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【長編】この度、ワガママ義妹と婚約者を交換することになりました  作者: 温故知新
第四章 幸せになりましょう!

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第107話 最初で最後の親子喧嘩

「カーラ……」



 あの男に対する怒りのあまり、感情のまま言葉をぶつけてしまった私を、フォール様が悲しそうな目で見つめている。


 きっと、この方は――あの男から理不尽に罵倒される私が、傷つくことが嫌なのだろう。


 ――本当に、優しい人だわ。


 不安げに見つめる彼を安心させようと、私は柔らかく笑みを浮かべた。



「フォール様、ご心配いただきありがとうございます。でも大丈夫ですわ」

「しかし、あのような罵倒はあまりにも……!」

「あの男が私の話を聞いて言い返す。それに対して、私も反論する。これだけで、奇跡ですわ」



 あの屋敷にいた頃、私たちは滅多に顔を合わせなかった。


 たとえ顔を合わせたとしても、妻と義妹を溺愛するあの男は、私の話など聞こうともせず、ただ仕事を押し付け、理不尽な罵倒を浴びせた。


 そんな男に、恐怖と諦めに縛られ、ただ黙って、あの男の機嫌を損ねないように振る舞うしか出来なかった私は、言い返すことなどできなかった。


 そんな私たちが今、こうしてまともに会話している。


 あの男に言い返せている。


 それだけで――奇跡なのだ。



「確かに、君にとってはそうかもしれない。だが……!」



 悔しそうに顔を歪めるフォール様を見て、私は笑みを潜めると小声で問いかけた。



「ところで、フォール様」

「なんだ?」

「『聖女の力』で、魔法そのものを一時的に封じることはできるでしょうか?」



 そう言って、私はあの男の隣に立つ黒ローブの男を睨みつける。


 ――あの男こそ、私とアリシアに禁呪を施した張本人。


 そして、保身に余念のないお父様は、万が一に備えて、禁呪を使うための魔道具を懐に隠し持っている。


 大神官様たち曰く、私の聖女の力は、アリシアが持っていた頃よりも圧倒的に強いらしい。


 それなら――聖女の清らかな力で、邪悪な魔法そのものを封じることができるかもしれない。


 例えば、光の縄で相手を拘束し、ほんの僅かな時間だけ魔法を使えなくするとか。


『聖女の力』でほんの少しでも隙が出来れば、フォール様たちが黒ローブの男を取り押さえてくれるはず。


 少しだけ考えたフォール様が、小声で答える。



「分からない。だが……やってみる価値はある」

「そうですか」



 なら、やってみるしかないわね。



「では、私が『聖女の力』で魔法を封じたら、その隙に全員を取り押さえてもらってもいいですか?」

「……分かった」



 ……でも、その前に。



「おい! 何をこそこそ話している!」



 声を荒らげるあの男に、視線を戻した私は笑みを浮かべまま一歩前へ出た。



「カーラ、それ以上は……!」

「大丈夫ですから――私を、信じて」



 優しく微笑んだ私を見て、大きく目を見開いたフォール様は小さく口角を上げる。



「もちろん、信じている。だが、無理だけはするな」

「はい」



 視線を前に戻した私は、顔を真っ赤にしているお父様に静かに投げかける。


 ――家族ならば答えられる、ごく当たり前の質問を。



「お父様。私の名前を言ってください」

「は?」



 これは、最終確認。


 私と血の繋がった父親を――完全に見限るための。



「おや、忘れましたか? 十年以上も同じ屋敷で暮らしていた娘の名前を」



 この男の性格は、嫌というほど知っている。


 自分にとって利益になる者の名前しか覚える気がないことも。


 ――そして、自分の手足として使っている者の名前など、覚えようともしないことも。


 だから、きっと……。


 すると、お父様はニヤリと笑った。



「さぁ、アリシアの『繋ぎ役』の名前なんざ、公爵家を追い出した瞬間に忘れた」

「「「「っ!」」」」



 得意げに笑うお父様の返事に、フォール様を含めた周囲の人たちが一斉に顔色を失う中、私は小さく息を吐いた。



「……そうですか」



 ――やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。



『カーラ、お前は今すぐリスタット辺境伯家へ行け』



 ――公爵家を追い出される時は、ちゃんと名前を呼んでくれたのに。


 でも……安心したわ。


 これで、決して相容れなかった父と娘の、最初で最後の親子喧嘩が出来るのだから。


 僅かな痛みを胸に、クスリと笑った私は、目の前の男にある提案をする。



「では、賭けをしましょう」

「賭けだと?」



 眉をひそめるお父様とアリシアに、私は笑みを深める。



「ええ。そこにいる魔法師らしき方が禁呪を使うのと同時に、私は聖女の力を使い、その魔法師の動きと禁呪が込められた魔道具を封じます」

「ほう。アリシアから奪った力で、魔法師と魔道具を封じると?」

「まだ、そのようなことをおっしゃいますか? 『聖女の力』が本来、私のものであることは、あなたが一番よく知っているはずです」

「違う! その美しい力は、美しいアリシアにこそ相応しい力だ!」

「お父様……」



 潤んだ目で父親を見つめていたアリシアが、ほんの一瞬、私を見た。


 その口角が、ほんの僅かに吊り上がった。


 私とアリシアの人生が、一人の男によって捻じ曲げられていたと知り、絶望したあの子の表情を見て、少しだけ同情してもいいと思っていた。


 けれど――もういいわ。


 血の繋がった父親も、継母も、義妹も、この先どうなろうと知ったことではない。


 私は、神様から与えられたこの力で、私の大切なものを守る。


 ――もう二度と、誰にも奪わせない。



「私が勝てば、そこにいる魔法師だけでなく、あなたが今、隠し持っている禁呪の魔道具も、すべて使い物にならなくなります」

「では、私たちが勝てば、貴様が奪った力はアリシアのもとへ戻り、お前たちは処刑台行きということだな?」

「そうですね」



 ニヤリと笑うお父様に、静かに頷いた私は、お父様を見据えた。



「ですが、私はあなたに負けるつもりは一切ありません」



 そう。


 負けるつもりなど、一切ない。


 私の背後に。


 私の隣に。


 私を信じてくれる人たちがいる限り。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


というわけで、父と娘の最初で最後の親子喧嘩が勃発!


第一章ではまともに会話出来なかった二人の戦いの行方は……!?


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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