第2話 婚約者交換
「おめでとうございます、アリシア様! ようやく叶ったのですね!」
「「「「おめでとうございます、殿下!」」」」
フィリップ様の宣言に、アリシアと一緒に来た侍女が涙ぐみ、彼の護衛騎士たちが祝福の声を上げる。
――誰も、王命が変わったことに対して何の疑問も抱かなかった。
それが酷く恐ろしかった。
まるで最初から決まっていたみたいで……
「ありがとう! やっぱり、昨日のうちにお父様とフィリップ様にお願いして良かったわ!」
「えっ?」
アリシアの婚約が決まったのが一昨日。
その翌日に、お父様とフィリップ様にお願いした?
私にいつものようなふざけたワガママを言う前に?
「……アリシア」
「何ですか?」
「あなた、ここに来る前にお父様とフィリップ様にお願いをしたの?」
『『魔力ゼロ』より『聖女』の方が相応しいから』って。
「そうですよ。だって、お義姉さまに話を通すより早いではありませんか」
「っ!」
「それに私、あんな田舎貴族のところに行きたくありませんでしたし、大好きなフィリップ様の傍を離れるなんて考えられませんでしたから!」
「アリシア、やはり君こそ僕の妻に相応しい!」
「フィリップ様!」
目の前で抱き合う二人に言葉を失う。
話が早いからって、王命を覆してくださいって言う?
それも、現宰相と王族に。
静かに立ち上がった私は、フィリップ様に視線を向ける。
「……フィリップ様」
「なんだ、『魔力ゼロ』の下民風情が」
「っ!」
『下民と同じ魔力ゼロで地味な容姿なお前が、次期国王の婚約者なんて輝かしい我が国の歴史に泥を塗っているとしか思えないな!』
初めて顔を合わせた時にかけられた言葉が脳裏を過る。
初対面にもかかわらず容姿と魔力を罵った彼は、何かあるたびに『地味な容姿!』『魔力ゼロ!』と言っては、私をこき下ろして、時には魔法を撃って嘲笑してきた。
――いつもなら黙って引き下がるけど、こればかりは引き下がるわけにはいけないわ。
私とアリシア、それぞれの婚約が、公爵家の――ひいてはこの国の未来に深く関わる以上、尚更よ。
震える手をギュッと握りしめると、フィリップ様の冷たい視線を真正面から受け止める。
「分かっているのですか? たった一人のワガママで王命を変える意味を。そして、アリシアの嫁ぎ先であるリスタット辺境伯家と我がバリストン公爵家が婚約を結ぶ意味を」
王命で定められた婚約を覆せば、貴族社会にどれほどの混乱が生じるか。
そして、建国時から王国を支える二家の婚約を変えることが何を意味するのか。
「フン。そんなもの、父上が王命を下せばいいだけの話ではないか」
「何を言って……っ!」
王命……まさか!
その時、アリシアから離れたフィリップ様が懐から上質な紙を取り出して、得意げに私に見せつける。
そこには、国王陛下の署名でフィリップ様と次期リスタット辺境伯家当主の婚約者を変えるという王命が書かれていた。
――陛下がアリシアのワガママを認めたということ?
「フン、これで分かっただろ。俺にはアリシアがいる。お前は要らない。お前はもう、未来の国母になれないんだよ」
「…………」
脳裏にこの10年の苦労が蘇る。
ほんの僅かでも間違えれば叱責。
少しでも弱音を吐けば叱責。
愚痴など零そうものなら鞭が飛んでくる。
それでも、未来の国母になるために耐えてきた。
本当、私の10年は、一体何だったのかしら。
――何もかも我慢して耐えた、この10年は。
「ごめんなさい、お義姉さま。でも、仕方ないですよね。だって、お義姉さまは『魔力ゼロ』で、私は『聖女』なのですから」
「っ!」
――ようやく理解した。
義妹は、いつものように私の意見など聞く気はなかった。
彼女がわざわざ別邸に住む私のもとへ来た時点で、すべては決まっていた。
――前代未聞の『婚約者交換』に、私の意思が入り込む余地なんて、最初からなかったのだ。
その時、私の細い腕を冷たい大きな手が掴んだ。
二人の婚約で歓喜に包まれていた空気が、一気に凍り付く。
「っ! お父様……」
どうして。
貴族として保守的なあなたが、どうしてこんな馬鹿げたことを認めてしまったのですか?
陛下と懇意にしているあなたなら、止められたはずでしょ?
掴まれた手を辿ると、そこにはフィリップ様と同じ冷たい目をした男が立っていた。
――私と亡き母を疎み、継母と義妹を溺愛している父親が。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、義妹のワガママで婚約者があっさり婚約者が交換されました。
この国、大丈夫か?(笑)
※大幅改稿をしました。
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