第22話 久しぶりにお会いして
※侍医マホロフ視点です。
昨夜、フォール坊ちゃまから『婚約者が来たので、容態を見て欲しい』との知らせを受け、翌日、朝早くに看護師と共に屋敷を訪れ、疲労がかなり溜まっているカーラ嬢の診察をした。
「カーラ嬢、すっかり大きくなられましたね」
診察を終え、屋敷内の調剤室に向かう道すがら、久しぶりに見たカーラ嬢の姿に、ふっと笑みを零す。
初めてお会いした時は、フィオナ様に手を引かれ、恥ずかしそうに私を見る少女だったから。
「はい。『淑女』と呼ぶに相応しい立派な令嬢になられました」
調剤室まで案内してくださるセバスさんが、嬉しそうに笑って答える。
彼もきっと、今のカーラ嬢を見て私と同じ感想を抱いたのだろう。
「とはいえ、まさか本当に私のことを忘れておられていたとは……坊ちゃまから知らせを受けた時は耳を疑いましたが」
『マホロフ殿、今のカーラは貴殿のことを覚えていない。それだけは、覚悟して欲しい』
魔道具越しに伝わる苦しそうな坊ちゃまに言われた時、すぐには飲み込めなかった。
幼いとはいえ、当時7歳。
辺境にいる間、毎日のように顔を合わせていたのだから、少しは覚えていると思っていた。
けれど、現実は坊ちゃまの言う通り、彼女は本当に私のことを覚えていなかった。
あの部屋で彼女の驚いた表情を見てすぐに悟った。
「……そうですね。私もそうでしたから」
私の話を聞いてセバスさんが少しだけ顔を顰めた時、セバスさんの足が調剤室の前で止まり、そのまま閉じられていた扉を開けた。
「どうぞ、お入りください」
「ありがとうございます」
つい先日、備蓄用の薬を調合するために来た調剤室には、日夜、国境沿いの大森林から出る魔物の討伐を行っているお陰か、あらゆる薬がすぐに調合出来るよう多種多様な材料と、調合用の道具が揃っていた。
さすが、建国時から国境を守るリスタット辺境伯家。
いつ来てもすぐに薬が調合出来るよう完璧に整えられている。
こういうところは本当に抜かりがない。
笑みを深めた私は、早速必要な材料を手に取って調合に取りかかる。
「今回は、睡眠不足と栄養不足を改善する薬をそれぞれ一週間分、処方しておきます」
「ありがとうございます」
この部屋で材料の匂いを嗅ぎながら薬の調合をする度に背筋が伸びる。
私の手に、この国を魔物や隣国から守る騎士達の命がかかっていると思ってしまうから。
今回は、次期辺境伯家当主の妻であるが……それでも、命にかかっているのに変わりはない。
頭の中の処方箋をなぞり、カーラ嬢の体調が一日でも早く良くなることを願いつつ、慣れた手つきで二種類の薬をそれぞれ調合していく。
「それにしても……まさか、あそこまで状態が深刻だとは思いませんでした」
薬の調合をしながら、私は診察の時を思い出す。
色白の顔に浮かぶ、隠しきれない疲労。
貴族令嬢としては、あまりにも細すぎる体躯。
そして、睡眠不足を物語る目元が、今回の長旅による疲れだけではないことを教えてくれた。
――王都で長年、激務に身を投じたせいで出来たものであることを。
頑張りすぎるところは、フィオナ様にそっくりだ。
あの方も、体が弱いのに頑張りすぎるところがあったから。
その時、フォール坊ちゃまからもたらされた報せを思い出す。
「しかし、本当にカーラ嬢がフォール坊ちゃまの婚約者になるとは……こう言っては何ですが、王家とバリストン公爵家も落ちたものですね」
「それに関しては、同意致します」
遡ること約一か月前。
『使用人が風邪を引いた』と知らせを受け、私は看護師と共に診察のために屋敷を訪れて診察と薬の処方をした。
その時、王都から帰ってきたフォール坊ちゃまから『新しい婚約者がカーラ嬢になる』という話を聞いた。
正直、耳を疑った。
なにせ、カーラ嬢は言わずと知れた第一王子の婚約者。
いわば、未来の国母。
そんな彼女がどうして坊ちゃまの婚約者になったのか?
坊ちゃまから経緯を教えてもらったが……貴族としてあまりにも前代未聞な経緯に、今日まで坊ちゃまの話を信じることが出来なかった。
けれど今日、立派な淑女に成長されたカーラ嬢を見て、私は坊ちゃまの話が本当であると……王家と公爵家が愚かであることを実感した。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、カーラを診察してくれたマホロフのお話です!
辺境伯家の侍医として仕えている彼は、カーラの母フィオナのことを知っていましたね。
一体、どのような関係が……!?
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