第18話 無理をさせてすまなかった
「起きたか」
「へ、辺境伯子息……」
「カーラ?」
「うっ……フォール様」
「うん。おはよう、カーラ」
「お、おはようございます、フォール様」
『辺境伯子息様』と言った途端、笑顔で圧を受けた気が……うん、気にしてはいけないわ。
部屋にいた使用人たちが皆、私から距離をとって深々と頭を下げる中、満足げな表情で部屋に入ってきたフォール様になぜか少しだけ安堵する。
その時、昨日の失態が頭を過る。
「フォ、フォール様! 昨日は着いて早々、見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした!」
辺境伯家に来て早々、疲れて倒れるなんて、どう考えても迷惑でしかないじゃない!
先程まで温もりに包まれていた手が冷たくなるのを感じながら頭を下げていると、ベッドサイドに置かれた椅子に腰掛けたフォール様がそっと私の頭に手を置く。
「いや、構わない。むしろ、疲れているのに立ち話をさせてしまいすまなかった」
「い、いえ! フォール様が気にされるようなことでは……」
「それでも、君に無理をさせてしまったことを申し訳なく思っている」
「っ!」
ゆっくり顔を上げると、心底申し訳なさそうな顔で私を見つめるフォール様と目があった。
初対面にも関わらず、義妹から『交換』された婚約者にも関わらず、どうしてこの人は私を気遣ってくれるのかしら?
すると、昨日、彼に言われた言葉が脳裏に蘇る。
『今の君に『大丈夫だ。安心してくれ』と言っても、今の君が俺の言葉を信じることが難しいのは重々承知しているつもりだ。それでも……ここには、君を蔑ろにする人間なんていない。それだけは、リスタット辺境伯家の名に懸けて……いや、俺の全てをかけて約束する』
そう、この方は知っている。
魔力ゼロで『聖女を虐める悪女』と言われた私が、王都でどのような扱いを受けてきたのかを。
その上で彼は私を『婚約者』として扱ってくださっている。
――また、『婚約者』という名の都合の良い道具として扱われるのかしら?
王都での日々が胸の奥がギュッと締めつけ、小さく口を噤む。
そんな私を見つめていた彼が、何かに気づいて僅かに眉を顰める。
そして、私の頭の上に置いていた手を頬に滑らせて、ゆっくりと顔を近づける。
「フォ、フォール様!?」
こ、こんな至近距離で殿方見つめられるなんて、初めてすぎて恥ずかしい!
それも、『神々が心血注いで作った』と言われても納得してしまうご尊顔で見つめられたら尚更!
元婚約者ですら、こんな顔を近づけることなんてなかったのに!
優しい顔立ちの元婚約者とは違い、野性味がありながらも貴族らしい気品のある顔立ちのフォール様に見つめられ、思わず視線を逸らす。
すると、フォール様は僅かに眉を顰めたまま、小さくため息をついた。
「昨日に比べて、大分顔色が良くなっている。とはいえ、やはり心配だ」
「えっ?」
フォール様に指摘され、思わず触れられていない自分の頬に手を添える。
私、そんなに顔色が悪かったの?
確かにここ一ヶ月、慣れない馬車移動に加えて、馬車代や宿代を稼ぐために日雇いで色々な仕事をしていた。
でも、宿の食堂や街の定食屋さんで三食きちんと食べていたし、毎晩夜更かしせず眠っていた。
少なくとも、王都で質素な食事と遅くまで勉強と仕事をしていた頃に比べたら、遥かに顔色が良いはずだけど……
小首を傾げる私を見て、更にフォール様の表情が険しくなると後ろから『コホン』とわざとらしい咳払いが聞こえた。
「坊ちゃま、婚約者様が心配なのは分かりますが、ほどほどになさってくださいませ」
「えっ?……あっ!」
フォールの背後に控えていたセバスに言われ、ようやく私との距離が近すぎることに気づいたフォール様が慌てて離れる。
「す、すまない! 心配でつい……嫌、だったか?」
「え、あっ、別に……嫌、というほどでは……」
恥ずかしくなって顔を背けた私は、彼が触れていた頬にも手を添える。
触れられていた頬が異常なくらい熱い。
でも、彼に触れられている間、不思議と嫌ではなかった気がする。
両手で頬を抑え、恥ずかしそうに顔を背ける私に、驚いたように目を見開いたセバスは小さく微笑むと、すぐさま笑みを潜めて耳を真っ赤にしているフォール様に声をかける。
「フォール様。カーラ様も無事にお目覚めになられたことですし、侍医のマホロフ様をこちらに通してもよろしいでしょうか?」
「あっ……あぁ、そうだな。確か今朝、来られていたんだったな」
「はい。では早速」
「頼んだ」
深々と頭を下げたセバスは、一瞬だけ私の方を見るとニコリと笑って部屋を後にした。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、色々とおかしいカーラが心配でならないフォール!
いや~、彼の過保護っぷりが全開でしたね(笑)
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




