第33話 これからのこと
※フォール視点です。
カーラが辺境伯領に来るまでの経緯を聞いた後、一頻り泣いて眠ってしまった彼女を、彼女の自室のベッドに寝かせると、俺とセバスは彼女から聞いた話の整理をするため一度、談話室に戻った。
「はぁ、まさかあそこまで追い詰められていたとは」
「そうですね。思わず抱き締めるほどに」
「うっ、それは……」
カーラと元婚約者のことを知っていたから、少しずつ距離を縮めていたのに……慰めるためとはいえ、あれはやりすぎた。
「……カーラが目を覚ましたら謝罪する」
「そうしてください。カーラ様に嫌われる前に」
「分かっている」
俺だって、カーラに嫌われるのは大変不本意だ。
いや、不本意どころではない。
それだけは絶対に避けたい。
未来の妻として迎えるなら尚更。
とはいえ、彼女にとって会って間もない男に対し、淑女らしからぬ醜態を晒してしまうほどに追い詰められていたなんて。
可愛らしくも涙の跡が痛ましい彼女の寝顔を思い出し、深いため息をついていると紅茶を用意してくれたセバスの表情が僅かに歪む。
「私はカーラ様の涙を見て、いかに自分があの時、愚かな助言をしたのか身に染みました」
「それは、もう良いと言ったはずだ」
「ですが……!」
「セバス」
「っ! 失礼致しました」
俺だって、彼女の話を聞いた時、心の中で何度も自分を殴った。
もし、彼女が野盗か何かに襲われていたら。
もし、彼女が病や飢えで命を落としていたら。
俺は一生、自分のことが許せない。
そして、あの家を俺の魔法で焼き払っていたかもしれない。
言い募るセバスを黙らせた俺は、再び深いため息をつくとこれからのことを話す。
「一先ず、このことを王都にいる父さんと母さん、そして爺さんと叔父上に報告する。今回のことは、リスタット辺境伯家として、無視出来ない事態だからな」
「そうした方がよろしいかと。ただえさえ、『婚約者交換』という前代未聞の事態で煮え湯を飲まされたばかりですのに、そこに追い打ちをかけるようなことを……!」
怒りで顔を歪ませるセバスを一瞥し、俺はカーラが婚約者に決まってから何度も読み返した報告書の内容を思い出す。
穴が開くほど読み込んだそれは、彼女に出会ってから今日まで、秘密裏に彼女につかせていた辺境伯家直轄の諜報部隊『影』からもたらされた、彼女と公爵家に関しての最終報告書である。
彼女にはあの時、『君を俺の婚約者に迎えるにあたって』と言ってしまったが……街歩きが出来るまで回復したら謝ろう。
俺の妻として隣に立つ彼女にこれ以上、嘘も隠し事をしたくない。
彼女にはいつまでも笑っていて欲しいから。
――それが、俺の願いであり、最優先事項であり、生涯かけて守らねばならない誓い。
「『影』から送られてきた報告書であの家の酷さは知ってはいたが……まさか、ここまで酷いとは思わなかった」
「それはカーラ様の扱いですか?」
「それもあるが……あの家が、いかにあの女を中心に回っているかということだ」
「あの女?」
「皆大好き……いや、王都に住む者たちが大好きな『聖女様』のことだ」
最終報告書には、貴族の常識では到底理解できない……いや、理解したくもない、あの家特有の歪んだ現状が書かれていた。
彼女の実の母親が亡くなり、『聖女』と呼ばれるあの女とその母が公爵家に迎え入れられ、『第一王子の婚約者は、実は聖女を虐めている悪女』という噂が広まったことで、彼女が別邸に追いやられたこと。
『王太子の婚約者』であるにも関わらず、使用人以下の扱いを受けていたこと。
そして、その原因となった噂を流したのが、あの女であること。
公爵の采配で、王家から貰っていた『王太子の婚約者』としての補助金を全て、あの女に使い、カーラには一切使っていなかったこと。
『王太子妃教育』の一環と称して、公爵が彼女に領地経営の大半を任せていたこと。
その収益の大半が、あの女とその母親の衣服代と装飾代に使われていたこと。
『聖女とその家族』という立場を利用し、カーラを除く公爵家の者たちがお茶会や夜会に繰り出していたこと。
あの女に一目惚れした第一王子に、公爵家総出で二人の仲を密かに深めさせようとしていたこと。
そのために、第一王子に『面倒な雑務は全てカーラに任せればいい』と助言し、カーラの仕事を増やさせたこと。
どれもこれもが常軌を逸していた。
「カーラの母親が生きていた頃は、公爵も『宰相』としてそれなりに質実剛健に働き、周囲の貴族達ともそれなりに上手くやっていたのだが」
カーラの母親が亡くなり、カーラが王太子の婚約者になり、あの女と継母が公爵家に迎え入れられたから、『聖女のいる家』という肩書を得た公爵が、他の貴族に対して威張り散らすようになった。
特に、我が辺境伯家のような領地を拠点とする貴族たちに対しては、『田舎貴族』と言って罵ってくるようになった。
わが身と家を何より優先し、常に慎重な立ち回りをしていたあの宰相とは思えないほどの傍若無人ぶりだ。
そのせいで、辺境伯家を含めた、領地を拠点としている貴族とはほぼ絶縁状態。
全く、その『田舎貴族』と蔑む貴族たちがいてこそ、今の国があるというのに。
それすらも分からなくなったのか。
――最悪以外の何物でもないな。
「今のバリストン公爵様は、『聖女のいる家』という肩書と『宰相』という地位を利用して好き勝手しておりますからね」
「大方、元没落男爵令嬢である元愛人の入れ知恵なのだろうが」
『第一王子の婚約者は体調が優れない』『第一王子の婚約者は公務を優先させたいと言って聞かなかった』などという真っ赤な嘘をついて、未来の国母であるカーラではなく、元愛人とその娘を堂々と連れ回しているようだから
とはいえ、『聖女』という肩書を使って、他の貴族を敵に回すようなことをするのはいかがなものかと思うが。
「本来なら爵位を取り上げられてもおかしくない。いくら、建国時からこの国の中枢を担っている公爵家とはいえ、さすがにやりすぎだ」
「そうですね」
国の安定と未来を想うなら、あの家から爵位を取り上げて取り潰した方がいい。
――あの家の腰巾着に成り下がった家も含めて。
「それでも、バリストン家が今日まであり続けているのは、……」
「王族のせいだな」
そう、あの家が今日まで存続しているのは、我が国のトップのせいだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、お久しぶりのフォール視点です!
泣きじゃくるカーラを静かに受け止めたフォールは、公爵家に対して怒りを募らせます。
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




