第102話 作戦開始!
「フォール! 先ほどアランから、王国騎士団が辺境伯領へ現れたとの知らせが届いた!」
「フォール、こちらも公爵領の包囲が完了したとの知らせが届いた!」
「分かりました!」
王城近くの隠れ屋敷で、お義父さまとお義祖父さまから、次々と作戦開始の条件が整ったとの報告が入る。
それを聞いたフォール様は、私の隣にいる前国王陛下に視線を向ける。
「大伯父上、全て準備が整いましたので手筈通り、行きましょう!」
「あぁ」
小さく頷いた前国王陛下は、集まった騎士たちに向かって声を張り上げる。
「皆の者、聞いたな! 作戦開始だ!」
「「「「「うおぉ――――っ!!!!」」」」
前国王陛下の号令で、王城制圧部隊の騎士たちが、転移魔法が付与された魔道具を使って、王城正門前へ転移する。
「うおっ! なんだ、貴様ら!」
王城を守る門番を前に、陣頭指揮を執るお義祖父さまが剣を抜いて合図を出す。
「突入――!」
その瞬間、剣を引き抜いた王城制圧部隊の騎士たちが一斉に動き出す。
目指すは――王城内の謁見の間。
この戦いで、王族とバリストン公爵家の主要人物を拘束し、この国を長年歪めてきた者たちを権力の座から引きずり下ろす。
「な、なんだ!?」
「う、うわあ――っ!!」
王城の正門から武装した騎士たちが雪崩れ込んできたことで、王城内は瞬く間に騒然となった。
何が起きているのか分からず、その場で立ち尽くす文官たち。
悲鳴を上げて逃げ惑う使用人たち。
そして、異変を聞きつけて駆けつけた王国騎士たちは、即座に剣を抜いた。
「侵入者だ! 取り押さえろ!」
「王城を守れ――!」
突入してきた私たちを止めようと、王国騎士たちが切りかかってくる。
けれど――。
「いいか! 我々の目的は略奪でも殺戮でもない! 狙うのは王族とバリストン公爵家の主要人物のみ! 武器を捨て、抵抗の意思を見せぬ者には手を出すな!」
「「「「了解!!」」」」
お義祖父さまの鋭い命令に従い、王城制圧部隊の騎士たちは武器を捨てた者や逃げる者を追わず、襲いかかってくる王国騎士だけを相手に、攻撃を受け止めて武器を弾き飛ばし、次々と制圧していく。
それでも進軍の足は止まらない。
――すごい。
今日のために集められた騎士たちを、この短期間でここまでまとめ上げるなんて。
さすが、かつての大戦で『覇王』と呼ばれたお義祖父さまだ。
きっと、お義祖父さまが持つ人徳と、戦場を知る者だけが纏える圧倒的な存在感があるからこそよね。
――とはいえ、嬉々として自ら前線に立つのはどうかと思うけど。
その時、前方から、お義祖父さまの声が飛んでくる。
「カーラさん! 皆に強化魔法を! これから更に王国騎士が集まってくる!」
「分かりました!」
フォール様とお義父さまに守られながら、私はお義祖父さまの指示に従い、胸の前で両手を組み、意識を集中させる。
この半年間。
各地を浄化しながら、何度も何度も鍛錬を重ねてきた。
自分の中にある膨大な力に振り回されるのではなく、自分の意思で制御し、大切な人たちを守るために使えるように。
今こそ、その成果を見せる時!
――皆様に、聖女の祝福を!
身体の奥から溢れ出した魔力を、一気に解き放つ。
すると、淡い光が波のように広がり、戦っている王城制圧部隊の騎士たちを次々と包み込んでいく。
「おおっ!? なんだ、これは!」
「力が漲ってくる!」
「身体が軽いぞ!」
「これなら、まだまだ戦える!」
目を開けると、祝福を受けた騎士たちの動きが、目に見えて鋭くなり、押し寄せる王国騎士たちを次々と撥ね退けていった。
これなら、思ったよりも早く謁見の間に辿り着くわ。
「さすがだ、カーラ! 見事だ!」
「ありがとうございます!」
フォール様に褒められ、思わず頬が緩む。
王城制圧をしている最中だということを、一瞬だけ忘れてしまいそうになる。
「おーい、フォール! 嫁を口説くなら全部終わってからにしろ!」
「分かっています!」
前線で戦うお義祖父さまに茶化され、フォール様が僅かに眉をひそめる。
その直後――。
「この、反逆者が――!」
「フォール様!」
近づいてきた王国騎士に思わず声を上げた時、フォール様の視線が鋭くなる。
そして――。
「はあっ!」
すぐ傍まで迫っていた王国騎士の剣を受け流し、そのまま相手の体勢を崩して床へ叩き伏せた。
さらに背後から迫っていたもう一人の剣を弾き、その腕を捻り上げて武器を落とさせる。
すごいわ。
さすが、辺境で騎士団を率いていた方だわ。
……って、見惚れている場合じゃないわ!
