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【長編】この度、ワガママ義妹と婚約者を交換することになりました  作者: 温故知新
第二章 愛しい君を溺愛させて!

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第19話 お母様を知っている?

「あの、『侍医』というのは……」



 セバスの背中を見送った私は、恐る恐るフォール様へ視線を向ける。

 すると、視線を戻したフォール様が、申し訳なさそうに頭を下げた。



「すまない。昨日の君の様子を見て、我が家のお抱え侍医を手配していたんだ」

「そ、そんな! この程度の疲れ、寝ていれば十分です!」



 この程度の疲れ、もう眠れば回復する。


 8歳で第一王子の婚約者となってから十年。


 何かに追われるような日々を過ごしてきた私だから断言出来る。


 実際、久しぶりにゆっくり眠れたお陰で、昨日よりも遥かに頭もすっきりしているし、心なしか体も軽い気がするわ。


 それに、このくらいの疲労で侍医を呼ぶなんて、あまりにも申し訳なさすぎるわ!


 フォール様の気遣いに罪悪感を覚えて狼狽えていると、フォール様が僅かに眉を顰める。



「カーラ。寝て治る程度なら、昨日みたいに倒れたりしないし、俺も侍医を呼ぶことはしない」

「そ、それは……そうかもしれませんが……」



 確かに、寝て治る程度の疲れなら、初日からあのような失態は犯さないはずよね。


 正論を言われて口ごもると、フォール様の手が優しく私の手を包み込み、そのまま自分の額につけた。



「フォ、フォール様?」

「君が倒れた時、一瞬、心臓が止まった」

「そ、そんな大げさな……」

「大げさではない。本気で一瞬、心臓が止まったんだ」

「っ!」



 ゆっくり顔を上げたフォール様のルビー色の瞳に心配と焦燥が入り混じる。


 この方は、私が倒れた時に本気で私を心配してくれたのね。


 ……初対面であるはずの私に対して。



「だから、診察を受けてくれないか? 昨日からずっと君を心配していた俺のためにも。そして、君自身が、もう二度と倒れないためにも」

「うっ!」



 こんな真剣な顔でお願いされたら、素直に従うしかないじゃない。


 懇願するように強く手を握られた私は、観念したように小さく頷く。



「わ、分かりました。では、お言葉に甘えて」

「あぁ、ありがとう、カーラ」

「い、いえ……こちらこそ、来て早々、ご面倒をおかけしてしまい、申し訳ございません」



 本当、私が倒れたせいで、とんだご面倒を……



「大丈夫だ。この程度のこと、面倒だなんて思っていない」

「っ!」



 安堵の笑みを向けるフォール様に、なぜか気恥ずかしくなって思わず目を逸らす。

 こんな風に大切に扱われるの、いつ以来かしら。


 少なくとも、お母様が生きていた頃は大切にされていた。


 私が体調を崩した時、お母様はお父様と大喧嘩してまで侍医を呼んで、家庭教師にも休みの連絡を入れてくださり、そして、私の体調が良くなるまで、ずっと傍にいてくれたわ。



「会って間もない人に、こんなにも大切にされる日が来るなんてね」

「カーラ?」



 過去の温かい記憶を思い出し、少しだけ胸が痛んだ時、セバスが白衣を着た初老の男性と、看護師用の服に身を包んだ女性を連れてきた。


 白衣を着たのが、フォール様がお呼びしたお医者様ね。



「フォール様。昨日のうちに、ご連絡をいただいた奥方様とは……」

「っ!?」



 お、奥方様!?

 私、まだ婚約者ですが!?


 フォール様と入れ替わるようにベッドサイドの椅子に座ったお医者様の言葉に、頬を熱くして動揺する私とは正反対に、笑みを深めたフォール様が自信ありげに頷く。



「あぁ、この美しい女性が我が愛しい妻のカーラだ」

「えっ!?」

「フォール坊ちゃま。まだ婚約者様でしょう?」

「あぁ、そうだった。つい、先走ってしまった」

「…………」



『先走った』で済む話なのですか、それは。


 フォール様の本気なのかわざとなのか分からないうっかりに振り回され、心臓の音が急にうるさい程に高鳴っている。


 そんな私を見たお医者様が、驚いたように目を見開いた。



「フィオナ様……」

「っ!」



 聞き覚えしかない女性の名前に、フォール様のうっかりに振り回されてのぼせる寸前だった頭が一気に冷える。



 ――フィオナ。


 それは、私の母の名前だった。


 どうして、この方がお母様の名前を?


 それにこの方、どこかで見たことがあるような……



「マホロフ殿。その方については昨日、手紙に書いただろう」

「おっと、そうでした。大変失礼致しました」



 この方は、お母様のことを何かご存知なのかしら?


 そして、フォール様もお母様のことを知っている?


 ……分からない。


 お母様は、ご自身のことについてほとんどしてくださらなかったから。


 二人の会話に違和感を覚えていた時、朗らかな笑みを浮かべたお医者様……マホロフ様が私に視線を戻した。



「では、カーラ様。早速、診察を始めてもよろしいですかな?」

「は、はい! よろしくお願い致しますわ」



 緊張のあまり声が上ずる私に、マホロフ様は楽しそうに……そして、どこか嬉しそうに笑った。



「フフッ。本当、フィオナ様によく似ておられる」

「マホロフ殿」

「はいはい、分かっております、フォール坊ちゃま」

「頼むから、その呼び方はやめてくれ」



 恥ずかしさで頭を抱えるフォール様をよそに、マホロフ様は一緒に来られた看護師の方と共に診察を始める。


 診察が終わったら聞いてみよう。


 お母様のことを。


 そして、このリスタット辺境伯家とお母様の関係を。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


というわけで、新キャラ登場です!


リスタット辺境伯家の侍医である彼は、どうやらカーラのお母様のことを知っているみたいで……


この話が、後々、伏線になってきますので、お楽しみに!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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