゃま!?」
「っ!……すまん、つい頭に血が上った」
――これで、カーラが起きなければいいが。
執務室にいた皆に謝罪した後、俺は叔父上からの書面の内容を共有した。
皆、言葉を失っていた。
それもそうだ。貴族としても人としても、外道としか言いようがないのだから。
「……兄上、絶対に義姉さまを幸せにしてあげてください」
「坊ちゃま、私からもお願い致します」
「当然だ」
彼女は俺の未来の嫁で、俺と一緒に幸せになる人なのだから。
アランやセバスなどその場にいた者達の静かな怒りを受け止めた後、俺はセバスに新しい机の手配と、使用人たちに俺が怒った理由を話した上でカーラにこのことを話さないよう頼んだ。
カーラには直接、俺から話をしたいから。
そして、アランと一緒に夕食を取った俺は、眠っているカーラを見て安堵すると、自室に戻って眠りについた。
――静かな決意を胸に。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、二話連続でフォールのお話になりましたがいかがだったでしょうか?
今回は特に長めのお話になっておりますが……何やら、不穏な空気が漂ってきましたね。
『聖女の力』の真相とは!?
そして、なぜフォールが激怒したのか!?
それは、後々明らかになってきますのでどうぞお楽しみに!
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