「フォール様」
「なんだ?」
王国騎士たちを一通り制圧し、騎士団が謁見の間に繋がる廊下へ進み始めたところで、私はフォール様へ声をかけた。
「本当に……謁見の間に王族と公爵家の者たちはいるのでしょうか?」
作戦決行の直前。
王城へ潜入していた辺境伯家の影から、王族と公爵家の主要人物が謁見の間へ集まっているとの報告が届いた。
もちろん、辺境伯家の影を疑っているわけではない。
問題は――その後だ。
これだけ大きな騒ぎになれば、さすがにあの人たちも異変に気づく。
そして、もし謁見の間から逃げ出し、王族だけが知る隠し通路へ逃げ込まれてしまったら。
捕縛は一気に難しくなる。
何より――。
「隠し通路の先には、国外へ逃れるための転移陣があるのですよね?」
「ああ」
フォール様の表情が僅かに険しくなる。
「もし、あの人たちが隣国へ逃げ込んだら……」
「最悪の場合、他国の力を借りて王位を取り戻そうとする可能性もある」
「……やはり」
胸の奥がざわつく。
あの人たちが、ただ亡命して大人しく暮らすとは思えない。
自分たちこそが正当な王族だと訴え、隣国へ軍事介入を求める可能性だってある。
そうなれば、これは国内だけの争いでは済まなくなる。
下手をすれば――再び、この国を巻き込んだ大戦が起こる。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
これ以上、あの人たちの身勝手な都合に国民を巻き込みたくない。
すると、フォール様が剣を持っていない方の手で、私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ」
「フォール様……?」
「今頃、奴らは俺たちの奇襲を知って混乱しているはずだ。すぐに状況を整理して隠し通路へ逃げ込めるほど、冷静ではないだろう」
「それは……ありえそうですわね」
私は知っている。
今の王族も、バリストン公爵家も、自分に都合の悪いことが起きると、何かと他人へ責任を押しつける。
もしかすると今頃、逃げることより先に、『誰のせいだ!』『お前が悪い!』など、責任の押しつけ合いをしているかもしれない。
……容易に想像できてしまうのが、何とも言えないけれど。
「それに、万が一に備えて手は打ってある」
「え?」
「前もってアランを通じて、転移先となる隣国にも事情を伝え、協力を取りつけてある。それに、転移陣へ続く隠し通路の出口には――お前の義理の家族たちが控えている」
「あ……」
それを聞いて、私はようやく少しだけ肩の力を抜いた。
私の養子先となったボアソナード公爵家。
まさか、ここまで全面的に辺境伯家へ協力してくださるとは、少し前の私なら想像すらしていなかっただろう。
まあ……ボアソナード公爵家の当主であり、今では私の養父となったあの方は、私が実の父から受けてきた仕打ちもあって、相当怒っているから。
『貴様の父が私の前に現れたら、我が愛しい娘に代わって、その首を落としてくれる!』
一か月前にお会いした時、嬉々として物騒なことをおっしゃっていたけど……本当にやりそうだわ。
――もっとも、その前に私自身の手で、お父様の好き勝手を終わらせるつもりだけれど。
その時、目の前の王国騎士を粗方制圧したお義祖父さまの声が飛んできた。
「フォール! オーロン! カーラさん! それから――兄上!」
お義祖父さまの声に気づき、視線を戻すと見覚えのある豪奢な大きな扉が見えた。
あの扉の向こうには――私の実の父がいる。
十八年間。
たとえ私を娘として愛してくれなかったとしても。
たとえ私を王家と公爵家を繋ぐ『道具』としてしか見ていなかったとしても。
あの家の娘として生きてきたことに変わりはない。
だから……もう、逃げない。
「もうすぐ謁見の間じゃ! 準備はいいな?」
「はい!」
「いつでも大丈夫ですわ!」
「もちろんです、父上!」
お義祖父さまからの問いかけに、私たちが威勢よく返事をする中、私の隣にいた前国王陛下が静かに視線を前に向ける。
これから、自分の血を分けた家族を王族の座から引きずり下ろす。
自らの息子にその妻。
そして……愛する孫。
その表情には、家族としての苦悩が滲んでいた。
それでも……
「……大丈夫だ、行こう」
その深い藍色の瞳に、もう迷いはなかった。
――この方も、家族を見限る覚悟を決めたのね。
ならば……私も、改めて覚悟を決めなくてはならない。
私は小さく息を吸い、真っ直ぐ前を見据える。
「……お父様。今日、代償を払ってもらいますわよ」
私とお母様の人生を滅茶苦茶にし……そして、この国の人々を欺き、好き勝手してきた代償を。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、いよいよざまぁタイムの始まりです!(笑)
長い間、虐げてきた者たちへ、カーラはどう立ち向かうのか!?
次回もお楽しみに!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




