第3話 覆せないもの
「それにアリシア」
「なんです?」
そっぽを向くアリシアに、昨日お父様から告げたことを口にする」
「あなたが嫁ぐリスタット辺境伯家は、我がバリストン公爵家と同じく、建国時からこの国を支えてきた名家なのよ」
昨日、王太子妃教育が無かったため、久しぶりに学園から直接屋敷に帰ってきた私は、お父様に呼ばれ、継母とアリシアのいる食事の席に呼ばれた。
普段は王太子妃教育や学園での勉強に追われているため、食事の席に呼ばれることは滅多にない。
まぁ、アリシアと後妻を溺愛しているお父様が、政治の道具としか思っていない私を食事の席に呼ぶとは思えないけど。
それは、使用人の手を借られず、身の回りのことは全て自分でしていれば嫌というほど理解できる。
なので、お父様が私を食事の席に呼んだのは予想外で、少しだけ嫌な予感がした。
何回着回したか分からないドレスに身をつつみ、食堂に向かった私は、使用人や継母に嘲笑されながら、滅多に食べられない豪勢な食事にありつく。
普段は、深夜の厨房に入って、残り物を使って自分で料理しているから。
そこで、お父様はアリシアに『リスタット辺境伯家へ嫁ぐように』と告げた。
アリシアはそこで『どうして私が、あんな田舎貴族のところに嫁がないといけないのですか!』なんて失礼千万なことを言って、すぐさまお父様に泣きついていたけど。
リスタット辺境伯家は、王都で『最強』と謳われている王国騎士団の次に強い騎士団を擁する名門で、建国以来、最前線で王国を守り続ける由緒正しい家。
私個人としては、リスタット辺境伯家の騎士団こそがこの国最強だと思っている。
だって、王都を守る王国騎士団と違い、辺境伯家の騎士たちは日夜あらゆる脅威と戦っているから。
そんな家と我が家が婚約を結ぶ理由は至極単純。
内政面から国を支えるバリストン公爵家と、外敵から国を守るリスタット辺境伯家が結ばれることで、王国の守りをより強固にするため。
そのことをお父様は貴族社会に疎いアリシアにも分かりやすく説明していたはずなのだけれど……
「アリシア、あなたの婚約も私の婚約も全てはこの国の未来のため。だから、あなたワガママで簡単に婚約者を交換するなんて……」
「それでも嫌なの!!」
「はいっ?」
嫌? 今、『嫌』って言った?
淑女らしからぬ間抜けた声を漏す私に、ソファーから立ち上がったアリシアは、ローテーブルに可愛らしい両手を思い切り叩きつける。
「お父様やお母様と離れるのだって嫌なのに、私のことを『好き』って言ってくれるフィリップ様と離れるなんて絶対嫌よ!」
今のアリシアのセリフを溺愛しているあの二人に聞かせてあげたわ。
間違いなく卒倒するわね。
「……あの人、そんなことを言っていたね」
婚約者である私がいるにも関わらず、婚約者の義妹に気持ちを伝えていたなんて。
まあ、アリシアの容姿は、フィリップ殿下の好みそのものだから言いそうだわ。
お茶会でアリシアと一緒に来たら、私に『お前は、邪魔だから帰れ』と言って除け者にしたのだから。
怒っている顔すら愛らしいアリシアに、絆された侍女が私を冷たく睨みつける。
本当、この侍女は私が正当な公爵令嬢なのを分かっているかしら。
小さくため息をついた私は、侍女の視線を無視し、アリシアに現実を突きつける。
「アリシア。あなたがいくらワガママを言っても、婚約者を交換するなんて到底無理よ。結婚式が一週間後に控えているこのタイミングなら尚更」
私とフィリップ殿下の婚約は王命で、アリシアとリスタット辺境伯家の婚約は、国の行く末を考えた重要なもの。
私たちの婚約は、たった一人のワガママで変えられるようなものではないのよ。
すると、空色の瞳を潤ませたアリシアが、とんでもないことを口にする。
「でも絶対嫌なの! だから昨日、お義姉さまが食堂を出た後、お父様にお願いしたの!」
「お願いって、『辺境伯家との婚約を取りやめたい』ってこと?」
それは、お父様も承服しかねるのは、いくら頭お花畑のアリシアでも理解出来たはず。
「違うわ! 『田舎貴族と結婚するのも嫌だし、フィリップ様と離れるのも嫌だから、お義姉さまと婚約者を交換してください』って!」
「っ!」
――まさか、本当にお願いしたの!?
その瞬間、嫌な汗がすうっと背中を伝った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
アリシアのワガママをカーラが静かに諭すシーンは、短編でもありましたね!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




